66 飯鮓

飯鮓 飯鮓が出来上がりました。色鮮やかに熟成しています。表面にはヤマメ、紅い身はヤマメの親のサクラマスと紅鮭。ブログ「27」「62」に経過が載っています。飯と魚と野菜と麹と塩、これらが混然一体となって乳酸発酵して食の膳に現れる。これぞ米食う文化の神髄というもの。まず漬かった魚が旨い。どこか上出来のブリーチーズの味に似ている。そして野菜、これがまた旨いのだ。

65 春は窓辺から

ミズキ といっても、窓の内側のお話。四月七日だというのに外はまた雪が降っています。先日のブログ「58 時を撃つ」のミズキの小枝をガラスの花瓶に挿しておいたらきれいな芽が出ました。とてもかわいい窓辺の春です。小豆色の枝の先に見事な新緑。生命の春です。見た目、美味しそうだけれど食べてしまうのはなんだし、雪景色を向こうに見ながら、手もとの小さな春を楽しみます。

64 春満月

春満月 六日の夕方、家人の「あっ、春満月」の声につられ、見ると雪の残る山の端に見事な満月。カメラを引っ掴んで、凍っている泥道を走りすぐに撮ったのがこの写真。この後、「月に叢雲」の風情となり、寒さに退散した。九日、十日は春の大潮で、潮位が-4cm、-2cmと一年で一番の引き潮となる。長靴を履き、ピンセットとカメラを持ち、室蘭の磯へタイドプールの観察に出かけよう。

63 ぼやぼやしていると

カワゲラ sp. 伊達市館山の雪の残る丘の上から有珠山を撮っていると、足もとを小さな虫が走った。こんな時期に昆虫か。そう言えば伊達の木村益巳さんからセッケイカワゲラのニュースが送られてきていた。その仲間の翅のある成虫だった。生物は時間的にも、場所的にもすべての空間に進出している。特に昆虫の世界はそうだ。地球は虫たちの星。でもね、ぼやぼやしていると間もなくやって来るハクセキレイに食われちゃうぞ。

62 逆さ重石

逆さ重石 飯鮓を漬けこんで二ヶ月たった(27、いずしを漬ける)。2~3℃の地下室でうまく発酵が進んだようだ。封切を待ちわびている連中も居り、私としても早く口にしたい心がつのって、レシピ通りの日数で逆さ重石にの作業となった。桶ごと逆さまにして床に置いた重しで蓋を下からおさえ、残りの重石を桶の底に載せて漬け汁を切る為の絶妙な方法だ。径40cmの飯鮓桶に8.5kgの重石。伝統の飯鮓に、これぞ定石の逆さ重石。

61 フクジュソウ

フクジュソウ 庭の雪が融けたらフクジュソウが咲いている。雪の下の暗闇で目を覚まし明るくなるのを待っていた。体内時計は確実に機能している。昨年は3月14日だった。光刺激なしに冬季の休眠期間を終えるシステムは何なのか。開花への機序を解発する物質は?陽を受けると花弁は凛として反り返り、花はパラボナとなって光と熱を蕊に集める。花心の匂いに集まった虫達は花粉を運び、ことは着々と進んでいく。いよいよ春だ。

60 紐

綱・細引き・紐 室蘭、電信浜の近くに住むY老人から、浜に打ち上げられたという紐をいただいた。海草などと一緒に打ち上げられていたのだという。もつれを解き、水で洗って丁寧に巻いてある。海水に浸かっていても、この丈夫な合成繊維の紐は劣化が遅く、人の手を離れた紐やロープは海の中でも海辺でも、今では厄介で目障りなごみとなっている。

 人は昔から綱や紐をよく使った。なければ暮らしが成り立たなかった。近くの山から樹を伐り、枝と組み合わせて家を作ることが出来たのも、強靭な蔓や縄で材料を目的に合わせたいろいろな結び方が工夫された結索法があってのことだ。農作業でも、草や木の繊維をうまく利用し、綯い、編み、より強靭な紐とし、目的に合わせ多用した。平素の生活でも伝えられてきた応用力は潤沢だった。刈った稲を束ねたのはそのまま稲藁だった。海の仕事に至っては船の上でのロープ捌きから、網の編み方、釣針の結び方にたつきと命がかかっていた。釣り糸は天然の絹糸である。旅する人にも行李がついて回り、「行李結び」があった。すべて知恵と手仕事が暮らしを支えていた。私たちはそれを文化として受け継いできたはずだ。日々の衣食住に蝶結びがあり男結びがあり、子どものころから親に繰り返し教えられた。荷物を送るにしても、今ではずいぶん簡略化され、即席で、便利になった。その反面、私たちはどこかに「紐」と、それをうまく扱う指先の「技」を置き忘れてきたらしい。

 私はいまだにロープや細引き、紐類をため込む習性がある。人様に荷物を送るときにも、小包用の麻紐で梱包するのが習慣になっている。「習い、性となる」なのだ。Yさんもきっと紐を捨てられない人なのだろう。感謝しながらも、頂いた紐を手にしてつくづく考えた。はて、何に使おうか。相手は土にかえりにくい丈夫すぎる紐だ。

59 雪残る

残雪の有珠山 今年は春が遅い、とだれもが言う。気温が低い日が続いて、次に降った雪が融けきらないうちにまた少し降る。長流川の河原ではネコヤナギが銀色の穂をつけているのだが。伊達市上長和から間近に望む有珠山の山頂部。この雪は直ぐに融けそうだ。地肌が見える部分は地熱のある場所だ。手前の崖は数十メートルの高さを持ち、約4km続く。地質図によると非アルカリ苦鉄(マグネシウム・鉄)質火山岩となっている。古有珠山の噴出物なのだろう。

58 時を撃つ

ミズキのパチンコ ミズキは昔から身近な木だった。何と言っても形がいい。直立した幹、小豆色も艶やかに水平に広がる枝。昔、親から頼まれ繭玉の枝にも伐ったが、Y字型の枝でパチンコを作るのが一番だった。なんでも標的にした。廃屋の錆びた煙突、空き缶、野犬も撃った。今、この歳にして肥後の守を握り、糸の端を咥えパチンコを作る。完成した武器を手に春の野に出た。弾は金魚鉢の小砂利。が、撃つものがない。風が吹く。

57 ヒツジが一匹ヒツジが二匹

オニグルミの葉痕 言われてみればそれに見えてくるもの、身近で面白いのが葉痕。ヒツジに見えるでしょう、上にももう一匹。これはオニグルミの葉が落ちた痕。去年の春は児童館の子供達とこれを見つけて遊びました。・・・ヒツジが二十七匹、ヒツジが二十八匹・・・。早春は葉もなく枝の先までよく見えて子供達は大喜び。やがてヒツジたちは軟らかな新芽の下に陰に隠れ、下草も茂って林の繁みの中のどこかに溶け込んでしまいます。