3 絵に描いたような

ベニテングタケベニテングタケ Amanita muscaria に今年も出会えた。心がときめく瞬間である。夏の盛りのは、暑さに負けてすぐに姿も色も崩れてしまう。秋もおしまいの頃、いくつもの鮮やかな紅色のキノコが菌輪を作って私を招く。妖精たちの輪 fairy ring だ。森の陰であのカーマインスカーレッドに出会うたびにその瞬間、脳髄のどこかが「クラッ」と傾く。食べなくても十分にある種の幻覚作用を持っている。

 

2 五百五十五両

 

オオウバユリ夏の木の下闇に、人知れずみごとな緑色の花を咲かせるオオウバユリ Cardiocrinum cordatum var. glehnii  は、秋になると大きな蒴果(さくか)をつけ、1個の蒴花には5百個以上の種子が重なって入っています。蒴果は乾燥するとはじけ、種子は風に載って飛び散ります。子どもたちは「キツネの小判」と呼び、風に飛ばして遊びます。アイヌ語でトゥレプといい、鱗茎からでんぷんを採って保存食にしたといいます。

 

オオウバユリの蒴果

雪を載せ、寒気の中に佇む蒴果。木枯らしに種子を載せ、次世代に遺伝子を託し一仕事なし終えた蒴果。

ただただ、静謐な時間が過ぎてゆきます。

 

 

 

蒴果の中の種子一つの蒴果は三つの部屋に分かれています。一室分を数えたら185個の種子が入っていました。概算合計で1個の蒴果に555個の種子。

だとすると、この「キツネの小判」、〆てこれで555両。1mほどの長い花柄にいくつもの蒴果がついていて、これを松明のように振りかざし、小判をまき散らします。 走れ!子どもたち。 大地への大盤振る舞い。

1 温泉の化石

温泉の化石 豊浦の三番磯で赤く変色した岩石で構成された崖を見た。岩肌はベージュから亜麻色、オーカーからベンガラ色、ところによっては臙脂色までも含めて見事に仕上がっていて、上出来な色見本帳をめくっているようだ。 ここはかつて、地下からの熱水によって変性された岩石の色が露出しているとのことで、いわば、「温泉の化石」とも言えるのだそうだ。 切り立った露岩の頂上にミズナラの一株が秋の日を浴びて、これもまた赤銅色に輝いていました。