23 里山のジンジャークッキー

クルミ お馴染みの堅果(けんか)、クルミ。この辺りには栽培種の菓子グルミ=テウチグルミと野生のオニグルミが生育しています。写真左が菓子グルミ、右はオニグルミ。どちらも滋味あふれる香ばしさがエゾリスや野ネズミなど、野生の生き物の命の糧です。カラスは車に轢かせて食べたりもします。もちろん私たちも大好き。里山の神様の膨らんだポケットにいっぱい入っています。

菓子グルミ(テウチグルミ)を割る 菓子クルミ(手打ちグルミ)は簡単に割れます。私は梅割り器を使っています。オニグルミは硬く、その上実が取り出しにくいので、金槌、千枚通し等が必要です。でも、それがまた楽しみ。里山の神に感謝しながらゆっくり作業を続けます。2種のクルミ口に運ぶと微妙に味が違います。その辺りが分かるだけでも嬉しくなります。秋、落ちて表面の果肉が黒く腐食した頃を見計らってたっぷり拾い集めます。収穫した実は翌年まで使えます。

クルミのいっぱい入ったジンジャークッキー  クルミのジンジャークッキー(径5㎝のもの約25枚)。たっぷりのバターとジンジャーの香りの中にクルミの香ばしい存在感が楽しめます。 薄力粉 250g、 ジンジャーパウダー 15g、 剥きクルミ 100g、 バター 150g、 グラニュー糖 150g、 とき卵全卵 40g。 ジンジャーパウダーを使わず、生姜をすり下ろして使っても良いでしょう。クルミの量、バターの量、生姜の量を変えながら、自分の味に仕立てるのも楽しみです。

生地を作ります ① 粉とジンジャーパウダー、クルミをボウルの中でていねいに混ぜておきます。 ② 軟らかくしたバターをよく練り、これにグラニュー糖をよく混ぜ込み、さらに卵を少しずつ加えて混ぜます。なめらかなクリーム状になったら、①と合わせます。ミキサーを使わず、ボウルと泡だて器を使っても簡単にクリーム状になります。①と合わせた後、木べらなどで生地をよく練っておくと、後で切り分けるときに形が崩れません。

溶き卵、グラニュー糖でコーティングし、切り分ける ③ よく捏ねた後、直径4cmほど(焼きあがりは一まわり大きくなります)の棒状に手でまとめ直してラップに包みます。冷蔵庫で2時間以上ねかせておきます。 ④ とき卵(全卵・分量外)でコーティングし、さらにグラニュー糖(分量外)の上を転がして、厚さ8mm位に切りそろえます。 ⑤ 180℃で15分ほど、ようすを見ながら焼きます。冷めると、ジンジャーの爽やかな香りがたち、晩秋の里山を味わう滋味あふれるクッキーとなります。

 

19 アンチョビーを作る

うまみ凝縮アンチョビー 去年の11月、とびっきり鮮度のよい地物のカタクチイワシが手に入ったので、すぐさま天日塩で漬けこんだ。その後、塩を落とし頭を切り取ってフィレにし、漬けなおしてアンチョビーとなる。それから2ヶ月、良い味に出来上がってくれた。熟成が進んでいるので容器に丁寧に詰めてオリーブオイルを満たして完成。手造りの最上の逸品である。

天日塩で脱水されたカタクチイワシ しっかりとした歯ごたえ、いつまでも口の中いっぱいに広がって残るうまさとほんの少しの生臭さは、手前味噌ではなく、今までに食べたどのアンチョビーより、はるかに濃厚な味となってのデビューとなった。ここの海、噴火湾からの賜物、小さく軟らかなイワシは濃密な味を持つ極上の食品へと進化してくれた。海からの塩と小魚と,少しの時間ががうまみを凝縮させてくれたのだ。人はこうやってうまいものをこしらえてきたのだ。地方を代表する自慢の味はどれを取っても骨太かつシンプルさが真髄。

