ベニテングタケ Amanita muscaria に今年も出会えた。心がときめく瞬間である。夏の盛りのは、暑さに負けてすぐに姿も色も崩れてしまう。秋もおしまいの頃、いくつもの鮮やかな紅色のキノコが菌輪を作って私を招く。妖精たちの輪 fairy ring だ。森の陰であのカーマインスカーレッドに出会うたびにその瞬間、脳髄のどこかが「クラッ」と傾く。食べなくても十分にある種の幻覚作用を持っている。
夏の木の下闇に、人知れずみごとな緑色の花を咲かせるオオウバユリ Cardiocrinum cordatum var. glehnii は、秋になると大きな蒴果(さくか)をつけ、1個の蒴花には5百個以上の種子が重なって入っています。蒴果は乾燥するとはじけ、種子は風に載って飛び散ります。子どもたちは「キツネの小判」と呼び、風に飛ばして遊びます。アイヌ語でトゥレプといい、鱗茎からでんぷんを採って保存食にしたといいます。
雪を載せ、寒気の中に佇む蒴果。木枯らしに種子を載せ、次世代に遺伝子を託し一仕事なし終えた蒴果。
ただただ、静謐な時間が過ぎてゆきます。
一つの蒴果は三つの部屋に分かれています。一室分を数えたら185個の種子が入っていました。概算合計で1個の蒴果に555個の種子。
だとすると、この「キツネの小判」、〆てこれで555両。1mほどの長い花柄にいくつもの蒴果がついていて、これを松明のように振りかざし、小判をまき散らします。 走れ!子どもたち。 大地への大盤振る舞い。