180 凍る火の山

凍る火の山 不凍湖も凍る寸前なのか。氷のシャンデリヤの向こう、左から昭和新山、有珠山、その手前の丸いドームは東丸山。胸までのウェーダーを履いて湖岸をたどると、一足ごとに鮮烈な風景が展開する。純粋で質素なセピア色の小宇宙。自らの筋肉感覚、皮膚感覚で四季のページをめくってゆける。このような苛烈でかつ豪奢な自然もまた北国のジオパークの魅力のひとつだ。

179 ホタテを食べる

Patinopecten yessoensis 北の海の冬季代表は何と言ってもホタテ。噴火湾で養殖され、4~5年物が出回っている。英名 Scallop で総称される Pectinidae の中でも特筆される食材。まして種小名 yessoensis は蝦夷地のこと。ならば北海道人としては誇るに値するまさしく自慢の逸品だ。

写真のローズマリー側から左へ、外套膜、鰓、右外套膜、閉殻筋(貝柱)、中腸線。いずれも食感、味に際立つ個性がある。大きな貝柱の横に付いている小柱(写真左上)は殻を閉じっぱなしにする平滑筋からなる補助閉殻筋で、コリコリしたなんともよい食感を持っていて、私の最も好きな部位だ。緑褐色の中腸腺は肝臓の働きを持ち、貝毒などをため込むことがあるので通常は食べないが、なかなか「濃い」レバー味が有ってこれまた旨い。ローズマリーの右にあるのはボイルした卵巣で、精巣は白みを帯びる。

乾物の貝柱は中華料理では世に聞こえた名品で、外貨獲得のお役に立っているが、われわれが日常手にするホタテは、採れたての絶大なる美味しさがあるうえ、食材としての使い勝手や値段もお手ごろで、貝柱の刺身、殻つきのバター醤油焼き、炊き込み飯などお馴染みのメニューにおさまっているようだ。だが、産卵期(春)前のたっぷりと太って豊潤な旨さの満ちた生殖巣や、外套膜の濃厚な食味は主役たる貝柱に負けない逸材である。鮮度の良いホタテが入手できることを最良の武器に、その風味を生かすことが出来れば、濃厚ながら穏やかな味わいは他の食材や調味料、ソース類との相性も良く、多様な料理へと進化できよう。現地人たるもの、この卓越した可能性を眠らせてはならない。

178 黒と白

ウップルイノリ 1月4日、室蘭イタンキ浜。北西の風が強く、-5度。干き潮の潮溜まりの海水が凍り始めている。露出したテトラポッドの潮間帯の上の飛沫帯。イワノリが貼りついた上にさらに氷が纏わりついている。このノリ、細長さからウップルイノリだろう。古代から日本海で知られた北国の海の幸だが収穫はこれから。4月になると枯れて流れ出す。芯まで冷えたが昔をしのぶ砂浜に癒された。

177 春よ

イヌコリヤナギ 凍りついた足もとに、何かしら軟らかな気配がして、そこにはイヌコリヤナギの低い株があり、今にも動き出しそうな芽があった。オリーブ色の曲線を描く若い枝と、膨らみつつあるバーミリオンの花芽は、花綵となってたおやかに繋がり、滴る氷はまるで軟らかなゼリー菓子のようだ。ほんの一瞬だったが、懐かしい春の匂いがした。  「春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき、、、」

176 過酷も恩寵

素顔の洞爺湖 冬の北海道はこんなもの。もっと北は凍結して逆におとなしくなる。日本はいいですね。このような風景からサンゴ礁、マングローブの海まで、ビザなしだ。南北に3000km。これほど懐の深い自然に恵まれた国は多くは無い。この国に生まれただけでも幸せというものだ。だが、それだけデリケートな自然でもあり、多様な自然災害の存在も事実。あわせて受け入れねばならない。

175 風に吹かれて

凍れるハクチョウ 洞爺湖、北風岬でこんなのに出くわした。北風に舞い上がった飛沫が凍てついてたまたたまこんな形に。自然の妙などとは言わないが、風に吹かれ、鼻水を凍らせながら気の向くままに歩いていると何かに出会う。温室住まいからは何も生まれない。季節は冬。ごく当たり前の季節の経過を皮膚で感じて初めて「生きている」証になる。書を捨てよ、凍れる野へ出よ。

174 極寒のラベンダー

ローズマリー-8℃。バス停からの帰り道、近所の庭の端っこにあったラベンダー。ローズマリーかと思ったが、香りを嗅いだら、確かな豊潤な大地の香り、ラベンダーだった。寒さには強いとは思っていたが、雪に埋もれているならわかるが、寒風に晒されて春を待つ。神奈川にいた頃、ラベンダーを数株植えたが、夏の暑さには耐えきれなかった。我が家の庭にも植えよう、あの薄紫の花穂で何を作ろうか。寒中に庭仕事を考えた。

173 寒風のケサランパサラン

ガガイモ 12月、北国の寒風に乗って幸せの種子を運ぶガガイモ科ガガイモ属のガガイモ。冠毛は長く軟らかで、斜めの陽射しの中を緩やかに飛ぶ。ケサランパサランは幸福をもたらすと言うが、この世の幸がこのように軽いのもまた真実。人の運不運もまた、糾える縄のごとく、吹く風に弄ばれながら漂泊し続ける。吹き溜まりで絡まりあって、大きく膨らめば望外の喜びだが。

170 過冷却の海

伊達新港 空っ風で体感温度は-10℃以下。釣り人のタックルバッグには40cmの綺麗なアイナメ(アブラコ)が1尾入っていた。ここは減少する漁獲量を確保するために噴火湾につきだして作られた、出来たての伊達新港。こうやって浅海は隔離され埋められて、祖先から引き継いだはずの美しい海はさらに遠くなる。冷え切った体で帰路についたが、車の旧式のナビには遥か海上を走った痕跡が残っていた。

169 不思議な一体感

「起源‐湖上に向かって」 旧洞爺村のちかく、雪の中にある黒御影の石彫。石塊の曲線は優しく柔らかで風景と一体感を持ち、磨かれた面に映る風景は違和感なくフィールドとつながっている。いろいろな方向から映る風景を楽しんだ。湖の周囲43kmをステージとしてこのような彫刻が58基置かれている。1977-78の有珠山噴火復興10周年記念に作られたものだ。これは湯村光・作 「起源‐湖上に向かって」。