1058 ハマナス

ハマナス海からの明るい風が吹いた瞬間、ハマナスの酸味のある強い香りが脳ミソを駆け巡った。私が育ったのもこのような海岸、その時の砂浜の流木の風景と甘い爽やかな匂いを思い出す。匂いとともに記憶が鮮烈に蘇るのは、生命にかかわる素直で直截的な感覚だからだろう。匂いは思い出も連れてくる。 室蘭イタンキの鳴り砂の浜には、太古からの風景と海浜植物が今もなお残されている。

1057 したたかなスギナ

したたかなスギナジャリ道際にシバザクラと銀葉のナデシコを植えた。花がナデシコに代わるころスギナが盛大に伸びてくる。胞子茎のツクシは気にならないがスギナの繁茂には手を焼く。光合成で栄養するから、理論的には徹底的に葉を摘むと根は枯れるはずだが、数億年前から命をつなぐトクサ科のこの植物の強かさには追いつけない。成り行きに従って、スギナごと花を楽しむのも悪くはない。

1056 翔べなかった日

コクワガタ薪にしようと積み上げていたサクランボの朽木を焚火台で燃やした。翌日、燃え残りの中からすっかり炭化したコクワガタを見つけた。脇には黒焦げの幼虫も。すまん。かわいそうなことをした。おまえたちのこと気にも留めていなかった。凍てついた冬を二回耐え、やっと成虫となったはずだ。虫に落ち度はない。不条理な話だ。飛び立とうとしていた空は高く、吹く風は緑なのに。

1055 村界滝谷の外輪溶岩

村界滝谷の外輪溶岩2万年前、洞爺カルデラの南縁に誕生したのが有珠山。噴火初期の流れやすい外輪山溶岩は、洞爺火砕流堆積物の上を覆った。地質図にはこの谷の奥の外輪山溶岩と、その下の火砕流層が記載されている。地表を流れる雨水はこの沢に流れ込み、急流や滝を作り、長い年月を経て徐々に後退してこの谷を作ったのであろう。仲間の提案で古くからの地名を取り「仮称・村界滝谷」とした。

1054 新しい沼

2新しい沼000年の有珠山噴火では、隆起によって板谷川上流が堰き止められ、旧国道230号線上に西新山沼が誕生した。この隆起では別の支流にも新しい沼が誕生している。下草が藪を作らぬうちにと、地形や植生を確認するため春の穏やかな日を選んで出かけた。二つの小さな流れ込から始まり、断層群により堰き止められた沼尻まで探索した。左上の尾根筋が地熱を持つ地帯、その奥が西山。

1053 壮瞥公園のウメ

壮瞥公園のウメ洞爺湖から流れ落ちる壮瞥滝の上にある壮瞥公園のウメ。いつもならこのウメの開花を待って人々が押し寄せるのだが、今年はCovid-19の感染予防とのことで登っては行けない。梅越しに洞爺湖を一望し、その向こうの残雪を頂いた蝦夷富士・羊蹄山。極め付きの風景なのだが。お蔭で今年は逆方向から、300mmレンズを使ってのお花見と相なった。咽るような香りを嗅げないのが残念。

1052 キツツキの食卓

キツツキ食痕洞爺湖畔、キツツキが食べ散らかした木くずを撮っていたら、「写真ならこっちがいいよ」と小さな女の子が教えてくれた。啄んだ孔の奥、春の光を受けて朽ちた樹の木部に虫の見事な食痕がみえた。「眼がいいのだね、君は」。気が付かなかった。キツツキの狙いはこれだったか。昆虫だと思うがそれから先は不明。食卓についたのはアカゲラだと思うが姿は見ていない。樹はアズキナシ。

1051 バッコヤナギ

バッコヤナギまだ冬色の林の中に柔らかな黄色を見た。近づいてみるとヤナギの雄花、春の陽に輝くバッコヤナギの雄花だった。淡く光る軟毛に包まれた「ネコ」は、川辺のネコヤナギほど可憐ではないが、膨らんで雄蕊を盛大に展開し始めると負けず劣らずの豪奢な金毛のネコとなる。野山の生命全てを甦らせる春は、溢れんばかりの土の匂いと若葉の色で、野山を惜しみもなく満たしてくれる。

1050 今日の昭和新山ドーム

昭和新山ドームいつもの年より早い春。今朝、4月6日は薄い積雪があった。その雪も午前中に溶けて新山ドームにしみ込み、山頂は白い噴気に覆われた。湿度が高いのと気温が低いこともあって、久しぶりの火山ドームを見た。東風に立ちむかう、荒ぶる姿にも見える。 この溶岩ドームの地下深く、かつて溶岩だまりから延びていた岩体がまだ余熱を持っていて、そこからの熱補給なのだろう。

1049 生命潮流

ハクチョウ遥か高い空を小さく鳥が飛んでいる。望遠レンズで写し、拡大したらハクチョウだった。二羽だけ、方向は北。あの高さから何処まで見通せるのか。ただひたすら羽ばたき、啼き交わし風に乗って、ついにはシベリアにたどり着く。導く本能には理由や目的はない。何があっての、なぜの二羽なのか。私にはわからない。巡ってきた季節を見下ろし、時の奔流に乗るいのち。生命潮流。