キッチンの窓をとびっきり大きくして、風景を見ながら料理をしたいと思った。北海道のこととて、Low-Eの複層ガラス。ハーフミラー仕様の窓だ。住んでいる人間には快適だが、野鳥には迷惑この上ない偽装空間、だまし絵だ。いつもの自分の空を飛ぼうとしているのに。
いくつかの牧場の間をまっしぐらに行き来する大きなアブもよくぶつかる。アブがポンとぶつかるとスズメが食べる。スズメがぶつかるとカラスとネコがやってくる。ヒトの安寧な生活と裏腹の、瞬時に消えてしまう野生の命。私は肩をすくめて見ている。
午後から雨になったら、お隣さんが「一回分だけど」、ひとこと言ってとフキとウドを置いていった。いつもこの季節、お隣さんを通して山からの頂き物の恩恵にあずかる。フキは擂粉木ほどの太さ、ウドは子供の握りこぶしくらいある。これで一回分だと言う。北海道では何ごとも一ケタ違う。腹いっぱいになって初めて美味しいという言葉が出てくる。
フキはアキタブキという大型の別種で、煮物やみそ汁にたっぷり入れ、軟らかな繊維の束をサクサクと頬張る。自分も反芻動物になった気がして爽快に旨い。ウドに至ってはその香気と苦みの一撃があって、しばらく脳みそのどこかが麻痺させられる。そのあと旨みが中枢に浸透してゆく。
しっとりと煙る空の向うにカッコウを聞いた。カッコウが鳴くと「何を植えてもいいのだ」とおとなりさんは言う。