飯鮓を漬けこんで二ヶ月たった(27、いずしを漬ける)。2~3℃の地下室でうまく発酵が進んだようだ。封切を待ちわびている連中も居り、私としても早く口にしたい心がつのって、レシピ通りの日数で逆さ重石にの作業となった。桶ごと逆さまにして床に置いた重しで蓋を下からおさえ、残りの重石を桶の底に載せて漬け汁を切る為の絶妙な方法だ。径40cmの飯鮓桶に8.5kgの重石。伝統の飯鮓に、これぞ定石の逆さ重石。
湘南の陽射しと海風を受けて育ったレモンとオレンジが知人から届いた。濃い照葉の中に黄金色が輝く果樹園の光景を思いながら、はて、どうやっていただこうと考えた。思い立ったのが旬のオーガニックレモンを使ったレモンピールだ。皮ごと苦さを味わえる。それと私の住む壮瞥町に開拓の時代から受け継がれている美味しいクルミ。これをコラボさせて強い味のドライジャムに仕立てよう。コンセプトは「大地の息吹」だ。
レモンとクルミ、しっかり者同士をくっつけるにはスパイスも必要。シナモン、ジンジャーはよく使うので、今回は敬愛するシュウォーツ爺さんのレシピを参考にコリアンダーを使ってみる。出来た味は苦く酸っぱく甘く、ローストしたクルミの香りが鼻に抜ける。ミンスミートのようなガツンとくる味だ。エスニックかつマイルドなのは仕事人コリアンダーの業。クラッカーにたっぷり載せてもよいし、春野菜のサンドイッチはどうだ。生地に混ぜ込んでビスケットやリーンなパンもいい。春だね、何かを作りたくなる。
その国の市場や路地裏にはその国の匂いがある。一本裏通りの定食屋や屋台には、等しく日常の味と匂いがあふれ、賑わう音に混じって庶民の食う音、啜る音がきこえてくる。日本で言うなれば、それは味噌と醤油の味と匂いが横丁の香りだ。はるかな昔から、草醤(くさびしお)・魚醤(うおびしお)の国なのだ。 そこで思い立って、久しぶりに味噌作りに取りかかる。地方には伝統的なたくさんの味噌の製法がある。味、香りが中庸で、少し塩を押さえた甘口の江戸味噌を仕込むことにした。好みにもよるが、作って2年、3年目になると色が濃くなり味も深みも増して、私は3年位がいちばん旨いと思う。暖かくなり夏に向かって熟成が進んでゆき、味噌らしくなってゆく。北海道の三月はまだ寒仕込みのシーズンです。どうですこの地方はマメの国、地元の豆で自家製の味噌を作ってみませんか。
マメは壮瞥町のつるの子大豆。味の良い豆はそのまま旨い味噌となる。麹は道産米「ほしのゆめ」の米麹が手に入った。塩は20年来の格安で旨いシャークベイの天日塩。基本となるレシピなので配合は単純にして、好みに応じての手直しも簡単だ。一昼夜浸して、膨潤させたマメをとろ火で5時間煮る。その間に、麹と塩を混ぜて塩切り麹を作る。味噌の旨さは大豆で決まるという。煮あがった豆は納得のいく美味しい豆だった。
マメを挽く。要するに均一につぶれていればよいわけで、いろいろな方法が用いられてる。擂る、搗く、叩く、踏みつける。私は簡単な家庭用のモーター付きのを使っている。14kgほどの豆を挽くのに30分で作業を終えた。これを塩切り麹と良く混ぜる。煮汁を使いハンバーグを捏ねる軟らかさに調整する。今回は2リットル使った。一度に全量を混ぜられないので、4回分に分けそれぞれ完璧によく混ぜた後まとめることにしている。
均一になった材料を丸め、味噌甕の中に打ちつけるようにして空気を追い出しながら詰め込む。すき間があるとカビが生えやすいからだ。つめた表面にカビがつくので、さらしや丈夫な紙蓋をし、ヘリの部分を市販の味噌で封をする。これは近所の人から習った裏技だ。あとは重石を乗せ熟成を待つだけ。私は1年以上待つことにしている。香り立つその味はまことに手前味噌だが、芳醇濃厚にして他者を盛り立てる凄腕の名脇役だ。
この地方の特産の一つにマメ類がある。10万年前の洞爺湖カルデラからの噴出物による広大な台地、ここのふくよかな土壌が生み出したものだ。特にハナマメは大きく食味が良い。それとサクラマス。洞爺湖産の陸封されたものも有名だが、これはこの地方の近海もの。この美味しいもの二大食材と身近な野菜を使ってマリネを作った。ワインにあう上出来の一品。
マメは一晩水につけ、煮崩れしない程度の硬さに煮る。薄く砂糖と塩で味を整えます。種類によって煮え方や味が異なるので別々に煮た方がよいでしょう。野菜類は切り分けてレンジにかけます。パプリカは黒く焼き皮をむきます。サクラマスはフィレにし塩で絞めて水分を抜き、皮を取りスライスします。穀物酢と煮切った白ワイン、砂糖、塩などをやや濃いめに合わせ漬け汁とします。好みのハーブ類(イタリアンハーブミックスあたりがおすすめ)とオリーブオイルを振りかけ、冷暗所に数日おいて完成。
飯寿司(飯鮓)を作った。北海道では「いずし」と言う。古来からの熟れ鮓(なれずし)がいくつもの土地の食文化として伝えられて、ついにはニシン漁、サケ漁の文化の花開いた北の大地にまでたどり着いた。琵琶湖の鮒ずし、石川県のブリのかぶらずし、栃木のアユのくされずしなど、各地にすぐれた食味として伝えられている。その味は川でも海でも漁師達の腕の見せ所であった。
飯寿司は飯と米こうじを混ぜて使うのが一般的だ。それと塩で揉んでしんなりさせた野菜。そしてメインの魚。この季節は新鮮な地元の魚、ホンマス(本鱒)が手に入る。ヤマメの親にあたりサクラマスが標準和名。これを三枚にし、あばら骨をすき、塩をして数日置いて水分を取る。野菜と麹飯、魚を交互に6層ほどに重ねる。飯鮓は漬物である。乳酸発酵が味と保存性の決め手だ。トッピングにはこの近くの川で釣ったヤマメを飾った。15kg程の重石をし、0℃~5℃くらいで二カ月もすれば完成だ。