116 トチノキ婆さん

トチノキ婆さん アイヌ語ではトチの実を「トチ」、幹を「トチニ」と言うそうだ。縄文の時代からその実も材も生活に繋がっていた。実は食料に幹は臼や杵になったと言う。洞爺湖中島のフットパスでトチの実やその厚い殻皮が落ちていたらその斜面にはきっと大きなトチノキが有る。トチの老木を見つけ皆で記念写真を撮った。トチは灰汁抜きが難しく食料としては日常から姿を消したがフィールドでの存在感は抜群だ。トチノキのお婆さん、おいしいトチ餅を御馳走してよ。

115 緑青スプーン

緑のスプーン 暑い日が続き、たまらなくなって洞爺湖で泳いだ。穏やかに広がる湖岸の緑を眺めながら澄んだ湖水に潜るのは贅沢の限りだ。切り立った岩棚から深みに落ち込む碧さはたまらなく美しい。水深3mほどの砂の上に緑色のスプーンが落ちていた。古くから沈んでいたらしく、すっかり酸化して緑青に覆われている。

 以前、洞爺湖への流入河川はカルデラ外輪からのものだけで、流出は壮瞥滝のみであった。1939年に長流川から導水をし3カ所に発電所が作られ、上流の黄渓にあった鉄・硫黄鉱山から強酸性廃水が流れ込み、1970年にはpHが5.3まで低下したと言う。現在、国が巨額を投じて中和処理を行ない、これは半永久的に継続してゆく。だが、有珠山の1977と2000年の噴火では噴出された火山灰によりpHが上昇、多少生態系が改善されたようだ。水中では時々コイや小魚に出会うが、生物生産の場としてはまだまだ貧弱な湖である。人が手を加えて悪化した洞爺湖の水質と、自然災害がもたらしたその改善。「禍福はあざなえる縄」か。

114 麦秋

麦秋 家の裏で秋播きの小麦の刈り込みが始まった。7月末から8月、よく乾燥した日が続いたので収穫は順調だ。けたたましい音と金色の穂のくずを撒き散らしながら畑の収穫は数時間で終わってしまった。有珠山の外輪から見下ろすと、伊達市から壮瞥町にかけて様々な色付いたパッチの風景が広がっている。この小麦はパン用ではない。パンを毎週1kgの粉で焼く私としては残念だ。

113 1977年8月7日

今朝の有珠山と77年8月7日の噴火 今朝の有珠山はよく晴れた。35年前の今日、有珠山の山頂で噴火が始った。77年、78年と大きな噴火が続き、大きな銀沼火口が残った。地殻変動は82年まで継続し火口原の上に180mの潜在ドーム有珠新山が隆起した。私は偶然に札幌近郊から見たが80km先の青空の中のモノトーンの噴煙は異様だった。2000年にも西山山麓で噴火したが噴火の規模は大きくなかった。次の噴火までの折り返し点は過ぎている。

112 マシジミ

マシジミ 夏の暑い日には洞爺湖の水につかる。私の場合、殆どスキンダイビングで各地の海などで過ごしてきたから、ここでもマスク、シュノーケル、フィンのセットが無ければプールと同じように溺れそうになる。澄んだ水の中、暗い湖底へと続く岩壁を潜るのは爽快だ。水深3mでマシジミを見つけた。コイが食べてまとめて吐き出した跡がいくつもある。若い殻は黄緑色、卵胎性。北海道各地で採れる美味しいヤマトシジミと違い、純淡水産二枚貝だ。

111 黒はすべてを

カシス 色の三原色を混ぜると黒に見えると言う。ブラックカランツはカシスという名の方が一般的で、ジャムやリキュールの名でよくレシピに登場する。今日我家で収穫のカシス、1.8kg。黒く輝くオニキス玉。その1/3量のグラニュー糖で煮て、たっぷりの軟らかなジャム(ピュレ)を作った。上出来のジャムと調理器具すべて深みを帯びたカーマインに染まった。驚いた。粒よりの漆黒の宇宙には溢れる カーマインレッドのパッションが包含されていた。黒は激情の色。

110 火の山の森の儀式

森の儀式 火の山有珠山で「星祭」が開かれている。ロープウェイを使った夜のイベントだ。先だって白老コタンのエカシによる「山の神に祈る、山の祭り」ヌプリコロカムイノミの伝統儀式が行われた。ステージの後の森は1977-78噴火後に回復したトドマツ、エゾマツ、ドロノキの森。今ではこんなに深く緑濃い森だが、噴火後はすべての植生が失われて、リセットされた後に再生され出来上がって「30年の森」だ。噴火という大地のくしゃみ程度の出来事で一つの小さな破壊がおこり、命の再生が当たり前に進んでこの景観が作られた。屹立する岩は旧「土瓶」の本体ドームの崩れ残った名残りの岩峰。次の噴火でこの山はどのように形を変えて行くのであろうか。この夜、寒く霧に覆われた夜空だったが、外輪山から見下ろす伊達の街の夜景は噴火など想定外の静けさで、足元に広がる星空を思わせるほど見事だった。

109 早生りんご「ツガル」

ツガル 7月も今日で終わり。このところの暑い日のせいで、リンゴも一回り大きくなった。去年まで虫食いばかりの収穫だったが、小さな実が付いてからの手入れと防除をこまめにやって見たら、きちんと結果が出たようだ。ここ壮瞥町は果樹の町。本気で教わろうとすると、プロの農家が何でも教えてくれる。お陰で我家の庭も果樹がいっぱい。商品にするわけではないから、姿かたちは二の次で、「味が勝負」に賭けて見る。

108 カバキコマチグモ(樺黄小町蜘蛛)

カバキコマトグモ 細長い一枚板のススキの葉を、型紙もなく切り取りもせず、折って畳んで紡ぎ綴じたチマキ型マイホーム。雌にとっては雄との愛を育み、やがて産室とし、そのまま棺となる終生の家。一見華奢にも見える細身、飴色の肌、でも気性は激しくその毒性は日本屈指。独り身で子を守る母性の化身。やがて子グモは母の生き身を食べ成長する。「どんどん食べて、おおきくなるのよ、、」。夏雲の下、茂った夏草の中でごく当り前にある究極の母性愛。上が雌下が雄。

107 情熱の味

ラズベリー 北海道がラズベリーに適した土地だと知ったのは実際に栽培してからだ。到る所からシュートが伸び出す。今年もたっぷりと収穫した。花托が茎に残り、奨果のみが掌に転がってくれる喜びはラズベリーの真骨頂。明るい透明感のあるルビー色。陰にはパープルの哀愁を滲ませる。一瞬、動物的なアロマを感じさせるその味は、紅い血潮のブラッドレッドなのかもしれない。口に広がる血の滴りは愉悦と安息をもたらす。