35 瞳の向こう

瞳の中 輓馬(ばんば)を引き取り休養させている家がある。飼育小屋の外、雪の野面を見ながら佇む馬は見事に大きい。随分昔、荷車で重い石炭を運ぶ馬が、凍った坂道で転び、立ち上がれなくて馬方からひどい扱いを受けていたのを思い出す。激しく息を吐き、大きく見開いた白い眼を、まだ覚えている。私に近づいてくる馬の瞳の中に私が映っている。眼の中の冬景色は青く寒そうだ。

34 北に旅して

ガザミ アルトリ岬の有珠湾側、かっては流れ山であった岩礁地帯がはるか沖合いまで砂地を伴いながら続いている。荒れた後で、浜には藻場から千切られた流れ藻が積み重なっている。ここの海には昔ながらの海底、そう、海の生命の揺籃の場が残っている。澄んだ浅瀬でガザミを見つけた。遊泳肢をもつ南方系のカニだ。暖流に乗ってやって来て、北に住みついた開拓者の末裔である。

33 潮間帯

岩の上の生き物たち アルトリ岬の潮間帯博物館。フノリ、マツモ、ムラサキインコ、タマキビ、イワフジツボ、etc.etc.。いずれも北の海の生き物たちだ。図鑑が幾冊あっても足らないほどに役者はそろっている。みんなそれぞれ必要とする生態系の階層に従って順に棲み分け、パッチやコロニーを構成している。人の手が入らない海岸はごくあたり前に豊かで、人の心をたっぷりと満たし、癒してくれる。

30 Lepeophtheirus salmonis サケジラミ

Lepeophtheirus salmonis  サケジラミ サケのなるべくしっかり塩の利いて、なおかつ新鮮そうなのを一本買ってきた。切り分けていた時、尻鰭のあたりに何か面白い形の付着物を見つけ、ピンセットでつまみあげて見ると、何と寄生虫のサケジラミ。甲殻類のカイアシの仲間で、エビやカニ近い生きものだ。サケも自然の中の生きもの、寄生虫はあたりまえ。あらゆる動物は寄生虫ともども進化した。もちろん人間には無害。

サケジラミの世代交代 この甲殻類はCopepoditt幼体の時代、サケ・マス類にかぎ爪でしがみ付くようだ。膨大な数と種類のプランクトンにはこんなのも混じっている。食物連鎖上位のものに運よく呑み込まれず、自分の宇宙を手にした幸運な寄生虫の一匹。日本も含め、世界中の養殖サケでこの寄生虫のことが報告されている。採算に合わせ、ケージの中で過密に飼われているとこうなる。まして一大消費地としての日本がからんでいる。陸上のブロイラーのみならず、野生の代表と思っていたサケ・マス類、お前もか。

29 洒落者 ミヤマカケス

ミヤマカケス 今年の冬は庭に野鳥が来ないと思っていたら、来てくれました。ミヤマカケスです。翼の初列雨覆にある斑紋はまるで冬の明るい青空の欠けら。カラス科ですが洒落者です。あとを追ってヒヨドリがやってきました。カラ類も姿を見せました。キレンジャクやウソがやってくるのも間近でしょう。鳥たちが春の気配を知らせてくれます。寒いけれど、光の春は雪雲の切れ間に顔を見せています。

16 若いキツネへのオマージュ

若いキツネ昭和新山の駐車場の奥、薪が積み上げてあるすぐ下で、若いキツネの白い頭蓋骨を拾った。ラベルをつけ、データを書き込んで標本にしようと思い、庭先に置いていた。暫くして焚き火台の灰の中から炭化して黒く輝く頭蓋骨が見つかった。嵐で飛ばされ、落ち葉と一緒に燃やしてしまったらしい。小さくかわいい頭骸骨。瑕疵のかけらもない完全無比な命の証し。ある日、薪の下で死んでしまったけれど、お前が北の大地に生きていたことの証人になってあげるよ。おまえが精一杯生きていたことを私は知っている。

13 だみ声ガラス

だみ声ガラス 私はカラス。冬ガラス。精一杯、濁声を張り上げて、騒ぎ立てるのがやっとのこと。冬はいたずらしません。 どうですこのカラス、重心を低く移し、腹筋を使って、喉を膨らませ、演歌ですよね、このポーズ。有珠山相手に唄っています。嘴と頭を低くした姿勢から見るとハシボソガラスに見えるけれど、ハシブトガラスでしょう。 「♪俺は~ フ~ライ坊の~ォ カラスだ~ゼィ~♪」

 

4 時の流れに

エゾサンショウウオはるか昔、魚類の鰭が足となり、陸上の王者爬虫類へと進化する過程のまま、水中と陸上の環境を必要とする両棲類。その名はエゾサンショウウオ。 居たか、こいつめ。探したよっ。明治新山の火口探索会で参加者が見つけてくれました。いくつかの火口跡に水がたまっていて、そこでの繁殖なのだろう。噴火後101年たつと、ここまで自然が復活していました。4億年前の体つきのままに、その眼に映るのは流れる雲か?