414  香りのハナビラ

ハナビラタケ知り合いから「これ何ですか」と純白のキノコを頂いた。ずいぶん大きな株だったそうで、もちろん「何処で」は言わないし訊かない。「食べました、美味しかったです」と味の評価も添えてキャベツ1玉くらいのを頂戴した。即座にハナビラタケと判断した。40年前、蓼科山で採ったが、それ以来食べ頃のには出会っていない。炊き込みご飯、マリネにしたが、色、味、香り、歯触りすべてに最上等品。ごちそうさま。

411  パラサイトの華

マスタケ生理的関係を持ちつつ共に生きる生活パターンに「共生」があるが、一方に利、主たる他方に害がある場合は「寄生」だ。ヤドリギがそれに近い。近くの果樹園から頼まれてキノコの判定に出かけた。50年経つという一抱半もあるプラムの老樹の幹からせり出していたのは見事なマスタケ。樹幹の木部には菌糸が盛大に繁殖しているのだろう。動物なら獅子身中の虫。色が鱒の身に似ているのでこの名がついた。軟らかな若い時には「フライ」にできるらしい。

352 雪の下の世界

雪の下の菌糸厚く積もっていた根雪が解けて去年の落ち葉があらわれた。湿った葉の表面に白い蜘蛛の巣のような糸とそれで出来た網が見える。これは菌糸だと考えた。マイナス数度、光の届かぬ湿度の高い環境の下でこの生き物は繁茂した。落ち葉を分解し土へ戻すきっかけを作ったのだろう。数日もせずにネットは春の陽に焼かれて消滅する。生命の星では立ち止まらず倦む事も無く、間違いなしに命は継続する。

302 ラクダの毛布

カラマツ林植林して20年くらいの若いカラマツ林。ラクヨウ(ハナイグチ)を採る人の姿も消え、足跡も無い。黄葉した葉はハラハラとすべて落ち5cmもの厚さになった。昔の贅沢品にラクダの毛布があった(ラクダの股引もあったけれど)。この冬、この山は雪の下で上等品の毛布にくるまれてひたすら半年熟睡する。

232 相互扶助

コアカミゴケコアカミゴケ。有珠山山頂近くのコスギゴケの群落の中で。コケではなく菌類と藻類の共生体。雨などの後は水を吸収して軟らかいが乾燥すると指先で灰色の砕片となる。極端な痩せた状態の中で、カビに近い菌類は菌糸で形態を維持し藻類は光合成産物を提供する。赤いのは盃状の子器で菌類としての繁殖器。学名は菌類として命名されるという。

230 赤い血

樹液 林道で見つけた切断された白樺。昨年11月の湿った重たいドカ雪で折れた樹を片付けたのであろう。根は生きていて、この春、新芽を精いっぱい吹き出すべく樹液を汲みあげたが、如何せんその先はなかった。白い樹皮に赤い血。甘い樹液に天然の酵母が飛び込んで発酵し、さらに赤かびの一種が繁殖したらしい。一つの命に、たくさんの生命体がぶら下がっている。やるせなさが残る春の不条理。

227 キノコの気もち

トガリアミガサタケスイセンが咲き始めたので、例年のようにサクランボウの樹の下でアミガサタケを探した。狙いは見事に外れ、今年は台所の脇で10個見つかった。なぜ発生場所が変わったのか、キノコが何を考えているかは判らない。大体にして地中の暗くカビ臭い世界のことだ。しかし、乾燥させると見事に香りの高い「セップ」となる。食べ方は良く知っている。クリームにもバターにも、鶏肉にもよく合う。生食は毒。

212 約束

フクジュソウ今年も咲いてくれました。フクジュソウです。信義を守り、申し合わせ通りにリンゴの樹の下で一杯に花弁を開いています。陽光のエネルギーをとらえ、パラボナ集光器でアロマを気化させては、この時期少ない虫たちの眠っていた嗅覚を呼び起こすシステムをここで見つけました。あと一週間もするとクロッカスが、すぐプリムラがあとを追って、そうするとこれまた約束通り、トガリアミガサタケの収穫だ。忙しくなるぞ。

206 美味しい黴

シイタケ食べるという行為、口で咀嚼し消化管で吸収、そして体外へ排泄。だが、口から肛門までは身体の外。身体の内側にある外界。動物なる我々はこの内なる体外を通して、必要とするあらゆる物を消化し取り込む。植物を食べる。植物を食べた動物を食べる。植物を食べた動物を食べた動物を食べる。それらの中で、植物でも動物でもない最も異端な食物がこれ、菌類。美しく若いシイタケ。美味しいけれど変な食べ物です。

204 純正キノコ鍋

純正キノコ鍋白老町で天然物のキノコ15種類の鍋を食べさせる店があるとのことで、キノコの会のメンバー打ち揃って出かけた。いまはシーズンオフで、いずれも昨年店主が自ら採取して保存した物が提供される。しかし味は勿論、香り、食感、色どれをとっても新鮮さを失っていない。化学調味料大サービスのキノコ汁キノコ鍋、あまた喧伝されるその中でこれぞ正真正銘、天然キノコ鍋。特にムラサキシメジの昨日採ったようにも見えるやつ。これはひときわ旨かったね。