248 命を紡ぐ

エゾシロチョウさなぎの殻を脱ぎ捨ててすぐの求愛、交尾。生きものの苛烈な宿命の形を垣間見た。卵から幼生期へ。多量の葉を食べての肥大。次の蛹時代は空中へ飛躍するための体内機構再編。そしてメタモルフォーゼ。幼年期は終わり、光に満ちた中空でエゾシロチョウは優雅に舞い、華麗に命を繋ぐ。集団で羽化し、その同時性を逃さず、速やかにそして激しく命は受け継がれる。

247 ツタの戦略

吸盤のような9年、外壁にツタの苗を5本植えた。その年60cm位伸びたが、か弱く将来に不安を感じセロテープで補強した。豈図らんや、翌年からの成長の勢いは見事で、コンクリート打ちっぱなしの壁面を夏は緑に、秋は見事な紅葉となって楽しませてくれる。吸盤のように見えるのは葉が変形した部分。やがて樹脂を分泌し固着する。茂った葉蔭には小さな五弁の花が咲き、甘い匂いがし、いく種類ものハチがやって来て、耳鳴りのような音が窓から飛び込んでくる。

245 棲み分けて

潮間帯秘境の駅「小幌」下車、小幌洞窟遺跡と自然を探る観察会に参加した。みどり香る初夏の小幌海岸、大潮の海は水位が下がっていて、潮間帯の観察にはもってこいの一日となった。潮間帯上部のムラサキインコ、その下部のイガイのすみ分けラインがとてもはっきりしていて、それに伴って生育する生物群集がよくわかる。潮上帯、飛沫帯の生きもの達、潮下帯のワカメ、コンブなどの褐藻類も含め、海の生きものの世界でもここは秘境である。

244 壮瞥滝の地蔵岩

壮瞥滝地蔵岩壮瞥町の名前の由来は安政4年(1857年)地を調べた松浦武四郎の「於沙流辺津日誌」に記された「ソウベツプト」に始まるという(壮瞥町・写真資料集による)。「滝(ソウ)のある川(ペツ)」がこの町の始まりだ。この滝無くしてこの町は無かったということだ。街の中心部は滝之町と言う。近年、滝の姿は変わったが、滝壺近く飛沫の中にでんと居座る地蔵岩を見つけた。この滝がこれ以上姿を変えないようお守り頂く守護地蔵だ。

243 所帯やつれ

ハシボソガラス(雌)わが家の周辺を縄張りにもつハシボソガラスの雌。近所のアカマツの木を追われ、近くの大きなクリの樹に二度目の巣作りが終わって、やっとの抱卵中にまた巣を落とされてしまった。つがいで寄り添って慰め合っていたが、すでに季節は移ろって、三つ目の巣はつくらなかった。いつもなら巣立った雛を連れ、餌やりに精を出さねばならない時期だが、小さな木陰で一瞬のうたた寝をしているのを私は見てしまった。

242 シウリザクラ

シウリザクラ私の好きな花。たくさんの花をつけた総状花序をもち、そのグラデーションが爽やかだ。今年は春が遅く、そのとばっちりで初夏が一気にやってきた。気が付いたらこの花の盛期。季節を探して野山を歩いていたはずだが、今では季節に追い付くのがやっとだ。眩しく見上げると、トチノキもホウノキも六月の風をうけて、もうすでに終わろうとしている。

239 コウモリの館

ヒナコウモリの館勉強会があって倶知安町の百年の森へ出かけた。そこでお目にかかったのがこの巣箱。小鳥の巣箱は良く話題になるが、これはコウモリのための巣箱で。この森の管理をしているM氏が作成したものだ。現在はヒナコウモリが利用しているという。ウサギコウモリも同じ樹洞棲なので、利用してくれる可能性もあるという。新緑の明るい光の中ではなく、淡い月光の下でせめて声でも聞きたいものだ。M氏の薪小屋には数千匹のヒナコウモリが集まるという。

238 三つ葉の紋どころ

ツタウルシ遊歩道のわき、蔓性の若葉が伸びている。画面左の丸みを帯びた葉はツルアジサイ、右側の三枚葉はツタウルシ。少し遅れての登場だが、今一番の元気者、強面の登場だ。「この三枚葉が、目に入らぬか」 知らねばそれで済むのかもしれないが、この時期、この三枚葉には注意が必要。野生のウルシでは最も毒性が強く、ツタウルシ皮膚炎はPoison ivy dermatitisと言う。

237 カパチェプ (ヒメマス)

ヒメマス紅サケの湖沼残留型。アイヌ語でkapa=薄い、cep=魚。今季解禁を迎え、最初の網にかかったもので、40cmを優に超す洞爺湖では最大クラス。脂の乗った堂々たる体躯をご覧あれ。スモークサーモンに試作してくださいと預かったもので、身は紅く色付いて、その味はかるく融けるようで、しかもしっかりとしたその滋味は他の種の追従を許さない。ソミュール液に漬け、6月の風に干し、まだ気温が低いのでゆっくりと冷燻にする。

236 秘密の花園

豊かな磯室蘭の外海の海岸線は地形にしても生物の棲家としても実に多様で、植物、動物の種類も豊かだ。まさしく豊饒の海である。だが残念なことに、人の手が入るとたちどころにコンクリートで埋め立てられ波消しブロックが入り、おまけに育苗、栽培漁業と銘打って味気ない海に変容する。自然の磯や浅海が生態系を支えるもっとも優れた揺籃の場だというのに。じり貧の海が迫る。