494 日が落ちて

夕焼け昼を照らしていた陽が落ちてゆく。斜めからの光線は厚い大気の中で屈折し反射し、茜の色を雲に伝える。雲は湧き雄大となり、間もなく光芒は萎える。足元から、雑木林の向こうから闇の気配がやってくる。 どこにでもいつの世にもある、日暮れの風景。

493  目覚める昭和新山

昭和新山登山会2015年4月18日、ジオパーク友の会会員の今年初の登山会。約50名参加。昨日までの悪天はどこかへ消え去って、たっぷりと雨水を吸い込んだドームの天然煉瓦はまさしくレンガ色。頂上に10名ほど、水蒸気の上がる亀岩のあたりには20名くらいか。我が家の窓をいっぱいに開け、四月の風を入れながら2,5km先のドームを300mmで撮った。

492 鱈と筍

鱈の煮物漁師さんからスケトウダラの干物をいただき、納戸に吊しておいた。数日前、知人が本州からの筍を持ってきてくれて、コラボの結果がこの煮物。鱈と筍の含ませ煮だ。孟宗竹の原産地は中国だが北国の鱈との相性はいい。サンショウの新芽を添えたいところだが、寒さに耐えたイタリアンパセリで代用した。歯にも胃袋にもガツンとくる骨太の一皿。

491  雲間の駒ヶ岳

渡島駒ヶ岳低気圧に南からの湿った暖気が吹き込んで日本列島に春の雨。夕方近く、噴火湾に雲の切れ間ができて、伊達の郊外から見る50km先の渡島駒ヶ岳が雲海の上に浮き上がった。解け残った雪をのせ、たそがれ近く、雲間の火山は墨流しの一幅に仕上がった。たっぷりと降った雨はこの季節、畑や野山にとっての恵みの雨となった。

490  斑雪大有珠

大有珠谷あいに洞爺湖からの霧を纏う、はだれ雪の残る大有珠。明るい4月の光に誘われて窓を開けると大有珠の山巓が見える。雪が消えると同時に握りこぶしほどのアキタブキの蕗の薹が現れる。今年はどこから登ろうかと考えながらルートを探していると、自らの体力の衰えも春霞の向こうに見えてくる。

489  またね、モラン

クロッカス満州の寒気を抱え込んだ高気圧がやって来て、晴れたけれど早朝の気温は-4℃。庭に春を告げていたクロッカスのあたりにうっすらと雪の名残りが。朝日に当たるとはらりと溶けて、黒土に滲み込んでゆく。冬の精霊、モランはムーミンの友達だ。明け方にここを通ってホロホロ山へ帰ったのだろう。今日のホロホロ山は真っ白に光っていた。

488  往くもの

北帰行垂れ込めた空を呼び交わしながら飛ぶ白鳥の群れ。白く澪を引く川の流れを見ているようだ。やってきた季節に合わせ、身の内から沸きおこる本能行動。悠久の昔から、血の中に蓄えこまれてきた約束に違わず、今年も北へ向かう。

私たちは地の上に佇み、ただ見送るだけなのだが、旅立ちを見ていると心の底に悲しみがわいてくるのはなぜだろう。私はこうやって、幾度も往く鳥たちを見続けてきた。私もまた、流れ去る月日の中に棲んでいる。

487  キレンジャク

キレンジャクサクランボウの幹の上にキレンジャクがやってきた。数日前から姿を見せている四、五羽の片割れだ。近づいても平気で、昨日庭に置いたリンゴを食べている。シメよりもっと強面風で、冠毛と尾の先の黄色いワンポイントが可愛い。アトリが数十羽、アカゲラ、ツグミ、ヒヨドリ、ムクドリ、シジュウカラ、シメ、スズメ。それにブトとボソのカラス。裏庭も賑やかだ。

484  風貌はおとなしいが

渡島駒ヶ岳大沼東端付近から春の陽を受ける渡島駒ヶ岳南東面。例年より雪の少ない3月3日、流れ山の林の色が柔らかくなって春の兆しを感じる。火山土地条件図を開いてみた。特異な風貌のこの山は、左右両山麓の傾斜をつなげる富士山型の山様だったという。5千年の休止期間の後、1640年に突如爆発した。徳川時代の初期の頃だ。中央に丸く見えるのが隅田盛(584m)、左は剣ヶ峰(1131m)で、その間の大きな斜面が一回目の山体崩壊した斜面で、水系を分断して大沼などを形成した。右のピークは砂原岳(1112m)で、その手前の斜面が二回目の崩壊の跡で、この時の岩屑なだれは噴火湾に大きな津波を引き起こして、室蘭、有珠周辺で7百人以上の死者を出したという。その津波堆積物は遺跡発掘の実年代を判定する基準になっている。顔立ちは幾度もの山体崩壊を繰り返してできた磐梯山の東側にも、1980年に噴火したセントへレンズ山にも似ているし、有珠山もまた1663年の噴火以前の風景は似たものだったであろう。

噴火湾になだれ込んだ跡は出来澗崎(できまざき)として残っており、沖合はるかまで続いてその岩礁は水産資源をうみだしている。対岸の有珠の海も7千年前の今の海岸線に至る初期の時代にはこうであったろう。この海岸を最近になって幾度か訪れた。浸食されつつある岬の漁師は「いい海だ」という。有名な砂原(さわら)コンブや近年名が売れた「ガゴメコンブ」の自慢をし、上質な海の幸をたっぷりと分けてくれた。

483  クミンの香り

モモとクミン裏庭に2本の白桃が育って、昨年の夏の終わり、キイロスズメバチをかわしながら収穫し、ジャムをたっぷりと造った。半年食べて残り少なくなった旨いジャムを今朝も楽しんでいた。隣の皿のポテトサラダに振りかけたクミンがジャムに飛び込んだらしく、知らずに食べた舌の上でクミンの香りが弾けた。モモとクミンは相性がいいことに気が付いた。我が家のモモがそのままアラビアの大地に繋がったみたいで、大脳の官能中枢を駆け抜け、鼻へも抜けた。

今年のモモの収穫は紙袋をかけよう。モモが好物のスズメバチにはご遠慮願って、クミンや異国のスパイス類でモモを楽しんでみよう。