365  目覚めのサラダ

サッポロマイマイ暗く湿った落ち葉の下で半年の冬を越し、やっと目覚たサッポロマイマイ。だがここ数日の北風に身をすくめてしまったか。春の気候は気紛れだ。オオウバユリの軟らかなサラダ模様に身を預け、あとひと眠りしたいのか。角出せ槍出せ、目覚めよ、春だ。

364  タンポポの五月

エゾタンポポ足元から遥か遠くに見える町役場の向こうまでタンポポに埋め尽くされて、景色が黄金色に染まる。セイヨウタンポポ、昔、牧草とともに渡って来たが、いまではこの季節を彩る土地の花。スカートもズボンの裾も金色の粉でよごしながらこの花を集め、太陽の光をお酒にする。タンポポのお酒だ。五月のエキス。何という贅沢。レイ・ブラッドベリーに乾杯。

363  昭和新山、噴火前の集落を探る

消えた集落1943年12月に前兆地震、翌1月から麦畑、道路、鉄道が隆起しはじめ、4月からはフカバ集落が50mほど隆起した。人々はこの地域を離れざるを得なかった。鉄道は幾度も敷設しなおされた。その後、フカバ集落は棚山の形成、屋根山斜面の崩落、浸食により、元の形を失った。現在いくつかの遺構や遺物の場所を繋ぎ合わせ、集落の古地図と照らし合わせる作業をしている。

362  マイヅルソウ

マイヅルソウてりのあるハート型の可愛い葉。この葉を見ると春の到来をしみじみと感じる。まだ硬く小さな花穂も見える。やがてこの下闇にちららちらとすずらんのような白い花をつけ、ルビー色の実は秋の終わり、初雪にも映える。緑の葉の中からツタウルシの三枚葉の赤い葉芽を見つけた。いまが一番毒性の強い時期。アア、春だ

361  おかしいぞこの標識

北米のシカ北海道で出会う道路標識。よく見ると角の向きが逆だ。調べたら北米・中米に分布するオジロジカ(Whitetailed deer)の角が特異的にこの形だ。シートンの動物記に自筆の彩色画が載っている。日本のシカではないよ。基準となる国土交通省の道路標識一覧(214の2)がこの図柄だ。誰かがはなから間違った。種類ごとに角の形はちがうよ。飛び出して轢かれたシカの角をよく見てごらんなさい。シカがかわいそうだ。

360  来るぞ 2014+X (X=0~)

時期噴火今日も無事安寧な一日を終えた。しかし、春の宵の朧なる有珠山を見ているとどこか次期噴火の不安が付きまとう。室蘭民報が有珠山噴火の特集を組んで、5月1日、北大名誉教授の岡田弘さん、翌二回目は三松正夫記念館館長三松三朗さん、三回目は前壮瞥町長山中漠さん、4回目は前虻田町長長崎良夫さん、5回目は胆振噴火湾漁協福島浩二さんと次期噴火への提言を連載している。時機を得た掲載だと思う。

359  名残りの花殻

イワガラミ洞爺湖畔の周遊道路から湖水までの狭い林は国有林。人の手は入らないから自然のままの四季を味わえる。ふと見上げるとイワガラミの花の残りがぶら下がっていた。萼片が1枚付くのがイワガラミ。近くには萼片4枚のツルアジサイや北海道ではサビタという名で知られる、つる性ではない灌木のノリウツギも見つかった。三種ともユキノシタ科。この冬、強風が吹かなかったから残ったのであろう。

358  季節の力

キバナノアマナ人の踏みこまぬ静かな洞爺湖畔で、落ち葉を持ちあげる小さな花を見つけた。キバナノアマナだ。重なる病葉を突き破って命が萌える。気が付くと、いくつも見える落ち葉のふくらみはみなそのような春の力で持ち上げられていることに気が付いた。季節とは廻って来るカレンダーの月日や時間の経過ではなく地表を覆う命そのものの循環。また春がやって来た

357  有珠山の雪

有珠山の残雪有珠山の山頂付近にまだ雪が残っている。北海道でもサクラのニュースが聞こえてくるが、このところの数日どこかで足踏みしている。この地方の農家では「有珠山の雪が解けて、カッコウが鳴くと何を植えても心配がない」という。今年は例年よりサクラは早いというけれど、今回、日本海にそってサクラ前線と一緒に北上する旅をしてきた私にとってはいささか複雑な気持ちだ。

356 蒼い空

眼近くの家で輓馬が保養している。本当に大きな馬で、人の頭くらいの大きさの蹄を持っている。私を見てくれている。近寄ると顔を持ってくる。優しく穏やかな眼だ。頬を撫で頤を掻いてやる。瞳を動かさず、私の眼をじっと覗き込んでいる。数秒、私の心は洗いざらい見透かされてしまったと思った。眼には蒼い空と有珠山と私が映っていた。あとひと月もすると、この眼にはどこまでも広がるタンポポの原っぱが映るはずだ。