34 北に旅して

ガザミ アルトリ岬の有珠湾側、かっては流れ山であった岩礁地帯がはるか沖合いまで砂地を伴いながら続いている。荒れた後で、浜には藻場から千切られた流れ藻が積み重なっている。ここの海には昔ながらの海底、そう、海の生命の揺籃の場が残っている。澄んだ浅瀬でガザミを見つけた。遊泳肢をもつ南方系のカニだ。暖流に乗ってやって来て、北に住みついた開拓者の末裔である。

33 潮間帯

岩の上の生き物たち アルトリ岬の潮間帯博物館。フノリ、マツモ、ムラサキインコ、タマキビ、イワフジツボ、etc.etc.。いずれも北の海の生き物たちだ。図鑑が幾冊あっても足らないほどに役者はそろっている。みんなそれぞれ必要とする生態系の階層に従って順に棲み分け、パッチやコロニーを構成している。人の手が入らない海岸はごくあたり前に豊かで、人の心をたっぷりと満たし、癒してくれる。

32 有珠山 海の豊饒

いのちあふれる海 小潮だが潮位が44cm、干潮時が14時。快晴、凪ぎとみてアルトリ岬へ向かった。岬には春の光が満ちていた。北国の春は海から始まる。露出した潮間帯は生き物たちの群落で埋め尽くされ、数えきれないほど多くの生命であふれている。遠くに有珠山。7-8千年前、この山が山体崩壊し、「流れ山」群をつくり、その海が磯となった。縄文の民の命を支えたのもこの海だ。

 

31 ハナマメとサクラマスのマリネ

ハナマメとサクラマスのマリネ この地方の特産の一つにマメ類がある。10万年前の洞爺湖カルデラからの噴出物による広大な台地、ここのふくよかな土壌が生み出したものだ。特にハナマメは大きく食味が良い。それとサクラマス。洞爺湖産の陸封されたものも有名だが、これはこの地方の近海もの。この美味しいもの二大食材と身近な野菜を使ってマリネを作った。ワインにあう上出来の一品。

マリネを漬けこむ マメは一晩水につけ、煮崩れしない程度の硬さに煮る。薄く砂糖と塩で味を整えます。種類によって煮え方や味が異なるので別々に煮た方がよいでしょう。野菜類は切り分けてレンジにかけます。パプリカは黒く焼き皮をむきます。サクラマスはフィレにし塩で絞めて水分を抜き、皮を取りスライスします。穀物酢と煮切った白ワイン、砂糖、塩などをやや濃いめに合わせ漬け汁とします。好みのハーブ類(イタリアンハーブミックスあたりがおすすめ)とオリーブオイルを振りかけ、冷暗所に数日おいて完成。

30 Lepeophtheirus salmonis サケジラミ

Lepeophtheirus salmonis  サケジラミ サケのなるべくしっかり塩の利いて、なおかつ新鮮そうなのを一本買ってきた。切り分けていた時、尻鰭のあたりに何か面白い形の付着物を見つけ、ピンセットでつまみあげて見ると、何と寄生虫のサケジラミ。甲殻類のカイアシの仲間で、エビやカニ近い生きものだ。サケも自然の中の生きもの、寄生虫はあたりまえ。あらゆる動物は寄生虫ともども進化した。もちろん人間には無害。

サケジラミの世代交代 この甲殻類はCopepoditt幼体の時代、サケ・マス類にかぎ爪でしがみ付くようだ。膨大な数と種類のプランクトンにはこんなのも混じっている。食物連鎖上位のものに運よく呑み込まれず、自分の宇宙を手にした幸運な寄生虫の一匹。日本も含め、世界中の養殖サケでこの寄生虫のことが報告されている。採算に合わせ、ケージの中で過密に飼われているとこうなる。まして一大消費地としての日本がからんでいる。陸上のブロイラーのみならず、野生の代表と思っていたサケ・マス類、お前もか。

29 洒落者 ミヤマカケス

ミヤマカケス 今年の冬は庭に野鳥が来ないと思っていたら、来てくれました。ミヤマカケスです。翼の初列雨覆にある斑紋はまるで冬の明るい青空の欠けら。カラス科ですが洒落者です。あとを追ってヒヨドリがやってきました。カラ類も姿を見せました。キレンジャクやウソがやってくるのも間近でしょう。鳥たちが春の気配を知らせてくれます。寒いけれど、光の春は雪雲の切れ間に顔を見せています。

28 熱き心

ドームからの噴気 雪を纏った昭和新山。山体が形成されて66年経ち、麓からは緑が這いあがり、巨岩が堆積していた屋根山もすっかり様子は変わって、ドロノキ、ニセアカシア、アキグミなどが繁茂している。しかし、赤く焼成された天然の煉瓦のドームは今でも際立つ存在で、冷え込んだ朝には逆光に噴気が輝く。激しい噴火の末に誕生した火の山。体内の情熱と火照りはまだまだ収まってはいない。

27 いずしを漬ける

いずしのトッピングにヤマメを使う 飯寿司(飯鮓)を作った。北海道では「いずし」と言う。古来からの熟れ鮓(なれずし)がいくつもの土地の食文化として伝えられて、ついにはニシン漁、サケ漁の文化の花開いた北の大地にまでたどり着いた。琵琶湖の鮒ずし、石川県のブリのかぶらずし、栃木のアユのくされずしなど、各地にすぐれた食味として伝えられている。その味は川でも海でも漁師達の腕の見せ所であった。

 飯寿司は飯と米こうじを混ぜて使うのが一般的だ。それと塩で揉んでしんなりさせた野菜。そしてメインの魚。この季節は新鮮な地元の魚、ホンマス(本鱒)が手に入る。ヤマメの親にあたりサクラマスが標準和名。これを三枚にし、あばら骨をすき、塩をして数日置いて水分を取る。野菜と麹飯、魚を交互に6層ほどに重ねる。飯鮓は漬物である。乳酸発酵が味と保存性の決め手だ。トッピングにはこの近くの川で釣ったヤマメを飾った。15kg程の重石をし、0℃~5℃くらいで二カ月もすれば完成だ。

 

26 ガンビの皮を燃やす

燃えるガンビの皮 ガンビの皮を壮瞥町の奥山の小学校跡地で拾った。藪の中の仰向けに傾いた小さな門柱に駒別小学校とかろうじて読める。すぐ脇では森が伐採されていた。ガンビの皮はマカンバ(ウダイカンバ)の厚い樹皮である。昔から家具作りに重宝された太いマカンバは、今はもう少なくなったという。森の樹を薪にしていた開拓者の時代はこの皮がもっぱら焚きつけとされていた。