653 有珠山ゴチック

有珠山ピナクル久し振りの有珠山遊歩道。ロープウェイ山頂駅を出て火口展望台へ向かう。大有珠の山頂近く、岩塔が歩くに従っていくつも見えてくる。この尖塔(ピナクル)はまだ名前を持っていない。山岳用語のピナクルもバットレスもゴチック建築に対応する用語だ。まさしく有珠山ゴチック。江戸時代末期に誕生した大有珠ドームは、1977からの噴火で揺れに揺れ、崩れ残ったのがこの大伽藍。

652 かはたれの月

新山の月まだ闇が残る早暁午前4時。昭和新山の上には月が残っている。北国の夏は早くから夜が明ける。まるで白夜のようだ。月を写しに開拓記念公園へ向かった。月齢は17日の月でまだ丸い。北西から冷えた風が流れ込んできていて、新山ドームの蒸気が月を覆わんばかり。人の姿も見えず小鳥も啼かない。冷えた6月の人はまだ熟睡の時刻。

651 ハシボソガラス

ハシボソガラス6月14日から我が家の庭にやってくるハシボソガラスの親子。左端が母親で、つがいがこのテリトリーを持って確か8年目。この2年間はハシブトガラスと競合したのか孵化に失敗した。今年は3羽孵化した。これから、ねだっても餌をあまり与えなくなる。親より太った子ガラスは痩せながら自活の試練を迫られる。この母ガラス、歩くとき右足を引きずっているようだ。親は大変だ。

650 赤銅色に

コウリンタンポポ森の緑は濃さを増し、空ではアマツバメが弧を描く。タンポポの黄金色はいつの間にか育ち盛りのギシギシやノラニンジンに換わった。隣家の草地にコウリンタンポポの群落を見つけた。10年前にはほんの数本だったのに。地面にひれ伏すロゼット葉は刈られや踏みつけに強い。シロツメクサ、ブタナも見える。将来、赤銅色のコウリンタンポポが北海道の初夏を演出するかもしれない。

649 フタスジヒトリ

フタスジヒトリ背面フタスジヒトリ腹面ベージュに黒のストライプ。粋な色合いのヒトリガ科の蛾だ。種小名の bifasciata は「二帯の」の意味。目に見えるのは擬似眼で、触角の付け根に目がある。「飛んで火に入る」の火取り蛾。炎天下、道路をモコモコ横断している熊毛虫はこの仲間の幼虫でクワなどが食草。フェロモンを互いに小さな触角で互いに感知しながらの裏庭でのめぐりあい。腹太が雌で紋様も少し異なるようだ。 一夜の宿を貸したついでにそのまま自然にゆだねる。Good luck。

648 昭和新山ドーム

昭和新山ドーム田植えの済んだ田んぼに新山のドームの影が映っている。有珠山の外輪の高さ(500mくらい)に雲がかかっている。この季節、道南の太平洋岸に発生する海霧(この地方ではジリという)がやって来ている。大有珠のドームは見えないから、新山の天然煉瓦製の褐色のドームがひときわ目につく。70数年前に生長したドームは周囲に屋根山もせり上げ、この特異な形の火山となった。

647 湿原の風景

根釧原野道東の植物を追っての旅の最終日、釧路湿原を見ようと釧路町の細岡展望台に立った。花の細部にこだわり続けた五日間だったので、ここからの眺めは、近接撮影から超広角レンズへと視野が開けた瞬間であった。感嘆の声を上げようか、声を呑みこもうか。大きな風景に身体から力が抜けてゆく。誰かがつぶやく。「ここは日本ではない」大げさな、でもわかるよその気持ち。

1km先、悠々と流れる水にボートが見える。いつか読んだ、ジェローム・k・ジェロームの「ボートの三人男」を思い出した。若い日の開高健はここの下流、雪裡川で地元の画家、佐々木栄松に案内されてイトウを狙い、「完璧な、どこにも傷のない、希な一日」と漏らした。

646 シコタンタンポポ?

シコタンタンポポシコタンタンポポは北海道の道東から十勝、日高、胆振の海岸に分布域を持つという。日高、大楽毛の国道沿いにひときわ目だって咲いていた。橙色がかった大きな花冠は「5㎝を超す」と言われているが、7㎝もの大きさの花を見つけ感激した。室蘭イタンキ浜の個体(ブログ502)と合致するかどうかはさておき、このシコタンタンポポ、北辺の海辺を棲家に盛大に生きている。

だが、この地域で、しかもややオレンジ色が濃く、大きな花冠を持つからシコタンタンポポと同定したが、わたし自身、この種そのものの形態的な特徴を確認しての判断はではない。外総苞片の厚さ、形、色など、この地域でのエゾタンポポとの明確な差異を挙げられないし、生育環境でのばらつきが大きすぎて整理ができていない。

タンポポを訪ねてやって来て、黄色い曠野に踏み込み、道を失ってしまった。困ったものだ。のんびりタンポポのお酒でも造ろうか。ね、ブラッドベリー爺さん。

645 カモメよ

カモメ北の岬に立ってカモメの飛ぶのを見ていた。二十羽ほどの群。腹と翼の白い色を水面に映して、ひたすらとび続けている。行き着く場所はどこなのか、ななぜに群れるのか、私はそのあたりのことを知らない。岬を大きく回って、また次の岬を越えて飛んでゆく。

そんなに急いで、お前らはどこへ行くのだ。私を残して。

644 水平・地平

水平・地平一度こういうところに立ってみたかった。水平線と地平線が繋がってそこに自分がいる。海にも陸地にも、その向こうにもなにも見えない。こんなところが日本に残っていた。
海は埋められ岬は削られ、陸には鉄塔が建って、どこもコンクリートや鉄の塊が目に入る。それが日本の海の風景だ。古からの自然の風景を大切にしているとは決して思えない。

ここは下北半島、六ケ所村。近くで使用済み核燃料の再処理工場と港湾施設が建設中だ。この風景こそ大切に残し、子孫に伝えねばならないのに。