136 ニッチの神様

オニグモ 8本脚だから昆虫ではない。クモ・蜘蛛(ちちゅう)類の、これはオニグモ。北国を代表する親指の頭ほどの体躯の大型のクモ。子供の頃一人でいるときは良くこれで遊んだ。転がして丸くすくんだのをカニを捕まえるように剛毛の生えた肢ごと摘まみあげ眼を近づけて観察した。そう言えばこいつは蟹類に近い。毛ガニほど大きなクモなら美味しいかもしれない。空を飛翔したりはしないが、想像もしえない中空と言う空間に生活の場を獲得した偉大なる覇者。

135 トルコ玉の秘密

ノブドウ この実が食べられないことは誰に教えられることなく、子どもの頃みんな知っていた。いつもある野生の色としては群を抜いて違和感のある色と思っていた。トルコ玉の色を知ったのはずいぶん後のことなのだが、いまでも草むらで見つけてハッとする。この植物、ノブドウ本来の果実は小さく緑色だが、タマバエ類の幼虫が住み付いたことで出来た虫えい(虫こぶ)に由来する。こんなに目立つ色を持つ理由は生態系の中でどのような意味を持つのだろうか。

134 いにしえの味

モチキビ 秋の楽しみの一つはこのトウモロコシ。ブルーブラックのインクがしみこんだような「モチキビ」。ホロホロと粒が締まっていて食べやすく、歯に纏いつく感触とほのかな甘みが何とも言えない。豊かな旨さがあるのだ。親指の腹全部を使って横もぎをすると芋虫のような形になって掌に転がる。黄色で軟らかく甘さを誇るだけの今のは私にとって全然ダメ。甘けりゃいいというものではない。糖度を競う甘いだけで青臭さのないトマトも同類だ。「昔はよかったね~」。

133 野生の香り

カラハナソウ 収穫を終えて乾燥中のアズキの畑を見に出かけたらこの通り風にそよぐホップの野生種カラハナソウのつるを見つけた。アズキ畑の向こうは壮瞥の町。栽培種のものとは違うというが、なんとなく気になる存在だ。農文協の「趣味の酒作り」には野生のホップの雌花を使うと載っていた。ビールに芳香と爽快な苦み、雑菌の繁殖を抑え、泡立ちを良くするという。いいとこ尽くめだがそう簡単にはいかないだろう。含まれる天然酵母を利用してドブロクを作ろうか。

132 ポルチーニ!

ポルチーニ とうとう今年最初物のポルチーニ、ヤマドリタケ。いつものお目当ての場所だが暑さが続いたせいか出現は遅かった。画像手前のは直径20cm位の堂々としたもので虫食いなし。厚くスライスしてバターでこんがり。焦げ目がサクッと歯触り良く、ナッツの香りがして思わず膝を打つ旨さ。残ったのは明日、やっぱりパスタだろうな。たっぷりとオリーブの実とバジリコを使って。でもね、実によく似たドクヤマドリが気がかりなのだよ、諸兄。

131 地味な隣人 ヤチダモ

ヤチダモ この季節、はるか遠くからでも気になるのがこの樹の果実。種子が入った翼果は桃色を帯び黄色く陽に映えて、濃緑の葉の中に花が群がって付いているようで、この時期だけはひときわ目を引く。湿地を好むのでヤチダモ「谷地梻」。ハルニレ、センノキなどと並んで北海道を代表する樹だ。材は杢がはっきりしていて木工品に使われる。トドノネオオワタムシ(ユキムシ)はトドノキの根で単為生殖で数世代を過ごし、初冬、ヤチダモを目指して風に乗り飛行する。

130 先史を釣る

チマイベツ川 この小さな流れ込みは法的にはサケが遡上する川とは認められてはいないらしい。禁止区域の規制がないため、季節になるとサケとそれを狙う釣り人は毎年忘れずにこの川へ集まる。知里真志保・山田秀三「室蘭市のアイヌ語地名」(1960)にはチマイペッ・オッ・イ(焼乾鮭・多く・有る所)とある。小屋掛けして冬の食料を得た時代があったのだろう。水源は深い森にあるが河口の水量は少なく昔日の面影はない。遠く有珠山、昭和新山が望まれる。

129 南国の仇花(あだばな)

ホテイアオイ ホテイアオイの花が咲いた。夏にはピータン甕を水蓮鉢に見立てて水を張り金魚屋からこの水草を買う。こんなに見事な花が咲いたのは初めてだ。よっぽど暑かった夏なのだ。もとは熱帯、亜熱帯の植物だが温暖化と人の手により生息域を広げ世界中で増えて環境を壊している。日本では関東地方まで北上中だ。よく似た植物で古来から知られたミズアオイが北海道でも可憐な青い花を咲かせるがこちらの花は日本中で激減している。撹乱と侵略の世界。

128 夏の終わりに

夏の終わりに 保健センターのたたきの上にスズメバチの死骸が落ちていた。家の庭にはこの夏一つだけ咲いたヤマボウシの実がぶら下がっていた。湖で潜ったときに拾った錆びたスプーンにのせた。

斜めからの陽が影を作った。

127 秋めいて

昭和新山 長かった暑い夏も、景色の中ではやっと秋の気配。昭和新山の煉瓦色のドーム下の屋根山には葉を落としたドロノキが浮き立つように良く見える。パイオニアツリーとして発芽し、60年経った今、一抱えもある大木に育った。無から始まって60年経った森は三松正夫の遺志のままにいよいよ深く、そして着実に遷移の道をたどっている。粗い火山灰の混じった手前の畑はハナマメの適地だ。隣の畑ではアズキが見事に実った。どちらも壮瞥町自慢の逸品。