131 地味な隣人 ヤチダモ

ヤチダモ この季節、はるか遠くからでも気になるのがこの樹の果実。種子が入った翼果は桃色を帯び黄色く陽に映えて、濃緑の葉の中に花が群がって付いているようで、この時期だけはひときわ目を引く。湿地を好むのでヤチダモ「谷地梻」。ハルニレ、センノキなどと並んで北海道を代表する樹だ。材は杢がはっきりしていて木工品に使われる。トドノネオオワタムシ(ユキムシ)はトドノキの根で単為生殖で数世代を過ごし、初冬、ヤチダモを目指して風に乗り飛行する。

130 先史を釣る

チマイベツ川 この小さな流れ込みは法的にはサケが遡上する川とは認められてはいないらしい。禁止区域の規制がないため、季節になるとサケとそれを狙う釣り人は毎年忘れずにこの川へ集まる。知里真志保・山田秀三「室蘭市のアイヌ語地名」(1960)にはチマイペッ・オッ・イ(焼乾鮭・多く・有る所)とある。小屋掛けして冬の食料を得た時代があったのだろう。水源は深い森にあるが河口の水量は少なく昔日の面影はない。遠く有珠山、昭和新山が望まれる。

129 南国の仇花(あだばな)

ホテイアオイ ホテイアオイの花が咲いた。夏にはピータン甕を水蓮鉢に見立てて水を張り金魚屋からこの水草を買う。こんなに見事な花が咲いたのは初めてだ。よっぽど暑かった夏なのだ。もとは熱帯、亜熱帯の植物だが温暖化と人の手により生息域を広げ世界中で増えて環境を壊している。日本では関東地方まで北上中だ。よく似た植物で古来から知られたミズアオイが北海道でも可憐な青い花を咲かせるがこちらの花は日本中で激減している。撹乱と侵略の世界。

128 夏の終わりに

夏の終わりに 保健センターのたたきの上にスズメバチの死骸が落ちていた。家の庭にはこの夏一つだけ咲いたヤマボウシの実がぶら下がっていた。湖で潜ったときに拾った錆びたスプーンにのせた。

斜めからの陽が影を作った。

123 灯りを囲んで

ツナ缶灯明 壮瞥町で子どもたちの防災キャンプがあった。有珠山は三十数年ごとに噴火を繰り返してきた。次の噴火まで折り返し点を過ぎたと考え、前の2000年噴火を知らない子供たちの避難生活を想定した体験学習だ。避難初日あたりの物資の少ない夜を想定し、夕暮れ、灯りを消し、ツナのオイル漬けの缶詰に灯心を差し込んだ小さな灯りを囲んで、非常食のみの夕食となった。その場にあるものを利用して作った灯りがみんなの顔と心をひき寄せてくれた。

121 潤沢の証人

スジエビ 観光客の多い少し賑やかな壮瞥温泉の湖畔を潜ってみた。壮瞥滝付近とは大違い、みごとに豊かな生物たちの姿に出会った。要するに「富栄養化」の世界が有った。アオミドロ( Spirogyra  sp.)に被われた軟らかな世界に、たくさんのスジエビが遊んでいる。ヨシノボリの顔も見えている。陽光の届く豊潤な世界だ。潤沢な生物相を示すのは恒常的にリンや窒素などの栄養塩類が補給される、水陸相まっての生物生産が活発な地域である証しなのであろう。

116 トチノキ婆さん

トチノキ婆さん アイヌ語ではトチの実を「トチ」、幹を「トチニ」と言うそうだ。縄文の時代からその実も材も生活に繋がっていた。実は食料に幹は臼や杵になったと言う。洞爺湖中島のフットパスでトチの実やその厚い殻皮が落ちていたらその斜面にはきっと大きなトチノキが有る。トチの老木を見つけ皆で記念写真を撮った。トチは灰汁抜きが難しく食料としては日常から姿を消したがフィールドでの存在感は抜群だ。トチノキのお婆さん、おいしいトチ餅を御馳走してよ。

115 緑青スプーン

緑のスプーン 暑い日が続き、たまらなくなって洞爺湖で泳いだ。穏やかに広がる湖岸の緑を眺めながら澄んだ湖水に潜るのは贅沢の限りだ。切り立った岩棚から深みに落ち込む碧さはたまらなく美しい。水深3mほどの砂の上に緑色のスプーンが落ちていた。古くから沈んでいたらしく、すっかり酸化して緑青に覆われている。

 以前、洞爺湖への流入河川はカルデラ外輪からのものだけで、流出は壮瞥滝のみであった。1939年に長流川から導水をし3カ所に発電所が作られ、上流の黄渓にあった鉄・硫黄鉱山から強酸性廃水が流れ込み、1970年にはpHが5.3まで低下したと言う。現在、国が巨額を投じて中和処理を行ない、これは半永久的に継続してゆく。だが、有珠山の1977と2000年の噴火では噴出された火山灰によりpHが上昇、多少生態系が改善されたようだ。水中では時々コイや小魚に出会うが、生物生産の場としてはまだまだ貧弱な湖である。人が手を加えて悪化した洞爺湖の水質と、自然災害がもたらしたその改善。「禍福はあざなえる縄」か。

114 麦秋

麦秋 家の裏で秋播きの小麦の刈り込みが始まった。7月末から8月、よく乾燥した日が続いたので収穫は順調だ。けたたましい音と金色の穂のくずを撒き散らしながら畑の収穫は数時間で終わってしまった。有珠山の外輪から見下ろすと、伊達市から壮瞥町にかけて様々な色付いたパッチの風景が広がっている。この小麦はパン用ではない。パンを毎週1kgの粉で焼く私としては残念だ。

111 黒はすべてを

カシス 色の三原色を混ぜると黒に見えると言う。ブラックカランツはカシスという名の方が一般的で、ジャムやリキュールの名でよくレシピに登場する。今日我家で収穫のカシス、1.8kg。黒く輝くオニキス玉。その1/3量のグラニュー糖で煮て、たっぷりの軟らかなジャム(ピュレ)を作った。上出来のジャムと調理器具すべて深みを帯びたカーマインに染まった。驚いた。粒よりの漆黒の宇宙には溢れる カーマインレッドのパッションが包含されていた。黒は激情の色。