333 兆し

洞爺湖明け方は冷え込んだが空気は軟らかく、どこかに春の匂いがする。光もぐんと強くなって風もない。車で5分という地の利を頂いて、洞爺湖へ出かけた。岸辺の雪は少し溶けてはまた凍り、かたく締まっていて歩きやすい。湖面に落ち込んだミズナラの飛沫(しぶき)氷の向うに羊蹄山が輝いている。まだ2月末、北海道の春はまだ遠いが、この青空の向こうに微かな兆しがあるようだ。

332 凍れる命

シャクナゲ軒下のシャクナゲが凍っている。明け方は-15℃を下回る。萎れ、干乾び、凍てついて、常識からいったら解凍とともに組織はつぶれ形を失うはずだ。しかしこの植物はこうやって生きてきて、今年もまた春の日差しの下で復活する。辛うじてでも生き残った花芽は約束のとおり白く輝く花をつけてくれる。自然のしくみを疑ってはならない。時を受け入れ成り行きに任せる強さも必要なのだ。

331 今日の眠り

リンゴ果樹園壮瞥の町はリンゴ果樹園で知られている。北海道開拓使によって明治13年に300本植えられたのが始まりで、明治19年、橋口文蔵(札幌農学校=現北海道大学初代学長)が留学先のアメリカで仕入れた知識を持ちこんだのが始まりだ。あとひと月もすると枝打ち、剪定作業が始まる。手前の樹も向うに続くリンゴ畑も、例えば手前の樹の上に延びた細かい枝はすべて剪定し枝を整え、5月の若葉と6月の開花の時期を待つ。いまはひたすら眠っているけれど。

330 ムール貝

ムラサキイガイホタテガイを養殖する浮玉に付着したムラサキイガイ。噴火湾のホタテ養殖の副産物だが誰も手を出さない。出汁もよく出るし身の美味しさも格段なのだが。ヨーロッパの海岸地方では人気者だ。市場原理では収穫量と手ごろな大きさと手間の安直さ、あと押しをする食の文化が必要だ。ムール貝の流通量はまだ低い。この種が日本にやって来たのは7、80年前だという。在来種ムラサキインコを駆逐しながら増えている。

329 旬のニシンで

春ニシン新鮮この上無いニシンを12尾買ってきた。開いて塩をまぶし重石をかって締めたのをローレル、ブラックペパーと会津本郷窯のニシン鉢に漬ける。天日塩をたっぷり振り水を足して過飽和の食塩水に浸しこむ。ひと月もしないで完成。牛乳に漬けて塩抜きし、生でも酢でもお好み次第。一年も漬けるとアンチョビーと同じくとろりと口に溶ける逸品となる。パスタのベース、茹でたジャガイモのトッピングにしても口福の極み。

328 洞爺火砕流堆積物

洞爺カルデラ堆積11万年前の巨大噴火によってできたカルデラが現在の洞爺湖だ。この時の火砕流は火砕流大地となって洞爺湖の北西に続いていて、その断面は堆積露頭として存在する。ここ、洞爺湖の南東、伊達市の長流川の浸食によって出来た崖面にも露頭が確認できる。崖の下部の河床から上の鉄塔までの高さは約60m。洞爺湖火砕流は中間の横に続くラインより上部で、下部の堆積は別くちの火砕流の堆積だという。

327 ゆめちから

ゆめちからブレンド北海道産超強力粉の「ゆめちからブレンド」を生産地十勝から頂戴した。安定した生産性を持つ秋播小麦としていま注目の品種である。蛋白量11.5%の粉だ。早速、山型食パンを作る。粉1kg、乾燥酵母(Saf)12g、バター50g、砂糖10g、天日塩20g、水620g。1次発酵60分、パンチ後30分、2次発酵40℃80分、焼成200℃35分。型は13×26×13 cmで丁度生地2本分。よく膨らみ美味しいパンとなったが、やや暗い色ともっちりしすぎもまた生地の特徴である。

326 関東降雪型

関東降雪型の天気図14日から15日にかけて、東海関東の南岸を通過した低気圧の影響で、関東では記録的な大雪となってしまった。甲府で114cm、河口湖で143cmと言う。8日にも大雪だったので、関東など雪かきの道具のない暖かい地方では大変だったろう。この低気圧は昨日から今朝にかけて東北、北海道にも雪を降らせ、突風も伴った。温暖化が進むというが、全体が均一に暖かくなるわけではなく、水も大気も流動力学での撹乱の中にある。その中でのバラツキや変動幅が大きくなって私たちの前に現象としてあらわれる。(気象庁天気図)

325 暗い海

渡島駒ケ岳暗い海の向こうに渡島駒ケ岳が寒風に霞んで見える。ここからは富士山型の砂原岳(1112m)が見えるが左肩に剣ヶ峰(1131m)も淡く見えている。1640年この山は5000年の眠りを解いて山体崩壊を伴う噴火をし発生した津波は20分後には対岸(ここ胆振沿岸)を襲い700人以上の死者が出たという。直線30kmの距離だ。鉄路敷設の前には連絡船が運航していた。この時期行き交う船も渡る鳥の姿も見えない。

324 山巓暮色

有珠山たっぷりと雪を載せた大有珠山頂に、落ちんとする冬の夕日が当たった。岩塔がよく見える。その右奥、積み重なった岩塊の辺りが山頂だ。左奥の稜線は1977~78年の噴火後、1982年3月まで続いた潜在ドームの隆起によりできた有珠新山である。右手前への稜線も潜在熔岩ドームで、その集合体としてこの火山が成り立っている。7000年の眠りを破っての1663年の噴火以来、有珠山は数十年ごとの噴火を繰り返している。次の噴火は間もなく?