庭の雪が融けたらフクジュソウが咲いている。雪の下の暗闇で目を覚まし明るくなるのを待っていた。体内時計は確実に機能している。昨年は3月14日だった。光刺激なしに冬季の休眠期間を終えるシステムは何なのか。開花への機序を解発する物質は?陽を受けると花弁は凛として反り返り、花はパラボナとなって光と熱を蕊に集める。花心の匂いに集まった虫達は花粉を運び、ことは着々と進んでいく。いよいよ春だ。
月別アーカイブ: 2012年3月
60 紐
室蘭、電信浜の近くに住むY老人から、浜に打ち上げられたという紐をいただいた。海草などと一緒に打ち上げられていたのだという。もつれを解き、水で洗って丁寧に巻いてある。海水に浸かっていても、この丈夫な合成繊維の紐は劣化が遅く、人の手を離れた紐やロープは海の中でも海辺でも、今では厄介で目障りなごみとなっている。
人は昔から綱や紐をよく使った。なければ暮らしが成り立たなかった。近くの山から樹を伐り、枝と組み合わせて家を作ることが出来たのも、強靭な蔓や縄で材料を目的に合わせたいろいろな結び方が工夫された結索法があってのことだ。農作業でも、草や木の繊維をうまく利用し、綯い、編み、より強靭な紐とし、目的に合わせ多用した。平素の生活でも伝えられてきた応用力は潤沢だった。刈った稲を束ねたのはそのまま稲藁だった。海の仕事に至っては船の上でのロープ捌きから、網の編み方、釣針の結び方にたつきと命がかかっていた。釣り糸は天然の絹糸である。旅する人にも行李がついて回り、「行李結び」があった。すべて知恵と手仕事が暮らしを支えていた。私たちはそれを文化として受け継いできたはずだ。日々の衣食住に蝶結びがあり男結びがあり、子どものころから親に繰り返し教えられた。荷物を送るにしても、今ではずいぶん簡略化され、即席で、便利になった。その反面、私たちはどこかに「紐」と、それをうまく扱う指先の「技」を置き忘れてきたらしい。
私はいまだにロープや細引き、紐類をため込む習性がある。人様に荷物を送るときにも、小包用の麻紐で梱包するのが習慣になっている。「習い、性となる」なのだ。Yさんもきっと紐を捨てられない人なのだろう。感謝しながらも、頂いた紐を手にしてつくづく考えた。はて、何に使おうか。相手は土にかえりにくい丈夫すぎる紐だ。
59 雪残る
58 時を撃つ
57 ヒツジが一匹ヒツジが二匹
56 飛んで飛んで回って回って
55 レモンとクルミ
湘南の陽射しと海風を受けて育ったレモンとオレンジが知人から届いた。濃い照葉の中に黄金色が輝く果樹園の光景を思いながら、はて、どうやっていただこうと考えた。思い立ったのが旬のオーガニックレモンを使ったレモンピールだ。皮ごと苦さを味わえる。それと私の住む壮瞥町に開拓の時代から受け継がれている美味しいクルミ。これをコラボさせて強い味のドライジャムに仕立てよう。コンセプトは「大地の息吹」だ。
レモンとクルミ、しっかり者同士をくっつけるにはスパイスも必要。シナモン、ジンジャーはよく使うので、今回は敬愛するシュウォーツ爺さんのレシピを参考にコリアンダーを使ってみる。出来た味は苦く酸っぱく甘く、ローストしたクルミの香りが鼻に抜ける。ミンスミートのようなガツンとくる味だ。エスニックかつマイルドなのは仕事人コリアンダーの業。クラッカーにたっぷり載せてもよいし、春野菜のサンドイッチはどうだ。生地に混ぜ込んでビスケットやリーンなパンもいい。春だね、何かを作りたくなる。