518  雪かと見紛う

ドロノキの綿毛カラマツの新緑の上にやんわりと降り立ったのは、小さな種子を抱き込んだドロノキの綿毛。ここは1944年に噴火した昭和新山の裾野で、七十年前に新山からの火砕サージが通り抜けた跡地だ。噴出物の荒れ地に風に乗ってやってきたパイオニア植物群の中にドロノキも含まれていた。林道のあちら側、陽の当たっているのがドロノキ。ここで育ち、ここで種子を散布している

517  振り向いたハヤブサ

ハヤブサ日高の海岸、崖地の植物を探していて、岩壁から伸び上ったらそこにハヤブサがいた。数mの距離。互いに「ヤア」といった感じだが、あちらの眼にはどう映ったか。偶々20秒ほどの時間を共有しただけなのだが、きっと私のことなどすぐに捨て去り狩に専念したのだろう。

515  豊作を願って

 収穫を願ってこの町の特産品オオフクマメの農作業が始まった。壮瞥町と隣の洞爺湖町で全国の生産量の半分をまかなっているという。甘納豆、煮豆、和菓子の必須材料だ。遠カッコウもしきりに鳴いて遅霜のおそれもない。エゾハルゼミの声とともに緑の濃さが増す。手前は大きくなり始めたビートの葉。これは砂糖の原料となる。遠景は壮瞥の市街。その手前は長流川の林。好い季節となった。

514  鷗の家・マスイーチセートマリ

マスイ・チセ・トマリ急な斜面を下りてマスイチの磯に立った。鷗の家(マスイ・チセ)の入江(トマリ)。向うの立岩に鷗の巣がある。忘れられたこの浜までの道は荒れていて、小さな砂浜はハマヒルガオやハマエンドウの絨毯となっていた。半世紀以上前、遠く渡島駒ヶ岳の見えるこの入江で、泳ぎ、潜り、釣りをして一日を過ごした。独りのことが多かったと思う。風景はまったく変わっていない。

510  大有珠ピナクル

大有珠ピナクル1977年の噴火前の大有珠は球形のドームと前立山のワンセットで「土瓶と土瓶の口」に例えられていた。噴火では揺れに揺れ崩れに崩れて、鋸歯状の稜線となった。遊歩道から見ると、大岩に前後していくつかの岩塔が立ちあがっているが、それぞれに名前はない。画面右1/4程のところの岩の堆積の間に空が見える。これは窓岩といっている。

509  安息角

安息角有珠山ロープウェイ山頂駅までの6分間の途中、こんな風景を見た。北北東、30km先の羊蹄山(1893m)と7km先の洞爺湖中島の西山(455m)が重なった。火山は一般に噴出物が堆積してできる。岩石片やスコリア、火山灰などが堆積した斜面は結果的に安定した角度となるという。その角度を「安息角」と言うのだそうだ。力学、工学に関わる物理学用語だが、妙に納得する。

 

505  リンゴの秘密

リンゴの花寒かったり暑かったり、北国の五月を彩るリンゴの花。気取りなくいつもの通り咲いているけれど、この蕾の紅色は何だ、花弁を抜ける紅の糸はどうだ。蕊の黄色はどんなからくり。丸く赤いリンゴへまっしぐらにあと150日。てらいも妥協もなく,花を捨てたリンゴはひたすら完結へと向かう。待っているよ、あの味、あの香り。

504  有珠善光寺

有珠善光寺開基は826年というから、北海道では珍しい古刹である。文化元年(1804年)、様似の等澍院(天台宗)、厚岸の国泰寺(禅宗)とともに建立された蝦夷三官寺のひとつでもある。1882年の有珠山噴火では辛うじて難を逃れた建物である。7500年前の岩屑なだれでできた流山地形に囲まれ、有珠山溶岩の配置があたかも石庭のような趣を見せる。

503  浅い眠り

羊蹄山5月11日、正午の羊蹄山。風はなく高曇り。大陸からの黄沙も止んで、洞爺湖の彼方、旧洞爺村の向こうに残雪を抱いた大きな羊蹄が見える。低い山には緑が戻り、これから万緑の季節を迎える。1万年前の火口を頂上に持つ若い火山。今は眠っているが目覚めはいつか。形も成り立ちも駿河の富士に似た、ここは蝦夷地の後志(しりべし)の富士。

502  シコタンタンポポ?

シコタンタンポポ?室蘭の自然が残っている砂浜でタンポポの在来種を見つけた。シコタンタンポポらしい。エゾタンポポは平地、丘陵地や里山などに見つかるが、海岸線にはない。苫小牧市美術博物館「タンポポ調査2014」に苫小牧海岸のセイヨウ、エゾ、シコタンタンポポの報告がある。

伊達市から苫小牧までの十か所ほど、砂浜に続く草地を調べてみた。室蘭市のほか、昔からの風景が残る登別市の海岸では群落も見つかった。件の苫小牧の現地からも確かに在来種系を見つけだしたのだが、私にはシコタンタンポポと同定する的確な資料の持ち合わせがない。

梅沢俊さんの「新北海道の花」では *北(胆振~根室地方の太平洋側)となっていて、分布域は当てはまるけど、詳細は載せていない。日本の野生植物(平凡社)の図版と解説には納得するも疑念が残り、フィールドでは個体差に惑わされ、ますます混乱してくる。近年になって分布域が広がったのか、身近すぎて確認が遅れてしまったのか。

T. shikotanense 色丹島。千島、根室からどこが南限なのか。渡島半島まで歩かねばならないか。ひょっとすると下北は、などと要らぬ推測まで頭を持ち上げる。考えるだけでもワクワクだ。