768 キタキツネ

キタキツネ夕食の洗い物をしていた女房が、「あら、キツネ」といった。カメラをひっつかんで30秒ほどの出来事。たそがれ時、ISO4000、1/6秒のピンボケ写真。尾も太く、痩せてはいない。キツネは音をたてずに歩く。夕闇のなか滑るように軽く、ふっと息を飲む間に向うの麦畑へ姿を消した。10年も前なら良くやって来ていた。小さな町だが少しだけ家が建て込んだ。野生が懐かしい気がする。

767 東湖畔トンネル見学会

東湖畔トンネル前にトンネルの入り口を紹介した(ブログ701、705)が、延長463mの内275mまで達したという。切羽での見学には火山マイスターも15名参加した。掘り進む地盤には、湖岸をガードしているいわゆる「力岩」の硬い溶結凝灰岩は無く、比較的柔かい洞爺火砕流堆積物との説明を受けた。有珠山の噴火時の迂回路もかねての道道・滝之町伊達線なり、工期は2018年3月までだという。

766 遠い雪山

旭岳遠軽町・白滝から旭川へ向かう途中、左手に延々と連なる雪山を見た。比布大雪PA(上り)には展望広場が設けられていて、大雪・十勝山系の大眺望が楽しめる。なんといってもひときわ大きな三角錐、大雪山の主峰・旭岳だ。右に目を転じるとトムラウシ、さらに美瑛、十勝岳と北海道を代表する峰々が屹立している。広がる野面は五月の若緑。まだ雪を頂く山脈は眩しく神々しい。

765 残ったものは

尖頭器白滝ジオパークの遠軽町文化財センターで尖頭器づくりの講習を受けた。ここには国内最大の後期旧石器(30.000~12.000年前)の遺跡群と出土品の展示施設がある。使った材料は白滝赤石山の扱いやすい褐色系の黒曜石。指導は超名人。厚さ2㎝、6×10㎝程の黒曜石を鹿角で端から叩いて削り落としてゆく。鋭く硬いが、頁岩とは質感が違う。

いくつも失敗し、失敗から学んでゆく。それしか方法はない。細部の加工に悩む。「方法はいくつもあります、さあどうしますか」。戸惑う。判らない。微に入り細にわたる指導があって、翌日また失敗。そんな繰り返しだったが、数日を経て、解決法がじわーっと浮き上がってくるところがぎりぎり前進というものなのだろう。1個の素材からたくさんの剥片を散らかしてやっと一個の尖頭器ができた。

黒曜石剥片力のコントロールや打撃の角度がうまくいくと大きめの剥片ができる。並べてみると打点、打瘤、打瘤裂痕、リング、フィッシャー、すべて解説書の通りだ。熟達した動作は的確な成形につながるが、鹿角の使い方がうまくゆかず、良い剥片ができない。残った剥片は多くを語る。

旧石器時代の遺物は製作途中や破損したもの以外、この剥片が中心となっている。完成した石器は持ち出されてしまう。道具も作り手も住居跡も、万年という時間に溶け込んで何も残らない。剥片をジグソーパズルのように組み合わせて「接合資料」とし、そこから持ち去られた中身(本体)と加工のプロセス、テクニックを推測する。

しかしこうやって手ごろな何かに腰掛け、左の手のひらに黒曜石を持ち、用心深く右手の鹿角ハンマーで目的とする形に加工していると、その瞬間、同じ ヒト として旧石器人と心が繋がったように感じてしまう。時空を超えた不思議な感覚だ。

白滝の湧別技法で知られる石刃や細石刃の加工などは、私にとってはまだまだ先の話だが、白滝埋蔵文化財センターの皆さんには本当にお世話になりました。

764 汗の石

汗の石明治初期十勝の平原に開拓の手が入って、計算すると130年。十勝川や音更川の流域を肥沃な農地にするには原始林に手を入れることから始めた。伐採、抜根、運搬、馬、農器具、操る人達の筋力と汗。 音更川近く、どこまでも平坦な農地の境目に、累々と積み重ねられた礫の山を見つけた。耕すたびに地表に現れるこぶし大から枕の大きさまで。この平野が氾濫原だった証しでもある。

763 収穫へのキャンバス

黒い大地柔らかな陽ざしを受け止め、黒い大地はエネルギーをため込む。使い込まれ、豊かな滋養をため込んだ土壌は、馥郁とした蒸気となって昇華する。いのちを育むまさしく温床。北の穀倉十勝平野に播種の季節がここに始まる。樹々は芽を吹き、カワラヒワもやってきた。さあ、これからが農家の腕の見せどころ。経験と汗で豊饒を創りだす、黒くて真っ平ら、地平まで続く大アトリエ。

762 音更川の 黒曜石

音更川の 黒曜石 Obsidian =黒曜石に憧れて音更(オトフケ)川へやってきた。十勝平野の河原で目にする黒曜石(黒曜岩)は音更川上流の十勝三股十三の沢、タウシュベツ川を供給源とする。それは200万年前の噴火に由来するという。その後の音更川による平野形成の中で広範囲に拡散した。昨年の台風10号の出水で河原は更新され、半日でこぶし大を20個程採取。200万年の時を濃縮し、掌上の深い漆黒はひときわ奥深く重い。

761 クサソテツ(コゴミ)

コゴミワラビもゼンマイもシダ類だが、コゴミはあくがないので食べやすい。日陰に強くやさしい葉が好きで、植えておいたら地下の匍匐茎でたくさん増えた、春を食べるのだ。茹でると色とリズム感のある姿が新鮮で、白い大皿に映えて名脇役だ。この時期旬のサクラマスにアレンジしたら極上の一品。散歩途中でいくらでも摘めるお手軽野草。フキノトウ、タラの芽。田舎暮らしは贅沢だ。

760 黄砂

黄砂春霞ではない霧でもない周囲の風景が朝から覚束なかった。伊達の海岸に出てみると風景は古い写真のようにセピア色。気象衛星の写真には朝鮮半島の付け根から日本海を横切り、道南まで延びる黄土色の帯がはっきりと写っている。黄土地帯にある高気圧から樺太の低気圧へ、偏西風も関わって、大陸から島国日本への、絵にかいたような大気の流れだ。アルトリ岬を遠くに望む。

759 昆布岳

昆布岳頂上がコブ状に残っている火山。浸食が進んでいるが独立峰。1045mのそれほど高くないが特徴ある山頂なので、この地方ではどこからでも確認できる。湖面の波は深い水の色を屈折して青く暗い。それがゆえにこの山はモノトーンの景色に明るく浮かぶ、ひときわ優し気な春の山だ。手前に浮かぶのは四つある中島のうちの弁天島。あとひと月ですべてが緑の世界に衣替えとなる。