434  紅葉饅頭

饅頭島洞爺湖中島からの帰路、高曇りの空から陽がもれだした。最初に輝いたのが饅頭島。紅葉、黄葉、病葉を乗せてまさしく紅葉饅頭。地形図の等深線から見ると、この小さな島は円錐状の熔岩ドームの頂上である。ヘビがたくさんいる島との風説があるが、食物連鎖から考えると、それは成り立たないだろう。来年にでも一日たっぷり上陸してみるか。エゾシカの食害が少ないかもしれない。

433  半世紀の間に

切り株の上のシラカバ森の中の切り株から伸びあがったシラカバ。腐植する針葉樹の大きな切り株の上で発芽したシラカバは根を伸ばし、切り株はいよいよ崩れてゆく。これは森の摂理、樹木の更新の形だ。シラカバが発芽したのは太さから35~40年くらい前のこと。ここは洞爺湖中島。鹿が増える前のことだろう。周囲の緑は鹿が嫌いなフッキソウ。向うの林はストローブマツ(人工林)。この風景から、半世紀ほどかかって作られたこの空間での自然の成り行きが見て取れる。

432  警戒色

マムシグサ洞爺湖中島の林内はエゾシカの食害で貧弱な植物相となっている。草本で目に着くのはハンゴンソウ、フッキソウ、フタリシズカ、クサギなどだ。この時期遠目がきく林内でよく目立つのはマムシグサの実。蓚酸が含まれ、口にすると哺乳類すべてひどい刺激を受けるのは必至で、この赤い色は警戒色なのだろう。しかし同じ赤い色でも無毒のものや甘いものもある。生き物たちはどうやって判別しているのか。

431  黄金の果実

マルメロ今年もまたマルメロが実をつけた。甘く南国の果実のような蠱惑的な匂いはストレートに私の脳のどこかを昂らせる。収穫する指先に香りが蜜蝋のように纏わりつく。実を窓辺に置くと部屋中に香りが満ちわたる。 だが、この果実は芳香に惑わされて不用意に歯を当ててはいけない。堅牢な果皮と果肉は門歯二枚を損傷させる力を持つ。マルメロで作るMarmeladaというゼリー菓子がある。昨年、このジャムとゼラチン、水飴で作ったが、香味が残り実に旨かった。

430  トドノネオオワタムシ

トドノネオオワタムシ山の黄葉が進んで、ふっと気温も緩み風が凪いだとき、いつものように雪虫に出会う。今日の裏庭は雪虫の吹雪のようで、ユキムシスープの中にいるようだった。どうしてもふわふわ飛ぶ雪虫を画像に収めたくて重いカメラを覗きながら700枚ほど写して使えた2枚がこれ。前肢を高く掲げ後肢をそろえ、凛と矜持を持って飛んでいる。心もとなくあやうくも見える雪虫の正体は小さくも強かな生命体だった。標準和名はトドノネオオワタムシ。ヤチダモなどの広葉樹とトドマツを宿主として移行、変態と単為生殖を繰り返す。いのちの複雑さと進化の妙である。生活史は北大の河野弘道博士により明らかにされた。

河野博士は縄文遺跡の貝塚をアイヌ儀礼の「物送り場」と考えたことでも知られる。これは現在の縄文文化を考える基本理念ともなっている。伊達市噴火湾文化研究所長・大島直行氏によるブログ、「縄文へのいざない」参照。http://jomon-heritage.org/blog/kouza/224

425  怪鳥?

ブドウトリバガ?窓に小さな羽虫。こんな時のデジカメは非常に有効だ。拡大してみると明らかにトリバガ。ブドウトリバガにそっくりだ。だとすると学名Nippoptilia vitisReptiliaは爬虫類なのだが Nippoptiliaは何を意味するのか。種小名vitis はブドウのこと。英名も Grape Plume Moth で私の庭でもブドウを作っている。だがブドウトリバガは北海道に分布しないという。分からないけど楽しい。

420  70歳の風貌

昭和新山ドーム山頂部の溶岩ドームを残して昭和新山は屋根山全体が緑の植生に覆われている。1944年に噴火が始まって大地が隆起してできた山である。画像でのドーム右側の灰色がかった部分は推状したデイサイト質の熔岩。頂上の臙脂色の三角部分は押し上げられて天然煉瓦化したもとの土壌で、河原の丸石が含まれる。手前の緑の中に白っぽく見える部分は11万2000~11万5000年前に噴火した洞爺湖カルデラの噴火堆積物が押し上げられたものである。

415  次の世代が育って

ドロノキ林1944年、昭和新山が噴火してここは火山灰に覆われた。発芽がしたのはドロノキ。日光の下70年経って立派な林になった。今年はマイマイガの食害を受けて林内が透けてよく見える。光の少ない林内ではドロノキは発芽できず、ミズナラ、センノキ、ミズキ、などがあとに続く。あと30年もすればドロノキの寿命がくる。このようにして林は遷移し、極生相としてこの地の安定な原生林になるのはあと100年も先のことだ。

413  季節の恵み

収穫今年の収穫の出来は良かったのかどうなのか良くわからないが仲間が集まってまずは終了。ひと月前に漬けこんだウメは3日干して2年漬け込む。ホワイトプラムは表皮の防除対策が功を奏してまずまずの出来。モモはスズメバチに食い荒らされて少し硬いが50個ほどの早めの成果。うつろう季節の中に自然からの多くの賜り物があった。近所のプロの手業を手本に見よう見まねの素人仕事。あとはリンゴを待つばかり。ブドウは霜が降りてから。(9月8日)

412  北窓の君

シュウメイギク芭蕉翁は竹を北窓の君と云った。北海道には竹はない。秋の彼岸のころきまって思い出すのは丹沢近くの山里で見た彼岸花だ。あの心にしみるような緋色の絢爛さはいくつもの思い出と繋がっている。この町の特産のリンゴに色がつく頃、家の北側の繁みにシュウメイギクが咲く。ゆっくりとひと月も花をつけ、沈んだ色の緑の葉と混じりけなしの花弁の白、蕊のふくよかな黄色が心憎い。時に流されず、媚びることなく、これぞまさしく我家の北窓の君。