483  クミンの香り

モモとクミン裏庭に2本の白桃が育って、昨年の夏の終わり、キイロスズメバチをかわしながら収穫し、ジャムをたっぷりと造った。半年食べて残り少なくなった旨いジャムを今朝も楽しんでいた。隣の皿のポテトサラダに振りかけたクミンがジャムに飛び込んだらしく、知らずに食べた舌の上でクミンの香りが弾けた。モモとクミンは相性がいいことに気が付いた。我が家のモモがそのままアラビアの大地に繋がったみたいで、大脳の官能中枢を駆け抜け、鼻へも抜けた。

今年のモモの収穫は紙袋をかけよう。モモが好物のスズメバチにはご遠慮願って、クミンや異国のスパイス類でモモを楽しんでみよう。

482  縄文の親たち

足形付土版縄文時代の遺物に子供の足形の着いた土版がある。前から実物を見たいと思っていた。南茅部、垣ノ島川の左岸の6500年前の遺跡から見つかったものだ。今は函館市となった南茅部は海と山に接して細長く続く、自然に恵まれた町だ。昔から豊饒の地であり、縄文文化が特に栄えた地であったという。大船・垣ノ島・著保内野(ちょぼないの)などの遺跡に囲まれて建つ縄文文化交流センターは、国宝「中空土偶」をはじめ、充実した展示品を持っている。

足形付土版は二つの遺跡のものが、同時に見つかったナイフなどと一緒に、合わせて展示されていた。すべて踵の側に紐を通す穴がある。家の柱に吊るしていたのだろうか。左右の足が密接しているのはなぜだろう。片方の足のみのもある。子供の成長を願って作ったのかもしれないが、私には不幸にして死んでしまった子供の形見のような気がする。亡くなった子供の揃えられた小さな足裏。上から縄文の文様がなぞってある。「焼きが浅く、管理のために洗っていても、はらはらと解れそうなくらいです」と説明を受けた。

子の死を悼みながら作ったかもしれない粘土板から、親の落胆が伝わってくる。親が亡くなった時に一緒に埋葬されたのだろうとも聞いた。並んだ子供の足形は、縄文時代から現在へ数千年の時空を超えて、親と子、家族、そしてヒトの来し方について、直截な問いかけをしてくる。

481  「嗚呼、持っていかないで!」

カラスのクルミ伊達市で歴史講演会があっての帰り、会場となった消防署の横道を車で通り過ぎようとしたその時「パーン」と屋根の上に何かが当たった音がした。突然のことだったので、本当に驚いた。まさか隕石ではあるまい、クルミ大の石ころが直接当たった音だ。降りて確認したら、まさしくクルミ大の「クルミ」。瞬間、カラスの仕業に巻き込まれたと気が付き、見上げると消防の屋根から覗き込むハシボソガラスと目が合った。

クルミで遊び、結果旨いナッツにありつけるなら、尖った嘴は最良のアイテム。上手くいくとは限らない。丁か半かの賽の目に、賭けて通りかかったのが私の車。驚いたけれど、カラスの行動を探っている私にはよい証拠品、と頂くことにした。

480  平均値

新雪大有珠二月は暖かく三月に入って地面の雪は日増しに溶けて、そのまま春を迎えるかなと思った。しかし、自然は二月の埋め合わせを三月に回したようで、第二週は強力な低気圧がなかなか移動せず、景色は冬に戻ってしまった。今朝の有珠山は晴れて手前の昭和新山と好対照だった。気温は0℃前後だから数日もすると畑の軟らかく黒い土が顔を出すだろう。

479  ともに生きる

アトリとハヤブサ一週間ほど前からアトリの群れが近くの干上がった水田にやって来ている。200羽から300羽位の群れであったり、1000羽位の集団であったり、この付近の総計は2000羽位だろう。 渡来数には変動があるが大群を構成することでも知られているという。今年はいつもの年よりずいぶん多い。

観察中に群れが乱れたと思ったら、ハヤブサが飛び込んできた。狩るもの逃げるものの空での戦いとなったが、結果はどうなったのか。

478  目覚めの時だ

昭和新山雪解けが進んでいたが、明け方に少しの降雪があった。北風が新山ドームに噴気は右から左へ流れている。しかし農家の煙突の薪を焚く煙は逆方向へ。地上には南の風が吹き込んでいるようだ。水気を含んで濃い色のドームを見上げながらリンゴの芽が動き始める。三月は果樹の枝打ち、剪定の季節。

477  名残りの山・オロフレ峰

オロフレ山「三月から四月、雪が硬くなったらスキーを背にオロフレまで登って、あとは徳瞬瞥山 へ向かって尾根筋を詰めてみたいね。」と言ったら「私も一緒に」と言った人がいた。今となっては足腰が全く覚束ないし、賛同してくれた人が誰だったかも覚えていない。湖の向こうに光を受けて輝くオロフレを見た瞬間、そのことを思い出した。

476  揺蕩う春

フクジュソウ眠い所を起こされたのか自ら覚めたのか、根雪が解けたら我が家の庭にもフクジュソウ。去年は3月28日だった。異常だという人もいるが、自然界に変異はつきもの、入学式に大雪のことだってある。気象学では過去30年間の平均値に対して、標準偏差の2倍以上の数値が出たら異常気象と言うのだそうだ。そんなめんどくさいこと、早くやってきた春にはいらない。嬉しいことが先だ。山の斜面で休眠中の虫や花の芽も、アレマァ、と驚いているだろう。

農家の人に聞いたら「生産の場では最も基本的な安全策を取ります、経験で培った平均値で、ことに当たります。早く温かくなるのはありがたいけれど」と言う。発表される長期予報もあまり当てにはできないとも。さも有りなん、ブレがあるのは読み込み済みだ。

475  汚れた嘴

ソメあやまって窓ガラスにぶつかり脳震盪を起こしたシメを庭木にそっと止まらせ、プロフィールを撮った。しばらくしてシメは飛び去って行ったけれど、どうなったのか。群れに留まれなかったもの、飛び方が不自然なものはタカやカラスの栄養となる。

カバ色の頬に黒い縁取りのグラスとあご髭がキャラクター。極端に大きく頑丈な嘴は使い込まれ、かつ汚れている。したたかに生きてきた証しであり、生への執着の現れだ。生きなければいけない。眼はかたっている。

474  天と地が連なって

天地融合二月とは思えない柔らかな冷気の中に昭和新山と有珠山のシルエットが浮かぶ。三日月と宵の明星がすっきりと並んでくれた。慌ててカメラを取り、ISO-6400、1/40秒、f=4,5で写した。こんなシーンはめったにないことだと思い、月齢だけでも正確にと調べていて驚いた。今日と明日は金星に接近して火星が見えるはずだという。

PC上で拡大したら金星の右上に火星が確かに写っておりました。写真でお見せできないのは残念。三日月と火星と金星と、地球の代表、有珠山、昭和新山。ちなみに今日の月のデータ。月の出 / 月の入(室蘭) 07:30 / 20:08、月齢(2.1) 新月→上弦。金星は(-4.0等星)で火星(1.3等星)。