オリーブオイルに漬け込んで 私のパスタはいつもディ・チェコのスパゲッティー二。パスタのソースにはアンチョビーとガーリックの下味は欠かせない。アンチョビーの乗ったピザも私の好物。でもこれからは地元の魚で作った地産地消のオーガニック食品、我が最強のアンチョビーでいこう。そうだ、このシーズンには、脂ののっていない小ぶりのニシンがある。次にはこれが間違いなくアンチョビーへ、いいえ、塩漬けヘリングへと変身だ。まだあるぞ、タラ子のボッタッルガもいい。スローフードの国イタリアには負けてはいません。

12 いよっ!十三男爵

メークイン( May Queen)と男爵(Baron)のお揃いのカップル。ジャガイモ界の正統派。  寒くなりました。これからの季節、イモ好きにはたまりませんね。北海道では、いま20種類を超すジャガイモが作られているのだそうです。ジャガイモは茎が塊状に太ったもので、眼(芽)が順番に並んでいます。川田男爵に会ったことはないけれど、 私の大好きだった伊丹十三映画監督は、よっぽどジャガイモ好きだったようで、マーナ・デイビス夫人のすばらしい訳本をこの世に残してくれました。私の宝物となっています。Pigs In Blankets(毛布の中の豚)、ポテト入り Flowerpot Bread(植木鉢で焼くパン)、はては Anya’s Tatra Poteto Pudding (アニヤ式ポテトプディングタトラ風) など、わけのわからない料理―しかしレシピをよく見るとこれもひときわ美味しそう― まで、洒落たレシピがたくさん載っていて、くいしん坊を十三ワールドへといざなってくれます。  家の地下室には大袋に入った洞爺火砕流台地産ジャガイモがたっぷりとひと冬分有ります。今晩は冬の嵐、風の音を聞きながら十三レシピのイモ料理でも作るか。ポテトブック

 

11 ジオパークリンゴ オールスターキャスト

リンゴオールスターキャスト去年のちょうど今の頃、雪まじりの寒い日にこの絵ハガキを作りました。壮瞥のリンゴ園を回ってかき集めた種類が21種類。でも、肝心の「ほくと」が抜けていたのです。「ほくと」とは北斗七星のこと。昨日、洞爺湖畔のリンゴ園で見つけ、22種類がそろいました。まだまだ、秘蔵のリンゴを育てているリンゴ農家があるのでしょうが、私にとっては「壮瞥ってすごいな~」です。これぞ、北のジオパークの「大地の力」です。

5 「そばぐり」を集めて

ブナ最後の氷期の寒さで姿を一時的に北日本から消したクリやブナは、縄文時代に入って約6.000年前に北海道に再上陸したと考えられています。ブナにかぎって言えば、今の黒松内低地までさらに北上したのは350年ほど前のことだというから、北海道南部といえどもブナの繁殖に適した土地ではなかったらしい。クリの方はその点、縄文人に受けが良かったらしく、3.500年前ころには札幌低地まで生活域を広げてしまったという。大島直行先生は「縄文人たちはそんなにクリを食べてはいなかったはずだ」と言っているが、、。 ブナの実は小さくシイの実を三稜持つ形に潰したみたいで、地方によっては「そば栗」という。拾い集めるのはなかなか大変。でも命にかかわる食べ物のこと、そこにあれば一生懸命集めます。特に子供などには適した仕事だったはずだ。そのあたり五千年前の長閑な小春日和、どうだったのだろう。

ブナの堅果思い立って洞爺湖の向こう岸、仲洞爺の直径70cmはあるブナの大木を訪ねた。白さび模様の引き締まった胴をピタピタと叩いてみた。堅いようでどこかやさしく、冷たいけど血が通っているような命そのものを感じる。 「実生が育たなくってネ」と持主は言う。一本だけ若木が育っているので見るようにという。根の周り一面に敷きつめられた、形の良いオーカー色の葉をかき分けるとたくさんの実が散らばっている。小さく滑っこい実は、大人の指先には似合わないなと思った。子どもの小さな手、一握り分を見つくろって数えてみたら24粒。白い身が入っていてクリの味がするとものの本に書いてある。 食べてみようと思い殻を開けてみたら、空だった。すべて空だった。「充実」していない。こんなこともあるのだ。物事ってすべてこうだ。やってみなければわからない。