412  北窓の君

シュウメイギク芭蕉翁は竹を北窓の君と云った。北海道には竹はない。秋の彼岸のころきまって思い出すのは丹沢近くの山里で見た彼岸花だ。あの心にしみるような緋色の絢爛さはいくつもの思い出と繋がっている。この町の特産のリンゴに色がつく頃、家の北側の繁みにシュウメイギクが咲く。ゆっくりとひと月も花をつけ、沈んだ色の緑の葉と混じりけなしの花弁の白、蕊のふくよかな黄色が心憎い。時に流されず、媚びることなく、これぞまさしく我家の北窓の君。