伊達紋別付近の海岸で釣り上げたという二匹のサケはそれはもう見事なものだった。70㎝を優に超す成熟したオス鮭で、少しブナがかかってはいるが精悍な野生の風貌だ。湾曲した牙は猛き血の色、小さな漆黒の瞳はひたむきな情熱の証し、おぬしは海の野伏せりだ。 芝生に続く敷石にドテッと置いたら、丁度そこには遅れ咲きのスミレが一つ咲いていて、海と庭の晩秋の奇妙な組み合わせが意外によく似合った。袖すりあうも多生の縁か。こうやって季節と命はないまぜとなって廻り、次の春へと引き継がれる。
知人からサケをもらった。この時期、北海道の海岸ではごく当たり前にサケが獲れて店頭にもよく並ぶし、一匹まんまのやり取りもよくあることだ。上物のサケで75cmの堂々たる体躯。腹を割いたら立派な腹子が1kg近く採れた。腹子はガーゼに包み味噌漬けにすると素晴らしく旨くなる。今回はばらばらにして醤油味のイクラにする。もちアミの上で揉むか箸でしごくとほぐれる。サケの卵一粒が一匹の命、丈夫に出来ている。塩水で洗い、醤油とほんの少しの日本酒をかけ、たまに混ぜながら冷蔵庫に数日保管すると出来上がり。白い飯に合う、酒に合う、サラダにも。冷凍も可能だ。もちろん身の方も楽しむ。皮は滑るので軍手を着用。頭をとり、腹ビレのあたりで上下に分け、それから三枚にすると仕事は簡単。塩を振り身の水分をペーパータオルと新聞紙に吸いとらせ、あとは焼いても、煮ても思いのままだ。ただしイクラの入っている雌の味は一段落ちることを付け添える。