537  蜜の味

クロクサアリギボウシの花から落ちた甘い水が葉に溜まっていて、黒い小さなアリが集まっている。このアリはクロクサアリ。甘いものに目がないアリで、仲間のフェロモン情報をたどって、列をなして目的に行き着く習性を持っている。それぞれの個体間の会話がわかるような配列で、こちらの心も引き込まれてしまう。何を囁き合っているのだ。

「A Taste Of Honey」。”I will return, yes I will return”  Barbra Streisandの甘い声を思い出す。He will return He’ll come back for the honey and me。

536  我が家の塩梅(あんばい)

梅しごと我が家の梅に10㎏の実がついて、関東よりひと月遅れの梅しごと。仲洞爺の豆腐屋から買う1.5kgのシャークベイ天日塩、10㎏の重石で漬けこむ。容器は常滑焼の甕18リットル入り。梅酢が上がったら底の濃い塩水を通した竹筒で数回天地返し。濃度を均一にすると上面も塩が効く。ひと月後3日間日に干して味のグレードアップ。半乾きでほんのり飴色になって確実に旨みを増す。北海道は気温が低いから低塩分漬物大国だ。

535  グミ・茱萸・胡頽子

グミ農家の庭先で見つけたグミ。今はもう口にする子供もなく、年寄りの思い出だけの果物になってしまった。渋い味はタンニンが含まれるからで、顆粒の付いた果皮やきれいな色と相まって、小粒ながら存在感がある。「ぐみ」は大和言葉由来だそうで、漢字の茱萸や胡頽子はいわくありげだが、今では意味を持たなくなった。「昔は食べたらしい」という時代が間もなく来るだろう。

530  サクランボ狂想曲

サクランボパイサクランボの花が一輪咲いたのが5月の初め。7月にはたわわに熟したその実が長雨ですべてヤラレて、家族も仲間もみな落胆した。傷んだのを雨の中で収穫し、種子を取りコンポートにしておいた。クレームダマンドを作りパイを焼く。サクランボの軽い酸味と薄い表皮の食感が生きていて、アーモンドの香りと相性がいい。パイを頬張りながら、色々あったこの三ヶ月を振り返る。

522  割れたサクランボウ

サクランボウこの4、5日小雨が降り続いて、せっかく色づいて食べごろになったサクランボウが割れてしまった。この時期の雨は大敵。水分を吸った果実は膨潤し、柔らかな果皮を内側から引き裂いてしまう。これでこの後暖かい日がやってくるとカビがくる。期待しながらの毎日だったのに残念至極。専業果樹農家は透明な屋根を付けている。我が家の老木三本に覆いはかけられず、天を仰ぐだけ。

515  豊作を願って

 収穫を願ってこの町の特産品オオフクマメの農作業が始まった。壮瞥町と隣の洞爺湖町で全国の生産量の半分をまかなっているという。甘納豆、煮豆、和菓子の必須材料だ。遠カッコウもしきりに鳴いて遅霜のおそれもない。エゾハルゼミの声とともに緑の濃さが増す。手前は大きくなり始めたビートの葉。これは砂糖の原料となる。遠景は壮瞥の市街。その手前は長流川の林。好い季節となった。

512  Chive チャイブ

 Chive チャイブワケギでもないし、アサツキかなと思っていたが、最近になってチャイブだと分かった。いつの間にか庭のあちこちに大株がいくつもできている。チャイブなら知っている。ごく当たり前のハーブだ。薬味、スープのうき実、サラダの付け合わせ何でもOK。レシピが先走って実物が後に現れた。ありがたく使いますよ。可愛いネギ坊主、指先でつぶすとポンと小さな音がする。

506  香りの一撃

ウドとフキ午後から雨になったら、お隣さんが「一回分だけど」、ひとこと言ってとフキとウドを置いていった。いつもこの季節、お隣さんを通して山からの頂き物の恩恵にあずかる。フキは擂粉木ほどの太さ、ウドは子供の握りこぶしくらいある。これで一回分だと言う。北海道では何ごとも一ケタ違う。腹いっぱいになって初めて美味しいという言葉が出てくる。

フキはアキタブキという大型の別種で、煮物やみそ汁にたっぷり入れ、軟らかな繊維の束をサクサクと頬張る。自分も反芻動物になった気がして爽快に旨い。ウドに至ってはその香気と苦みの一撃があって、しばらく脳みそのどこかが麻痺させられる。そのあと旨みが中枢に浸透してゆく。

しっとりと煙る空の向うにカッコウを聞いた。カッコウが鳴くと「何を植えてもいいのだ」とおとなりさんは言う。

505  リンゴの秘密

リンゴの花寒かったり暑かったり、北国の五月を彩るリンゴの花。気取りなくいつもの通り咲いているけれど、この蕾の紅色は何だ、花弁を抜ける紅の糸はどうだ。蕊の黄色はどんなからくり。丸く赤いリンゴへまっしぐらにあと150日。てらいも妥協もなく,花を捨てたリンゴはひたすら完結へと向かう。待っているよ、あの味、あの香り。

501  こんな風景

イタンキの浜今年、つまり2015年、5月の連休、こんな風景に出会った。家族が波打ち際でバーベキューを楽しんでいる。この家族だけ。大きな自然と潮騒の中、楽しい顔の思い出は何時までも残るだろう。そしてこの風景を大切にするだろう。自然を大切にするとは身近な所から始まる。住むなら、思い出を紡ぐならここへおいで。ここは室蘭、イタンキの浜。