763 収穫へのキャンバス

黒い大地柔らかな陽ざしを受け止め、黒い大地はエネルギーをため込む。使い込まれ、豊かな滋養をため込んだ土壌は、馥郁とした蒸気となって昇華する。いのちを育むまさしく温床。北の穀倉十勝平野に播種の季節がここに始まる。樹々は芽を吹き、カワラヒワもやってきた。さあ、これからが農家の腕の見せどころ。経験と汗で豊饒を創りだす、黒くて真っ平ら、地平まで続く大アトリエ。

762 音更川の 黒曜石

音更川の 黒曜石 Obsidian =黒曜石に憧れて音更(オトフケ)川へやってきた。十勝平野の河原で目にする黒曜石(黒曜岩)は音更川上流の十勝三股十三の沢、タウシュベツ川を供給源とする。それは200万年前の噴火に由来するという。その後の音更川による平野形成の中で広範囲に拡散した。昨年の台風10号の出水で河原は更新され、半日でこぶし大を20個程採取。200万年の時を濃縮し、掌上の深い漆黒はひときわ奥深く重い。

761 クサソテツ(コゴミ)

コゴミワラビもゼンマイもシダ類だが、コゴミはあくがないので食べやすい。日陰に強くやさしい葉が好きで、植えておいたら地下の匍匐茎でたくさん増えた、春を食べるのだ。茹でると色とリズム感のある姿が新鮮で、白い大皿に映えて名脇役だ。この時期旬のサクラマスにアレンジしたら極上の一品。散歩途中でいくらでも摘めるお手軽野草。フキノトウ、タラの芽。田舎暮らしは贅沢だ。

760 黄砂

黄砂春霞ではない霧でもない周囲の風景が朝から覚束なかった。伊達の海岸に出てみると風景は古い写真のようにセピア色。気象衛星の写真には朝鮮半島の付け根から日本海を横切り、道南まで延びる黄土色の帯がはっきりと写っている。黄土地帯にある高気圧から樺太の低気圧へ、偏西風も関わって、大陸から島国日本への、絵にかいたような大気の流れだ。アルトリ岬を遠くに望む。

759 昆布岳

昆布岳頂上がコブ状に残っている火山。浸食が進んでいるが独立峰。1045mのそれほど高くないが特徴ある山頂なので、この地方ではどこからでも確認できる。湖面の波は深い水の色を屈折して青く暗い。それがゆえにこの山はモノトーンの景色に明るく浮かぶ、ひときわ優し気な春の山だ。手前に浮かぶのは四つある中島のうちの弁天島。あとひと月ですべてが緑の世界に衣替えとなる。

758 五月の光

イゴール・ミトライ・「月の光」ゴールデンウイークがやって来た。この数日で草花の蕾は開き、硬かった樹々の芽も殻を脱ぎ捨てて若緑に萌え始める。これぞ北海道の春。梅も桜もリンゴもサクランボウも、この五月のうちに満開となる。ここは有珠山噴火記念公園。湖を一周する「とうや湖ぐるっと彫刻公園」には58基の彫刻がある。青空に羊蹄山が白く輝く。イゴール・ミトライ作の彫刻「月の光」も眩しげだ。

757 ランボッケ(蘭法華)岬

ランボッケ岬道央自動車道冨浦パーキング(上り室蘭方面)にはランボッケ岬と富浦漁港を見下ろす展望台がある。岬の崖には6㎞北にあるクッタラ火山からの火砕流が溶結した、厚い凝灰岩(Kt-e層)がはっきりと確認できる。その下の明るい色はKt-f、Kt-iだという。展望台入り口には道央自動車道工事中にパーキング近くのKt-i層から見つかった登別化石林の解説板がある。

756 壮瞥穴 2017

壮瞥穴「うちの畑に穴が開いた」松本さんからの知らせ。雪を残す有珠山を背景に、耕作前の広大な農地に案内されると在りました、見事な壮瞥穴。地表部は80×90㎝、50㎝下に穴の本体があって直径35×30㎝、深さは240㎝だった。一昨年は私の裏庭にも開いて学生を連れた先生もやってきた。過去に生育していた大木が噴火堆積物に埋没し、腐植して空洞になったものだ。

755 私はカモメ

オオセグロカモメЯ Чайка 。チェーホフも書いた。テレシコーワも使った。チャイカはカモメ。写真はオオセグロカモメ。北海道野鳥図鑑にはТихоокеанская чайка となっている。  訳すると「太平洋カモメ」だ。4月18日、春の嵐は荒れに荒れた。強風は植え付けたばかりの野菜に被害を与えた。翌日有珠の砂浜へ出かけると、大波で打ちあげられたホタテをオオセグロカモメたちが争って食べていた。

754 エゾアカガエル

エゾアカガエルの卵塊エゾアカガエル林道わきの根雪が水溜りになって残っている。そんな環境を見つけ出し、エゾアカガエル(Rana pirica)が集まって産卵する。足元に生き物たちの春を実感する一瞬だ。トノサマガエル、ダルマガエルを含む Rana 属の北海道産はこの一種のみ。種小名 pirica はアイヌ語の「美しい」からきている。

静寂の中、ゆっくりとしかし確実に時は刻まれている。樹の芽は動かず、地表を動き回るものは見つからない。私の思考もすでに純化されてしまって、ただ佇んでいるだけだ。春浅い冷たい水で、いのちは復活する。卵塊のブツブツを見ていると「生命は泡から誕生」した、春の生き物は「枯葉から蘇る」と思ってしまう。