100 撹乱の果てに

ジギタリス 家から見える草地の向こうの土手に赤い花が咲いていて、行ってみたらジギタリスだった。どこからか種子がやってきて野生化している。手前はよくあるフランスギク、向こうの白いのはマツヨイセンノウ。近くにはビロードモウズイカも長い穂を付ける。イギリスのごく一般的な図鑑を開いて見たら全部当たり前に載っていた。北海道での外来植物の蔓延は相当なものだ。一度野生化した生物はまず駆逐できない。由来はどうあれ可愛いね。嫁に来たら家族だよ。

99 うまみを濃縮

ホタテのスモーキング ここのジオパーク、陸水もあれば海もある。豊かな海の幸で知られる噴火湾は内浦湾の呼名もあって、四季折々、みごとな食材が膳を賑わしてくれる。前浜で採れるホタテは滋味豊かで実に甘い。それをサクラで燻してみた。天日塩のみ、他に一切味付けはなし。旨くないわけがない。濃縮された風味は口いっぱいに広がり、燻香は鼻に抜ける。5月あたりに出回る稚貝は、肝臓ごと強めに燻す。寒中は生殖巣が見事に大きく、ほっくりとしてこれがまた旨い。

98 四羽の子ガラス

子ガラス 松の樹に住まうお隣さんが子供を引き連れてきたら、何と4羽だった。食べざかりの子ガラスが腹をすかせて親はもう大変。去年は3羽で、一羽は足が悪かった。親は今年で4歳、写真右奥、親離れさせたくって怒って頭の毛を逆立てているのが父親。その手前が母親。子は草を引っ張ったり何かをつついたりして遊び呆けているが母親は時折、所帯やつれか一羽で呆然としている。

97 草を引く―ヤブマメ

ヤブマメ 庭の日向や陰りからいろいろな植物が顔を出す。藪にするのもいやだから、膝を折り、頭を突っ込んで、素手で草を引く。袖は露に濡れ、指先は土まみれ。昨年は手を抜いたせいでヤブマメが大発生した。この種はハギに似た解放花のほかに、地下の閉鎖花に小指の先ほどの豆を付ける。縄文びとは身近な食として食べたようだ。アイヌ語では「アハ」といい、秋や春先に収穫、保存もできたという。「かてめし」にでもしようか。取り去るか残すか思案中。

96 一夜限りの

ヒトヨタケ sp、 「ひとやねて、くやしやきみのふたこころ、うらみてはなく、うらみてはなく」こんな判じ文を思い出した。昨日はまだ小指の先ほどの、名前知らずのヒトヨタケ。朝の雨をほつれた傘に乗せ、今日はもう、自らの酵素で身の内から溶けはじめてこの体たらく。一夜で溶けてゆく覚束なさは、哀れなのか見事なのか。恨みをつぶやく暇もない。でも闇に紛れて襞という襞から胞子を落とし、次の世代はいま、どこか土臭い世界で眠りについている。

95 大有珠の岩塔

大有珠の岩塔 有珠山にロープウェイで登るとまず目につくのが大有珠の岩塔。1977年噴火前は大きなドーム状だったが、噴火に続くオガリ山の隆起で大きく変形して、揺れに揺れ崩れに崩れて残ったのがこの岩塔群。いずれも無名の岩。写真左上の赤茶けた部分は、159年前(1853年、嘉永6年)の大有珠ドーム誕生と同時に持ちあがった素焼きの煉瓦。昭和新山の赤いドームと同じ由来だ。

94 金銀珊瑚の

キンギンボク 眼下に噴火湾を望む有珠山の南外輪、風通りのよい遊歩道の左右にキンギンボクが花を付けている。甘い香りに昆虫が集まっている。開花直後は白色、やや時間がたつと黄色みが増し、盛夏、真っ赤に熟して二つ癒着したヒョウタン形の実を付ける。別名ヒョウタンボク。はるか足もとに見えるアルトリ岬の海岸にもこの群落がある。ここと同じような環境だ。だがここは35年前の1977年山頂噴火で植生が失われている。何処から運ばれてきたのだろうか。

93 クモの子を散らすように

クモの子 有珠山南外輪の遊歩道。日当たりのよい乾燥した草原に、孵化して間もない子グモの集団がいくつも見つかった。この季節はこの子たちの旅立ちの時。網の上で離散集合を幾度か繰り返し、風が吹いたくらいの何かの拍子に、同じく生まれた兄弟達がそれぞれの方角へ散ってゆく。別々な運命をたどって数匹残れば終わり好し。過酷な世界が待っている。クモの子達に幸あれ。

92 思い出のアンニンゴ

シウリザクラ シウリザクラが咲いた。桜とはずいぶん趣きが違っていて、調べて見るとより北方系のグループらしい。新緑の木陰に浮かぶ純白の総状花序はひときわ印象的だ。近似種のウワミズザクラの若い花序を塩で付けた「アンニンゴの塩漬け」を人からいただいた。30年も前の話だ。杏仁霜の香り、サクラ餅の葉を幾倍にもした濃厚で芳醇な香りが鼻に抜けた。今でも鮮明に思い出す。

91 幕の下りないエピローグ

有珠山火口群 有珠山の南外輪を歩いた。ホウノキの若葉の向こうに1977-78山頂噴火の 火口群が見える。12000mに達した大噴煙を立ち上げたのは、写真奥の小有珠の手前にできた今は無くなってしまった火口。その後の一連の噴火で手前の銀沼火口群が誕生した。もっとも激しく見える噴気はI(アイ)火口で300℃近くもあり、35年前の噴火の余勢をかってまだまだ地殻のエネルギーを誇示しているようだ。エピローグの幕はまだ下りてはいない。