224 二万年前を歩く

ドンコロ山火口ドンコロ山の北火口壁を歩いた。有珠山と同じ頃(約2万年前)に出来たスコリア火山だ。均一なスコリア噴石の堆積で出来ているので、2万年の風雪の中で南半分は流れてしまっている。しかし火口外壁からはこの小ぶりの火山の概略が良くつかめる。とろけてしまう前の生成時の火口は見事だったのだろう。壮瞥の町並み、昭和新山、有珠山、洞爺湖を見渡せる、まだ緑の無い落葉樹林からの眺望は見事なものだ。

223 梅干

梅干し知人宅へ自家製の梅干しを送った。2010年収穫の3年物だ。器量は良くないが味に深みが出ていて、この辺りが一番美味しいかな。10年前、当地へ越して来た時に頂いた「豊後」の古木。5月の半ばサクラと一緒に咲いて、8月初旬に収穫、1ヶ月漬けて9月の晴天を選んで2、3日干す。ほんのり色付いたのを地下室で1、2年熟成させる。一般に、北海道では収穫の遅れからか、干さずに「梅漬け」として食べるようだ。

222 北へ逃げたダフネ

ナニワズ北の落葉樹林の明るい南斜面にナニワズが咲いている。北海道には数少ない常緑の花木だ。夏には葉を落とすので「ナツボウズ」の異名がある。スプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)=春の妖精 の木本バージョンだ。Daphne 属、だとすると、ジンチョウゲ属、沈丁花の仲間だ。川の神の娘ダフネはアポロンの求愛を逃れて、やがて樹に姿を変えたという。春先の林床に秘められた隠しきれない恋の残り香。

221 もしかしたら

ドームなしの昭和新山朝、ふと窓越しに見た昭和新山に、いつもの熔岩ドームが無かった。朝霧のいたずらだ。だが、ふと考えた。1944年11月下旬、噴火を続ける屋根山の7個の火口の中央部から熔岩塔が隆起しなかったら、この風景であったろうと考えた。昭和新山の北西1.3kmの有珠山山麓に潜在ドームをもった東丸山が有る。規模は小さいがこの形だ。東丸山の誕生はいつだったのか。素人目にはそんなに古いとは考えられない。噴出物なしの新山形成の可能性はどうなのか。

220 生き残ったセンノキ

ハリギリ(センノキ)昭和新山を見上げる洞爺湖湖畔にハリギリ(センノキ)の大木がある。胸高直径1mになんなんとする威丈夫だ。1944年、激しい噴火を繰り返していた昭和新山の7月11日、第3火口からの第5次爆発は強烈なサージを伴った。三松正夫の「昭和新山生成日記」によると、

「この噴煙は北方洞爺湖畔部落に押し倒し、猛烈な熱雲となって地上を渦巻き、火口より湖岸まで2km、幅1.5kmの農地と、十数戸の農家に大損害を与え、湖畔の保安林を倒してさらに湖中に吹き進み12kmの対岸洞爺村に達し、「向洞爺」の農作物に大害を与え、午前11時25分間歇爆発となった。爆発途中より大雷雨となり、噴煙は粘性高き泥雨と化し、万物に付着したため、植物に致命的大害を与えた。噴石もまた多く、径20~30㎝の大石が火口500mに飛び、字西湖畔大寺寅吉氏宅3棟は熱石により焼失した。熱雲は湖岸樹林の半面を焼いたが、その温度は60℃内外と思われ、途中避難した農民は軽い熱傷を受けた。熱風は地上の砂礫を吹き飛ばし、これが窓ガラスに銃弾貫通孔のような穴をあけたり、磨りガラス(ママ)のように暈を付けた」

と、昭和新山の噴火の凄まじさを物語る記録として残されている。無くなってしまった湖畔の保安林は、現在、後に植林されたトドマツの並木となっているが、その中にこのハリギリのように何本かのたくましく生き残った大木を見ることが出来る。

219 縁あってこの地に

コタニワタリコタニワタリ。谷の湿った空間をあちらからこちらへ、適した環境ならばそこで命を繋ぐ。胞子は縦横無尽、風に乗り水に流れて至る所に漂着するのだろうが、そこを終の棲家とするための因子は何なのか。日本海側に偏る分布は積雪に関係するのであろうか。雪が積るから越せるのか。昭和新山の然もありなん場所で見つけたが、有珠山にも洞爺湖中島にも室蘭にも分布する(原松次、尾崎保)。常緑の単葉シダ。

218 溶岩ドームの本体

溶岩ドーム昭和新山の南西斜面。69年前(1944年)、隆起しはじめた屋根山の噴火口の中心から溶岩ドームがせり出した。噴気の左の大きな黒い壁面が露出したドームの本体だ。ケイ酸質を多く含み地下で固まった高温の溶岩はそのまま上に乗った大地を煉瓦として焼きあげ、長流川由来の河原の玉石ごと頂上部を作った。赤く見えるのが天然煉瓦。山頂に玉石を見ることが出来る。

217 フキノトウ

フキノトウフキノトウが開いている。その向こうは雪の下で倒れていた麦の茎が陽を受けて続き、遠景は有珠山と昭和新山。風は軟らかく、枯れ草と土の匂いがする。三月そして四月、雪の下で待ちに待っていた生きものたちが一斉に蘇る。どこかでヒバリの声がする。懐かしい緑の季節の到来だ。ここは伊達市から壮瞥の立香へ続く丘陵、有珠山、昭和新山を見渡すには第一級の場所だ。

216 剪定作業

剪定作業必須アイテム我家のサクランボウとリンゴの選定作業が始まった。合わせて30本の内、半数は太い樹なので脚立に上っての作業となる。晴れ、時折吹雪、風あり、気温は10℃くらい。毎年のことだ。残りの作業はブドウ、プラム類とハスカップ、ラズベリーなどの低木で気が楽だ。近くの専業果樹園さんはあらかた作業を終えている。あとひと月ほどでこの町は、大地も樹木もとり囲む山々も、すべてが花でおおわれる。

215 いのちの「ミウラ折り」

ルバーブ根雪のとけた跡でルバーブの新芽を見つけた。縮緬模様のたたみ皺そのままに、満を持しての登場だ。燃え立つ炎のような春の色はみなぎるエネルギーを与えてくれる。このたたみ皺、よく見たら「ミウラ折り」だ。二重波形可展面という展開様式のみならず、可展面そのものが湿った土の下の新芽という微空間の中で、自律的に自己形成された所にすごさがある。時空を折りたたんだ四次元的所産だ。「大黄折り」。知的財産権・意匠権はダイオウ=大黄にあり。