359  名残りの花殻

イワガラミ洞爺湖畔の周遊道路から湖水までの狭い林は国有林。人の手は入らないから自然のままの四季を味わえる。ふと見上げるとイワガラミの花の残りがぶら下がっていた。萼片が1枚付くのがイワガラミ。近くには萼片4枚のツルアジサイや北海道ではサビタという名で知られる、つる性ではない灌木のノリウツギも見つかった。三種ともユキノシタ科。この冬、強風が吹かなかったから残ったのであろう。

358  季節の力

キバナノアマナ人の踏みこまぬ静かな洞爺湖畔で、落ち葉を持ちあげる小さな花を見つけた。キバナノアマナだ。重なる病葉を突き破って命が萌える。気が付くと、いくつも見える落ち葉のふくらみはみなそのような春の力で持ち上げられていることに気が付いた。季節とは廻って来るカレンダーの月日や時間の経過ではなく地表を覆う命そのものの循環。また春がやって来た

357  有珠山の雪

有珠山の残雪有珠山の山頂付近にまだ雪が残っている。北海道でもサクラのニュースが聞こえてくるが、このところの数日どこかで足踏みしている。この地方の農家では「有珠山の雪が解けて、カッコウが鳴くと何を植えても心配がない」という。今年は例年よりサクラは早いというけれど、今回、日本海にそってサクラ前線と一緒に北上する旅をしてきた私にとってはいささか複雑な気持ちだ。

356 蒼い空

眼近くの家で輓馬が保養している。本当に大きな馬で、人の頭くらいの大きさの蹄を持っている。私を見てくれている。近寄ると顔を持ってくる。優しく穏やかな眼だ。頬を撫で頤を掻いてやる。瞳を動かさず、私の眼をじっと覗き込んでいる。数秒、私の心は洗いざらい見透かされてしまったと思った。眼には蒼い空と有珠山と私が映っていた。あとひと月もすると、この眼にはどこまでも広がるタンポポの原っぱが映るはずだ。

355  函館市に応援を

大間原発津軽海峡フェリーで函館へ。斧の形の下北半島の刃のあたり、仏ヶ浦の沖から建設中の大間原発のクレーンが見えてきた。遠目にも巨大な工事現場だ。豊かで上質の自然の残っているところを狙って、開発と称して巨大開発の手が伸びる。まして原発。日本は火山と地震の国。大陸の安定した地盤とわけが違う。電源開発はひっそり進めてきたが対岸の函館市が工事差し止めの訴訟を起こした。頑張れ函館。

354  肘折カルデラ

肘折温泉最上川中流域の地滑り地帯を車で探っているうちに肘折温泉まで辿り着いてしまった。名うての豪雪地帯だそうで雪がまだ解け残っている。直径2km、川で3つに分断されているが地形図でみると見事なカルデラだ。この下にはマグマ溜まりがあって活火山に指定されているというから、要するにここは大きな生きた火口の中にある温泉だ。向こうの二つの山と、撮影地点も含めてぐるっと一回りカルデラ壁にあたる。

 

 

353  旨いもの

シロガイ金沢に来ている。金沢漁港の「いきいき魚市」でシロガイとホタテを見つけた。ひときわなつかしく美味そうだった。市民の台所といわれる近江町市場でも毛ガニとともに名脇役だ。藩政時代から300年近く続くこの日本有数の市場で、ここの鮮魚や金沢野菜、名物総菜と肩を並べて、引けを取らぬ北海の味だ。すべてバターにあう、ガーリックにもオリーブオイルにも。パスタにいいぞ。

352 雪の下の世界

雪の下の菌糸厚く積もっていた根雪が解けて去年の落ち葉があらわれた。湿った葉の表面に白い蜘蛛の巣のような糸とそれで出来た網が見える。これは菌糸だと考えた。マイナス数度、光の届かぬ湿度の高い環境の下でこの生き物は繁茂した。落ち葉を分解し土へ戻すきっかけを作ったのだろう。数日もせずにネットは春の陽に焼かれて消滅する。生命の星では立ち止まらず倦む事も無く、間違いなしに命は継続する。

351  地中の繁栄

s-DSC_3309植えつけて3年目のルバーブをわが家へ移植することになった。根が大きいと見繕ってスコップで少し大きめに掘り起こし始めたが、豈図らんやこいつの根は太く四方に蔓延っていて、一抱えもある根茎を掘り起こしたが随分勿体ないことをしてしまった。恐るべしタデ科植物。たった3年でその三倍もの年季を得た灌木の強勢の根の風貌だ。根あればこそ地上の隆盛も頷ける。今年の夏はジャム作りだな。

350  岬の色

アルトリ岬落ちる日を追って車を駆ってとうとう海まで来てしまった。見ている間に日は落ち、茜色の空と海だけが残った。手前の黒い岬はエントモ、その向こうの黒い島のようなのがアルトリ岬。福田火山マイスターのネイチャーハウスがつけ根に小さく見える。雪を残し蒼く険しく海に落ち込んでいるのが礼文華峠から延びるイコリ岬。それから写万部山。いくつものアイヌ民話を乗せて蒼く闇が迫る。