522  割れたサクランボウ

サクランボウこの4、5日小雨が降り続いて、せっかく色づいて食べごろになったサクランボウが割れてしまった。この時期の雨は大敵。水分を吸った果実は膨潤し、柔らかな果皮を内側から引き裂いてしまう。これでこの後暖かい日がやってくるとカビがくる。期待しながらの毎日だったのに残念至極。専業果樹農家は透明な屋根を付けている。我が家の老木三本に覆いはかけられず、天を仰ぐだけ。

521  小爆発・コウリンタンポポ

コウリンタンポポ何年か前までは北海道のこの町でもコウリンタンポポはそれほど目につかなかった。今年、気が付くと裏庭に二つの群落ができていたし、道路わきや川筋の草地が少し賑やかになっている。ヨーロッパにはこの Hieracium 属の種が多く、いずれ次々と渡来するのかもしれない。港湾の荷上場付近や飛行場などから日本に上陸するのが常だ。

紅輪蒲公英。一見、日本風ではない(今のところ)人目につく花は、中心部が明るい黄色で周辺の舌状花は鮮やかなオレンジ色。ポンと爆ぜた花火みたいだ。これがまた日本の風景の中で燎原の火のように燃え広がるのかと思うと、汎世界的物流の恩恵を受けて安泰な生活をしている者として忸怩たる思いがある。

518  雪かと見紛う

ドロノキの綿毛カラマツの新緑の上にやんわりと降り立ったのは、小さな種子を抱き込んだドロノキの綿毛。ここは1944年に噴火した昭和新山の裾野で、七十年前に新山からの火砕サージが通り抜けた跡地だ。噴出物の荒れ地に風に乗ってやってきたパイオニア植物群の中にドロノキも含まれていた。林道のあちら側、陽の当たっているのがドロノキ。ここで育ち、ここで種子を散布している

516  引き継がれて

アイリス Wabashこのアイリスが気に入ってお隣さんから譲っていただいた。名前を調べたらWabash ワバッシュ。園芸家である E.B.Williamson 、1936年の作だという。英文で検索すると評価の高い往年の名花だそうだ。昔からの果樹農家である隣家の庭に咲くまでの道のりもいろいろあったのだろう。Historic Iris という表現もあった。歴史的名花だったのだ。 小振りだが純白の上弁と、覆輪のある茄子紺の下弁が凛としていて実にいい。和のイメージにもぴったりで、艶やかさと粋な雰囲気を持っている。お隣さん、改めてありがとうございます。

515  豊作を願って

 収穫を願ってこの町の特産品オオフクマメの農作業が始まった。壮瞥町と隣の洞爺湖町で全国の生産量の半分をまかなっているという。甘納豆、煮豆、和菓子の必須材料だ。遠カッコウもしきりに鳴いて遅霜のおそれもない。エゾハルゼミの声とともに緑の濃さが増す。手前は大きくなり始めたビートの葉。これは砂糖の原料となる。遠景は壮瞥の市街。その手前は長流川の林。好い季節となった。

512  Chive チャイブ

 Chive チャイブワケギでもないし、アサツキかなと思っていたが、最近になってチャイブだと分かった。いつの間にか庭のあちこちに大株がいくつもできている。チャイブなら知っている。ごく当たり前のハーブだ。薬味、スープのうき実、サラダの付け合わせ何でもOK。レシピが先走って実物が後に現れた。ありがたく使いますよ。可愛いネギ坊主、指先でつぶすとポンと小さな音がする。

511  須崎忠助 原画展

須崎忠助北海道大学苫小牧研究林にある森林記念館で須崎忠助の原画展を見た。洗練された個性的な植物画は「北海道主要樹木図譜」として、私の座右の書となっている。今回の展示は原画作成の過程がつぶさに見られ、下絵、色を乗せる過程、注釈などをつぶさに見ることができた。心ひき込まれるひと時であった。心地よく晴れた五月、新緑に包まれた小さな展覧会は愛好者であふれていた。

507  ホザキヤドリギ

ホザキヤドリギ落葉性のホザキヤドリギは冬季、実を着けるころには葉を落としている。5月に入って新芽を付け、穂状花序も伸び始めている。ヤドリギと比較すると葉序も形態も異なっていて、属が違うのもうなづける。以前、神奈川県でヒノキバヤドリギを見たことがあるが、これもまたこれら二種とは違っていて思いもよらない形をしており属も異なる。面妖なグループだ。

506  香りの一撃

ウドとフキ午後から雨になったら、お隣さんが「一回分だけど」、ひとこと言ってとフキとウドを置いていった。いつもこの季節、お隣さんを通して山からの頂き物の恩恵にあずかる。フキは擂粉木ほどの太さ、ウドは子供の握りこぶしくらいある。これで一回分だと言う。北海道では何ごとも一ケタ違う。腹いっぱいになって初めて美味しいという言葉が出てくる。

フキはアキタブキという大型の別種で、煮物やみそ汁にたっぷり入れ、軟らかな繊維の束をサクサクと頬張る。自分も反芻動物になった気がして爽快に旨い。ウドに至ってはその香気と苦みの一撃があって、しばらく脳みそのどこかが麻痺させられる。そのあと旨みが中枢に浸透してゆく。

しっとりと煙る空の向うにカッコウを聞いた。カッコウが鳴くと「何を植えてもいいのだ」とおとなりさんは言う。

505  リンゴの秘密

リンゴの花寒かったり暑かったり、北国の五月を彩るリンゴの花。気取りなくいつもの通り咲いているけれど、この蕾の紅色は何だ、花弁を抜ける紅の糸はどうだ。蕊の黄色はどんなからくり。丸く赤いリンゴへまっしぐらにあと150日。てらいも妥協もなく,花を捨てたリンゴはひたすら完結へと向かう。待っているよ、あの味、あの香り。