661 クワの実

クワの実初夏の風が吹き渡る林にクワの実を見つけた。陽の透ける葉裏の黒い実はちょうど食べ頃で、甘さとかすかな酸っぱい味が懐かしい。口のまわりや衣服まで赤紫に染めながらも子供たちはおやつ代わりに摘んで食べたが、いまは誰も食べない。樹皮からはものを簡単に束ねるくらいの繊維が得られるし、材質は強靭で道具の柄や、杖として日常使う最上の棒っきれとなる。身近なお宝だったのに。

655 待ってました!

サンショウ

洞爺湖畔で偶然サンショウの樹を見つけたのが10年前。毎年若い葉を摘み取り、会津本郷窯のニシン鉢で身欠きニシンの美味しい会津漬けを楽しんでいたが、この樹は雄株で実は付いていなかった。サンショウの分布域の北限は北海道南部。洞爺湖中島には立派な群落がある。室蘭の中国料理店の庭に良く育った樹を見つけた時は実に羨ましかった。

爾来、苗を貰ったり買ったりして植えけど、みな雄株ばかりだった。数年前から育てていたサンショウに雌花を見つけ、小躍りしたのはこの春のこと。今朝、その半分の一握り程を収穫し湯がいて冷凍保存した。塩蔵でも良いという。残りは秋に割れた黄色の殻から真っ黒い種子がこぼれるようになってから収穫する予定。やっと自家の山椒の実で漬物や佃煮の味付け、大好きな麻辣(マーラー)味の麻婆豆腐が楽しめる。

654 大南風・おおみなみ

サクランボ日本海にあった低気圧が発達し、梅雨前線を引き連れ、この辺りを北上中。夜来からの雨風は日中になっても止まず、昭和新山の屋根山のドロノキ林は吹きあげられて白い葉裏を見せ、山は銀色のシーツで包まれたように見える。普段は葉裏に隠れているこの町特産のサクランボウも強い南風に煽られて、美味しそうな色がよく見えている。今年の成りは良いようだ。あと一週間で味が乗る。

650 赤銅色に

コウリンタンポポ森の緑は濃さを増し、空ではアマツバメが弧を描く。タンポポの黄金色はいつの間にか育ち盛りのギシギシやノラニンジンに換わった。隣家の草地にコウリンタンポポの群落を見つけた。10年前にはほんの数本だったのに。地面にひれ伏すロゼット葉は刈られや踏みつけに強い。シロツメクサ、ブタナも見える。将来、赤銅色のコウリンタンポポが北海道の初夏を演出するかもしれない。

647 湿原の風景

根釧原野道東の植物を追っての旅の最終日、釧路湿原を見ようと釧路町の細岡展望台に立った。花の細部にこだわり続けた五日間だったので、ここからの眺めは、近接撮影から超広角レンズへと視野が開けた瞬間であった。感嘆の声を上げようか、声を呑みこもうか。大きな風景に身体から力が抜けてゆく。誰かがつぶやく。「ここは日本ではない」大げさな、でもわかるよその気持ち。

1km先、悠々と流れる水にボートが見える。いつか読んだ、ジェローム・k・ジェロームの「ボートの三人男」を思い出した。若い日の開高健はここの下流、雪裡川で地元の画家、佐々木栄松に案内されてイトウを狙い、「完璧な、どこにも傷のない、希な一日」と漏らした。

646 シコタンタンポポ?

シコタンタンポポシコタンタンポポは北海道の道東から十勝、日高、胆振の海岸に分布域を持つという。日高、大楽毛の国道沿いにひときわ目だって咲いていた。橙色がかった大きな花冠は「5㎝を超す」と言われているが、7㎝もの大きさの花を見つけ感激した。室蘭イタンキ浜の個体(ブログ502)と合致するかどうかはさておき、このシコタンタンポポ、北辺の海辺を棲家に盛大に生きている。

だが、この地域で、しかもややオレンジ色が濃く、大きな花冠を持つからシコタンタンポポと同定したが、わたし自身、この種そのものの形態的な特徴を確認しての判断はではない。外総苞片の厚さ、形、色など、この地域でのエゾタンポポとの明確な差異を挙げられないし、生育環境でのばらつきが大きすぎて整理ができていない。

タンポポを訪ねてやって来て、黄色い曠野に踏み込み、道を失ってしまった。困ったものだ。のんびりタンポポのお酒でも造ろうか。ね、ブラッドベリー爺さん。

643 ヤマシャクヤク

ヤマシャクヤクむせかえるばかりの新緑の今日、洞爺湖の中島を23名の皆さんを案内してゆっくりと歩いた。吸い込む大気まで緑に染まって、静かな遊歩道は柔らかな若葉で溢れている。サンショウの新芽、シウリザクラの花の房。その中でもひときわ目を引いたのはこのヤマシャクヤクの白。シカに食害されない植物だが、見事の咲きっぷりにはみんなが感動した。自然は極上の逸品を用意していてくれる。

641 地の豆

地中花ツチマメをアイヌ語では「アハ」「エハ」というそうだ。比較的よく食べられた食材だったようだ。我が家の庭にもたくさんはびこって、草花を雁字搦めにしてしまうので毎年退治していた。20㎝位のを引き抜いてみたら豆がついてきた。鞘にも種子を付けるが、これは地中で結実した閉鎖花だという。要するに地中花。子房の柄が地中まで下がって伸びる落花生とは違うようだ。来年は発芽前に収穫して食べてみよう。

638 潜む色

サクランボウメが咲き、サクラの花が満開になって、続いてサクランボの花が咲き始めた。この町壮瞥はリンゴの町であるとともに、サクランボで知られている。リンゴの花は薄い紅色だがこの花は純白。蕊の色もこの通りで、果実の光輝くクリムゾンの気配はどこにもない。6月の末、たわわに垂れる緋色の房はどこからやってくるのか見当もつかない。

636 春の匂い

春の匂い去年の落ち葉を踏みしめながら洞爺湖畔を歩く。木立の向こうには中島の影。緩やかに風が吹く。足元のマイヅルソウの小さなハート形の葉と少し長めのギョウジャニンニク。指先で押しつぶすと青く軟らかな春の匂いだ。三枚葉のツタウルシの赤い新芽も見える。水の気配、湿った土、すべてにいのちの匂いがする。