150 ベニテング一家勢ぞろい

ベニテングタケ ベニテングタケの赤ん坊から壮年までの勢ぞろい。前出のは老年だろうからこれで一族総出演ということだ。紅色の傘の上の白点は傘を包んでいた「つぼ」の名残りだ。昔はハエの捕殺に用いられたと言うが、毒性は激烈ではないと言う。でも毒キノコのサンプルみたいな蠱惑的な色は、何を意味するのだろうか。虫を呼ぶ誘因のための色なのか、動物への警戒色なのだろうか。

149 アカミヤドリギ

アカミヤドリギ 洞爺湖岸の月浦にある森林公園に出かけたら、大風で落とされた色とりどりの落ち葉の中に、アカミヤドリギの一枝が落ちていた。近くには宿主となっていたイタヤカエデの黄色い葉を付けた太い枝もある。荒れた後の見つけもの。果実はヒヨドリ、レンジャクなどの野鳥が好み、未消化の種子は粘液の糸を引いて鳥の肛門から樹の枝へと絡まり、そこで発芽し根を張ることとなる。

148 晩秋熔岩山(らばやま)

晩秋の昭和新山 晩秋の嵐が去った後、色付いた屋根山の紅葉もあらかた飛んでしまっていて、灰色の梢の中に疎らに見えるだけだ。西からの風があるせいか東斜面の噴気はまっすぐに上がっている。雨が浸みこんだこと、湿度があること、そして気温が下がったことの三拍子があって、一段と元気そうな今日の昭和新山となった。逆光に照らされた水蒸気は盛んだった往年の山頂を思わせる。

147 釣りの情景

釣りする人々 日本全土で四季折々、釣りごころある老若男女が釣りに呆けける。いや釣果で糊口を凌いでいるのかもしれない。北海道室蘭の港。ここではワカサギの10倍も質量のある「チカ」と言う、旨い魚を釣る。「唐揚げだけさ」と謙遜するけれどその香ばしい味はなかなか。三枚にし干して炙って食すれば、キスの旨さをも凌ぐ濃厚な旨味が戻り香となって鼻孔に伝わる。釣人はそんなことなど考えず、一心に釣りをする。今日は南の強い風。北国の和みの一日。

146 黴の花

ベニテングタケ ひとはベニテングタケと呼ぶけれど、本来は Amanita muscaria というカビ。日本のみならずヨーロッパ、北アメリカ、今では全世界的に蔓延している担子菌類だ。世界中の暗く湿った土の中で、針葉樹や広葉樹の根に絡みついて共生する菌根菌である。しかしキノコはカビの花、地表に現れた表向きの顔。だがこの面構えを見よ。それは胞子を風にのせ終えて、まだ立ちつくす強面な野伏せり。ぼろぼろになりながら急流に朽ち果てる雄鮭に似てないか。

145 秋日和そして冬

秋日和 色付き始めた有珠山山麓の広葉樹。ナナカマド、カエデ、カンバ類。中ほどの山は洞爺湖中央に浮かぶ中島の西山(454m)だ。洞爺湖カルデラの広大な台地の向こうに羊蹄山(1892m)が裾野を広げている。秋と冬が混在した風景。北海道の自然は本州中部でいえばプラス1000mの気候と言われる。頂きの冠雪は徐々に麓に降り、樹々は葉を落とし、かくして北の自然は順次時を進ませて、ひと月もするとやがて冬を迎える。

144 忍者の樹

忍者の樹 人が樹に?樹が人に?。自然はこれだから面白い。見る人によって樹に抱きついているのは、一人ならず3人まで増えるから不思議。4年ほど前に見つけたら、仲間の知恵者がが“忍者の樹”と命名してくれた。この樹の和名はごく普通のイタヤカエデ。幹に絶妙の襞が出来て忍びの者と間成った。自然の妙、というよりは人の心理の曖昧さ、都合のよさ加減からくるのであろう。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」。

143 火山の基本形

洞爺湖西山 秋の中島、みごとな三角山、西山溶岩ドーム454m。湖面は海抜84mだから頂上まで371mを登ってたどり着く。5万年前に激しい噴火を繰り返しながらいくつもの山頂と島を作った。水との接触で出来た爆裂火口のマールも存在する。写真左手の桟橋岬(仮称)の左手の湖岸もマールだ。西山溶岩ドームは成長しながら岩塊を転げ落とし、火山特有な角度「安息角」を形成した。誰が見ても火山と分かるプロトタイプ。

142 森からの頂き物

タマゴタケ 手ごろな大きさのタマゴタケを採った。トドマツと広葉樹の混交林。幼菌は白い卵形のツボを持ち軸は橙色、カサはことさら赤い。Amanita hemibapha の種小名は“半分染めた”の意味。ヨーロッパ産は A. caesarea と言う別種で帝王シーザーの名を持つ。 美味なキノコとして有名だが、Amanita属にはよく似ている過激な毒菌もあって判別が難しく、安易に食べてはいけない。

141 名残の意匠

ヤマシャクヤク 洞爺湖の中島で出会ったヤマシャクヤクの実。初夏、半日陰の林で出会う白く柔らかで大きな花弁は、庭の園芸種より幾倍も美しく感じる。過日の中島には、この花で埋め尽くされる場所があったそうだ。特徴のある花柱は袋果となって秋に裂開する。反り返ったマゼンタ色の袋果に載る濃紺の種子と、不稔の未熟種子のカーマインスカーレットのマッチングがひときわ眼を引く。末枯れてゆく季節の中に残された、暑かった夏の日の滲んだ血の一滴。