352 雪の下の世界

雪の下の菌糸厚く積もっていた根雪が解けて去年の落ち葉があらわれた。湿った葉の表面に白い蜘蛛の巣のような糸とそれで出来た網が見える。これは菌糸だと考えた。マイナス数度、光の届かぬ湿度の高い環境の下でこの生き物は繁茂した。落ち葉を分解し土へ戻すきっかけを作ったのだろう。数日もせずにネットは春の陽に焼かれて消滅する。生命の星では立ち止まらず倦む事も無く、間違いなしに命は継続する。

350  岬の色

アルトリ岬落ちる日を追って車を駆ってとうとう海まで来てしまった。見ている間に日は落ち、茜色の空と海だけが残った。手前の黒い岬はエントモ、その向こうの黒い島のようなのがアルトリ岬。福田火山マイスターのネイチャーハウスがつけ根に小さく見える。雪を残し蒼く険しく海に落ち込んでいるのが礼文華峠から延びるイコリ岬。それから写万部山。いくつものアイヌ民話を乗せて蒼く闇が迫る。

349  碧色の翳

s-DSC_3295根雪の下から軟らかな土があらわれ、もう幾種類もの花が咲き始めた。お寺の南向きの土手のフクジュソウは今年も見事に咲いている。春分を過ぎた光は秋分前の9月10日頃、そう残暑の頃の日の強さ。パラボナは焦点を蕊に合わせ、集められた光の粒子はいやがうえにも振動し発光する。純金の反射光は何故に碧の翳を持つのか私は知らない。誘き寄せられた黒い虫たちは、この反射炉で焼かれ溶かされ昇華する。

348  庭の妖精たち

クロッカス今年の雪は遅くまで残り、しかし一週間もかからずに大気と地面の中に消えていった。薄汚れた病葉を突き破って青白い尖った芽が持ち上がったと思ったら三日も経たずに輝くオレンジ色の蕊が弾けた。スプリング・エフェメラル。春の光に踊る一瞬の妖精たち。

347  水の下の大地

力岩融雪の季節なのに洞爺湖の水位が極端に下がっている。壮瞥滝がこの湖の唯一の吐き出し口で有った時代には落ち口より水位は上がらなかったろうが、もっと沖合まで露出したこともあっただろう。現在は北海道電力が水利権を握っていて、法的にはバケツ一杯の水も勝手にできない。沖の岩はいつも船の上から覗き見ている「力岩」。滝を支える大岩盤だ。大減水も有ったであろう大昔の風景に出会ってみたいものだ。

346  復活の日

オツネントンボこの冬は大荒れの日は無かったものの-23℃を経験した。春の日が一段と強く感じられる今日、庭の敷石の溶け残った氷の上にオツネントンボを見つけた。暮れの木枯らしが吹く前にここでたくさん見かけたがその片割れなのか、翅もいたまずゆっくりと身体を動かしている。自然はあるときは膨大な数の命を一瞬に奪うが、小さな命の堅守もする。この確固たる復活を見よ。今年もまた無数のいのちがここから再生する。

345 いつものキレンジャク

キレンジャク毎年この時期、伊達の街にキレンジャクの群れを見る。私の住む山間の盆地とは異なり、ここは開けた平坦な市街地だ。写真の群れは30羽くらい。シメより大きくムクドリともまた違う。はじめてこの一群を見た時、インコかと思った。ヒレンジャクもやって来るが「黄」が圧倒的に多い。連尺(連雀)とは背負子のことで、そのような商人の群れ、言うなれば「群れなす渡り鳥」と繋がった名称らしい。三鷹市下連雀に知人がいる。

343  歴史を乗せて

壮瞥川の鉄橋太平洋戦争の末期、1943年12月28日の地震が昭和新山噴火の始まりであった。その頃の胆振線は胆振縦貫鉄道株式会社経営の私鉄であった。実際に噴火したのは1944年6月23日で、その日が国有鉄道への移管の調印式であったという。噴火前後から線路がゆがみ、軌道は数百m東へ移され、昭和21年9月13日の第七次線路変更まで必死の保線作業が続けられた。この鉄橋はその後1986年11月1日の廃線に到るまで使われたものである。

342  持ち上げられた鉄道

三田スケッチと現状国鉄胆振線は昭和新山の隆起で数十m押し上げられた。現在は鉄道遺構として橋脚が残されジオサイトとなっている。噴火50周年記念写真集には生成直後の昭和21年に東北大学学生の三田亮一氏が書き残したスケッチが載せられていて(右の図)、植生のない斜面にはっきりと橋脚が描写されている。氏は6年後海上保安庁「第五海洋丸」に乗り込み明神礁の調査中大爆発にあい31名ともども帰らぬ人となった。

341  ネコヤナギの樹

エゾヤナギいち早く春を感じ取って、ふくよかな綿毛をつけている通称ネコヤナギ。黄褐色の枝先に親指の頭くらいの花穂(かすい)の銀毛がひときわ目につく。雌雄異株の花序である。英名では Catkinといい、やはりネコ由来の言葉だ。 写真の樹は樹形や枝先の色からいって種としてのネコヤナギではなく、エゾヤナギではないかと思われるが、葉が出て大きな托葉を確認しなければならない。エゾノバッコヤナギもまたネコ毛を持つ。早春の悩ましい所だ。