はじめに
有珠山をめぐる散策路やフットパスの周辺で、間近に見られる植物を季節に応じてまとめたものが「有珠山の植物」です。このカードに載っている植物を目安に、有珠山の自然の仕組みとその魅力をひもとくきっかけになれば幸いです。
有珠山はこの100 年の間に4 回もの噴火を繰り返し、そのたびに山容を変え、また噴出物によりそこに生息する生物が構成している生態系に破壊的な影響を与えてきました。数十年ごとの噴火は山頂、山腹の異なる地点で起こり、それぞれの噴火後の植生の回復も着実に進んでいます。
私たちが歩く有珠山の緑の環境は、どこをとっても森林が形成される過程にあるか、古くても数100 年に満たない比較的若い植生によって成り立っていると言えます。そのため、近隣の山地の植物相と比較すると、生育している植物の種類もさほど多様であるとはいえないかもしれません。しかし、それは植生が再生し、遷移し、極相へたどる過程にあるからであり、それは同時にその道筋を観察できるという恵まれた土地柄であるともいえましょう。
例えば、有珠山にはササ類が少なく、それと相まって開けた林床にはシダ類の生育が目立ちます。やがてはササ類が着実に進出してくるのでしょうが、ひょっとするとまた噴火が起こり植生をかく乱させてしまうかもしれません。この山では人の手があまり加えられないまま、生き物たちがその時の環境と折り合いをつけながら、より安定した生態系へと変化してゆきます。
巡ってくる季節の中で見られるひとつずつの種類を通して、その種名を知り生き方をさぐってみましょう。ほんの少しの時間をさいて、心にとまった植物のそばに立ちゆっくり観察してみると、有珠山の自然の特徴が見えてくることでしょう。
加賀谷 仁左衛門