97 草を引く―ヤブマメ

ヤブマメ 庭の日向や陰りからいろいろな植物が顔を出す。藪にするのもいやだから、膝を折り、頭を突っ込んで、素手で草を引く。袖は露に濡れ、指先は土まみれ。昨年は手を抜いたせいでヤブマメが大発生した。この種はハギに似た解放花のほかに、地下の閉鎖花に小指の先ほどの豆を付ける。縄文びとは身近な食として食べたようだ。アイヌ語では「アハ」といい、秋や春先に収穫、保存もできたという。「かてめし」にでもしようか。取り去るか残すか思案中。

94 金銀珊瑚の

キンギンボク 眼下に噴火湾を望む有珠山の南外輪、風通りのよい遊歩道の左右にキンギンボクが花を付けている。甘い香りに昆虫が集まっている。開花直後は白色、やや時間がたつと黄色みが増し、盛夏、真っ赤に熟して二つ癒着したヒョウタン形の実を付ける。別名ヒョウタンボク。はるか足もとに見えるアルトリ岬の海岸にもこの群落がある。ここと同じような環境だ。だがここは35年前の1977年山頂噴火で植生が失われている。何処から運ばれてきたのだろうか。

92 思い出のアンニンゴ

シウリザクラ シウリザクラが咲いた。桜とはずいぶん趣きが違っていて、調べて見るとより北方系のグループらしい。新緑の木陰に浮かぶ純白の総状花序はひときわ印象的だ。近似種のウワミズザクラの若い花序を塩で付けた「アンニンゴの塩漬け」を人からいただいた。30年も前の話だ。杏仁霜の香り、サクラ餅の葉を幾倍にもした濃厚で芳醇な香りが鼻に抜けた。今でも鮮明に思い出す。

86 再生したシラカバ

シラカバ 有珠山に面した昭和新山の登り口に、樹幹がよれよれになったシラカバがある。1977年からの有珠山頂上噴火の際、粘土鉱物が含まれた火山灰の被害にあった樹だ。降雨と混じった泥滴が枝先に粘着して固化し、重く垂れさがったけれど、若かった樹はそれでもなお復活して成長し、毎年葉をいっぱいに茂らせている。我々に元気を与えてくれる再起の標本木だ。

85 揚羽蝶

キアゲハ   タンポポの上にやっと降り立った黄色い揚羽蝶。「揚羽」とは翅を揚げて止まるからというが、まだそこまでの威勢はない。この名、どこかに艶っぽさが私には感じられます。まだ大きな羽で舞うことが出来ぬ、羽化後間もない幼蝶だ。あどけなさが残るこの小さな春型はどんな春を過ごすのか。2、3週間、一所懸命の充実した命。食べ物はエゾニュウ、アマニュウなど風味濃いセリ科。

84 蒲公英

タンポポ  一面のタンポポの向こうの昭和新山と有珠山、春爛漫の壮瞥の野面です。山は柔らかな緑に包まれ、ヒバリやウグイスの声が聞こえます。穏やかな風土と豊かな食材に恵まれた町です。この有珠山、三十数年の間隔で噴火を繰り返してきました。次の噴火まで折り返し点を過ぎたようです。大きな自然とつながっています。そのような生活をしたくってこの町に移り住みました。

83 種子に翼がない

ハイマツ 有珠山ロープウェイ山頂駅からの遊歩道に種名が分からないマツ(植栽)があった。5葉のマツで、キタゴヨウかハイマツか悩んでいた。やっと野鳥の食べ残しの球果を探し種子を見た。キタゴヨウには有るはずの翼がない。チョウセンゴヨウとそっくりの丸い種子だ。ささくれた樹皮も幹の下部に見つかった。これで決まり、ハイマツと同定。だが、この実を食べたのは誰だろう。

82 日蔭の嫡流

シダ植物 昭和新山の谷あい、林の奥の湿った窪地に広いトクサ群落を見つけた。オシダとクサソテツ(コゴミ)が漏れる陽を受けて丈をのばしている。この三者、いずれも胞子で増えるシダ植物。葉脈を持つ真葉植物では種子植物と肩を並べる種群だ。ササ類が侵入していない林床で、いろいろなシダが生育している。噴火でリセットされた植生が遷移の途中でこんな別世界を見せてくれる。

81 ビャクシン属(G. Juniperus)

ビャクシン属(G. Juniperus) コロラドビャクシンの園芸種、ウィチタブルーを植えた。たまたまやってきた知人に「果樹に影響が」と指摘された。そうだビャクシン類はナシの赤星病の中間宿主だった。リンゴにもよくない。私の住む町、壮瞥はリンゴを中心にサクランボ、ナシ、プラムなど、果樹の生産地として有名だ。以前に植えた「ブルーカーペット」も同属だ。涙をのんで両方合わせて処分した。迂闊だった。

79 春の妖精

キバナノアマナ キバナノアマナ。スプリング・エフェメラル(春の妖精)の一人。樹木が葉をつけぬ間に、いっぱい陽をあびて春を謳っている。 ガゲア=ルテア Gagea lutea (L.)。ヨーロッパ全域に一般的で、 Yellow Star of Bethlehem と言われるが、フィンランドでは希少だとのこと。それで納得した。いつもルーペと胴乱を身につけたフィンランドの親愛なる蒐集家、ヘムレンさんはこの花をコレクションの第1号とした。頷けることだ。