陽のあたる雪のとけた里山の南斜面、春を待ちかねていたロゼット葉がいくつも見つかる。マツカサの芯と苞鱗も散らかっている。吹雪で落とされたアカマツの葉と一緒だったマツカサを分解してみたら、翼のついた小さな種子が見つかった。秋に蓄えたものでは足らずに、これを食べて厳しい冬を越した生き物がいます。食べたのは誰? それは冬眠しないエゾリスです。
「植物」カテゴリーアーカイブ
21 椴の森
壮瞥町児童館の裏山、ふれあいの森は今、とても静かです。太いトドマツの幹も-5℃の大気に凍てついています。でも、生きものたちの足跡でいっぱい。エゾシカ、キタキツネ、エゾリス、ユキウサギなど少しずつ時間をずらしながら通り過ぎて行ったのでしょう。一面の緑とその香りに満たされるのは4ヶ月後です。
ひとつ、小さな発見がありました。雪の着かなかった斜面の枯葉の中にツルマサキの緑を見つけました。このあたりには常緑の広葉樹は少ないのですが、この寒い中、ぎりぎりで耐えているのでしょう。ナニワズ、フッキソウも常緑ですが雪の下で春を待ちます。極寒の地であっても、雪の下では生き物は耐えられます。雪が少なく、気温がぐんと下がる大滝あたりから、谷沿いに寒気がやってくる壮瞥は生き物たちには少しばかり過酷な世界なのかもしれません。
10 花のような
6 弥次郎兵衛
壮瞥町の児童館で春、夏に続いての三回目の森の観察会を行った。つまり裏山で遊ぼうというのだ。裏はすぐに農地で、その続きが山になっていて、さらにその先が洞爺湖や有珠山の見える山の上の壮瞥公園だ。典型的な里山である。春は光の中で草花遊びで楽しみ、夏はトドマツの暗い森の中で、みんなで妖精になって遊んだ。秋は樹の実で遊ぼうと思い、クリで「やじろべえ」を作った。クリはこの山のもの、タケヒゴは焼き鳥の串。5分もあれば完成だ。これは受けた。文句なしに子供がわいた。目が輝いた。机の角ででも、指先ででも決して落ちず、ゆっくりゆらりゆらり。こんな遊びならたくさん知っている。子どもたちと森で遊べるなんて、やったね!
この森でたくさんの森の妖精たちと一緒に遊びました。小さな妖精たちはみどりいろのアロマに包まれて走り回りまわります。なめらかなトドマツの幹に隠れ、苔で満たされた窪みに屈み、キノコを見つけ、鳥の声を真似ました。彼らは早口で妖精語を話します。私もその時は理解できたのですが、その声はすぐに森の奥のうす闇の中に消えていってしまい、もう覚えてはいません。
5 「そばぐり」を集めて
最後の氷期の寒さで姿を一時的に北日本から消したクリやブナは、縄文時代に入って約6.000年前に北海道に再上陸したと考えられています。ブナにかぎって言えば、今の黒松内低地までさらに北上したのは350年ほど前のことだというから、北海道南部といえどもブナの繁殖に適した土地ではなかったらしい。クリの方はその点、縄文人に受けが良かったらしく、3.500年前ころには札幌低地まで生活域を広げてしまったという。大島直行先生は「縄文人たちはそんなにクリを食べてはいなかったはずだ」と言っているが、、。 ブナの実は小さくシイの実を三稜持つ形に潰したみたいで、地方によっては「そば栗」という。拾い集めるのはなかなか大変。でも命にかかわる食べ物のこと、そこにあれば一生懸命集めます。特に子供などには適した仕事だったはずだ。そのあたり五千年前の長閑な小春日和、どうだったのだろう。
思い立って洞爺湖の向こう岸、仲洞爺の直径70cmはあるブナの大木を訪ねた。白さび模様の引き締まった胴をピタピタと叩いてみた。堅いようでどこかやさしく、冷たいけど血が通っているような命そのものを感じる。 「実生が育たなくってネ」と持主は言う。一本だけ若木が育っているので見るようにという。根の周り一面に敷きつめられた、形の良いオーカー色の葉をかき分けるとたくさんの実が散らばっている。小さく滑っこい実は、大人の指先には似合わないなと思った。子どもの小さな手、一握り分を見つくろって数えてみたら24粒。白い身が入っていてクリの味がするとものの本に書いてある。 食べてみようと思い殻を開けてみたら、空だった。すべて空だった。「充実」していない。こんなこともあるのだ。物事ってすべてこうだ。やってみなければわからない。
2 五百五十五両
夏の木の下闇に、人知れずみごとな緑色の花を咲かせるオオウバユリ Cardiocrinum cordatum var. glehnii は、秋になると大きな蒴果(さくか)をつけ、1個の蒴花には5百個以上の種子が重なって入っています。蒴果は乾燥するとはじけ、種子は風に載って飛び散ります。子どもたちは「キツネの小判」と呼び、風に飛ばして遊びます。アイヌ語でトゥレプといい、鱗茎からでんぷんを採って保存食にしたといいます。
雪を載せ、寒気の中に佇む蒴果。木枯らしに種子を載せ、次世代に遺伝子を託し一仕事なし終えた蒴果。
ただただ、静謐な時間が過ぎてゆきます。
一つの蒴果は三つの部屋に分かれています。一室分を数えたら185個の種子が入っていました。概算合計で1個の蒴果に555個の種子。
だとすると、この「キツネの小判」、〆てこれで555両。1mほどの長い花柄にいくつもの蒴果がついていて、これを松明のように振りかざし、小判をまき散らします。 走れ!子どもたち。 大地への大盤振る舞い。