近海産のマイワシを煮付けにしたら、煮汁の上にたっぷり油が溜まった。濃いめの味付けは脂とよく合い、芳醇な身は馥郁として骨離れもよく、魚好きにとっては文句なしの逸品だった。考えるところがあり、夕闇を待って麻紐で灯心を作り、火を付けた。思ったとおりだった。よく燃えて明るかった。 ニシンやイワシが豊漁だった時代、有り余った魚は大釜で煮られ魚粕となり上質の飼料や肥料にされた。魚油は不足していた鉱物油の代わりに使われて生活を支えた。漁師の生活は魚だけはあったけれど、あとは貧しかった。灯りがないと晩飯が作れないし、それよりも魚を口へ運べなかった。
「生活」カテゴリーアーカイブ
447 由一ではない鮭図
せっかくいただいた前浜の鮭だ。上身にして塩で締め、切り身で保存しようと思ったがそれでは芸がない。見事な鮭だから、こいつの命をもっと有難く頂戴しようと、塩引きシャケにすることに決めた。近頃の鮭はただ甘ったるい味ばかりで、旨みの中に塩の効いた、焼いて塩汁が白く染み出しているようなやつが食べたいと願っていた。
塩蔵と風乾と時間が蛋白質を純良なアミノ酸に分解し、出来るなら鼻を擽るアミンもあってと考え、とシャークベイの天日塩を多量に用意し、出刃を研いで事に臨んだ。鰓と内臓を取り腎臓はメフンに、眼窩にまでも塩を詰め込んで一週間、滲出した生臭汁を捨ててよく洗い、小一時間塩水につけて塩出しし、あとは冷たい風任せ。表面が干からびても取り込んで置くと身の中の水分がにじみだす。また風乾。半月経って出来ました。辛口のシャケ。
「本物の辛口のサケが少ないとお嘆きのご貴兄に」、いかがかな、手作りが一番ですぞ。 高橋由一の鮭図に倣って,旨そうなところを貴兄に一本進呈。
446 タコまんま
445 馬頭観世音
有珠山の山頂、洞爺湖町の街並みを望む、道の駅「アプタ」の裏山に馬頭観音がたくさん並んだ小さな公苑がある。1805年江戸幕府直轄の官営牧場がこの付近から伊達市黄金に至るまでの広大な「牧」=牧場が作られた。その時馬の守護を願って作られたのが馬頭観音の碑。やがて松前藩の支配になって「有珠虻田牧」となった。 1822年(文政5年)3月12日、有珠山は地震発生後3日で山頂噴火となり、火砕流はこの付近を飲み込んだ。火砕流はアプタコタンを焼失させ、牧士の村田父子をはじめ死者82人、牧馬の斃死多数とこの地の海岸寄りの有珠善光寺の記録にある。ここには今に至るまでに建てられた使役馬、競馬などの馬の碑が多数集められている。さらに有珠山の2000年噴火の人々の避難生活の際死んだ「ペットの碑」も建てられている。
444 小さな入り江「ポンマ」
アイヌ語のポン・マ(=小さい・入江)に由来する地名。北海道に散在する「ポン・モイ」と同じなのだろう。まことに小さく穏やかな入り江だ。入り江から続く奥の平坦地には「ポンマ遺跡」がある。縄文の昔からここは人々が生活の場として使い続けてきた入り江だ。7~8千年前の有珠山の山体崩壊でできた流山地形がそのまま岬になり入り江となった。名づけて7千年入り江。数百m離れて有珠山からの豊富な伏流水も湧出していて、昔ならずとも、自然豊かで温暖なこの地に居を構えたくなる。目の前は豊饒の海。一世紀も前、もし私が放浪の身でここにたどり着いたら、きっと膝を打ってここに終の棲家としたであろう。身内のことを話せば、明治の初め、秋田を離れこのあたりに辿り着いた私の曾祖父はたまたまここを知らずに、静狩に腰を据え漁師となり、やがて網元となった。静狩もここに負けずにいいところだが。
443 霧を湛えた大鍋
442 常緑のシダ、コタニワタリ
およそシダらしくないシダで、単葉の裏には褐色で平行な線上の胞子嚢群が並んでいる。固い紙質で厚みのある葉は常緑で北国のイメージと結びつかない。7,500年前に有珠山が山体崩壊して噴火湾になだれ込み、流山地形は小島や半島になり、有珠湾を構成した。入り江を取り囲む林は海水の影響で極端な低温にはならず、このことがコタニワタリの生育を助けているのかもしれない。磯の香と漁網を干す臭気に包まれながら、形のそろった艶やかで見事な葉の群落にしばし見とれていた。有珠湾の入り江の海の生態系は北海道でも特異的に貴重な存在であるが、有珠善光寺付近の植生を含め、海の影響を受けた植物相もまた大切に保護されるべき自然であろう。
441 ハスカップのシロップ
ハスカップはアイヌ語由来小指の先ほどの小果実で、スイカズラ科の和名クロミノウグイスカグラ。シベリア,北海道の湿地に固有の灌木で、我が家の株は一大原産地の勇払原野、厚真(あつま)の庭師さんから入手したものだ。4株あって5月の半ば、まだ風が冷たいうちに白い花をつけ、ちょうどサクランボウのシーズンに重なって実を付ける。 シロップは水とグラニュー糖を等量で作りかなり甘く、計量カップ1杯の摘みたての実を入れて冷蔵し、時折撹拌すれば長く楽しめる。今回、季節外れに使ったのは7月末に摘み取って冷凍しておいたもの。美味しく甘酸っぱく、何よりも色がいい。ヨーグルトの上では洒落たマーブル模様を演出し、カクテルではどのリキュールとも合う。二色のアイスクリームのトッピングなど格別で、そうだ、付け合わせのビスコッティを作ろう。