213 海からのおくりもの

イガイスーパーで手ごろな大きさのふくよかなイガイ、7個入って398円。春は海からやってくる。ラベルには昔からの「ひより貝」と表示されていた。標準和名は「イガイ」で、老成した個体では十数㎝となる。北方種の「エゾイガイ」さらに大きくなり、ヨーロッパ原産の通称ムール貝(一般的にはムラサキイガイを指す)は一回り小さい。白ワインで蒸したが、味は濃厚で海の香りが口いっぱいに広がる。一つの貝から何と小さな真珠が7個も出てきた。春から縁起がいいね。

210 胡瓜魚

キュウリウオ字面からはどんな魚が想像できるだろうか。私の好きなキュウリウオ。理由は新鮮なきゅうりの匂いがするから。生臭く青臭いこの匂いが大好き。しかし野菜のキュウリは大っ嫌い。900円で3パック15匹を買ってきた。長さ30㎝の優れもの。部屋中にきゅうりの匂いを充満させながら一夜干しを作る。これがまた旨いのなんのって。淡白で味わいがあり、白身の香ばしさは、あヽ、、クラクラする。アイヌ語で「フラルイチェプ」は匂いの強い魚の意。ここの海の至宝。

209 此処ならば

アルトリの磯向こうに残雪の有珠山が望まれる。ここアルトリ岬は7000年ほど前、有珠山の山体崩壊で流れ下って海へ突き出した流れ山だ。有珠山を構成していた岩石はここよりはるか沖合まで流れ落ち、海底の岩礁を作り潮間帯では磯となった。岩礁は海藻を育て多様な生きものたちを育んできた。近くに伏流水の泉もある。マガキとフノリのおいしい感触が手に伝わる。ここでならば縄文の昔、私もなんとか暮らせる、と思った。どのような生活だったのだろう。

208 タマキビの春

タマキビ水温はまだ低いが、光は水のうちそとに溢れ、動き回る生き物たちの餌となる海藻の繁茂も充分で、引潮の砂浜ではタマキビが活動しはじめた。何を思い起こしたのか、一つ伸びをして、どちらかへお出かけだ。アルトリの岬にはこの外にクロタマキビが分布している。小さくて日常的には食用にはならないが不味くはない。個体数はとても多い。いざという時には救慌食として人の命をつないで来たのであろう。

205 世界一呑気な鱈

「鱈」世界を変えた魚の歴史一本100円で乾して冷凍したスケトウタラが売っていた。家族分の夕餉の一品となった。マダラの乾燥品も一般的だ。手をかけて作る芋棒も旨い。上出来な卵巣の塩漬けも自作する。そしてある日、マーク・カーランスキーの「鱈」を読んだ。世界のいくつもの国々が鱈で救われ、鱈で成り立った事実がそこにあった。カナダ、イギリス、オランダ、ポルトガルもタラで戦い、タラで救われた。カリブ海諸国の奴隷制の陰には暗澹たる食としての塩鱈が関わっている。アイスランドでは農作物は作れず、タラで建国するために領海を命がけで3海里を獲得し、4海里、12海里、50海里、200海里へ拡大しながらと国の存亡をかけ、英、独との激しいタラ戦争を経て列強と対峙した。読み終わっていろいろ考えた。タラは世界中で激減している。日本はその現状に実に呑気だ。

201 原発は要らねえ

エゾバカガイ室蘭のイタンキの砂浜に、エゾバカガイの片ひらが落ちていた。清浄無垢な鳴り砂の浜。私はこの美味しい貝が好きです。軟らかく煮たワカメと和えたヌタが好きです。

大好きな作家、中村和恵さんの「地上の飯」に、ロック歌手忌野清志郎のアルバム発行に東芝EMIが圧力をかけた経緯が書かれていた。忌野清志郎は死んでしまったが、彼の歌「人気のないところでおよいだら 原子力発電所が立っていた さっぱりわかんねえ なんのため 狭い日本のサマータイムブルース」「それでもテレビは言っている 日本の原発は安全です さっぱりわかんねえ 根拠がねえ!」は生きている。1988年の歌だ。彼はいまでも歌い続けている。「放射能は要らねえ 牛乳を飲みてえ」「電力は余ってる いらねえ もういらねえ」

197 オオハクチョウの大足

オオハクチョウ 昭和新山近くの沼地に、オオハクチョウが来ている。体重はおよそ10kg。米の大袋の重さだ。その気になったらそばにいるカルガモなど踏み潰されそうだ。飛ぶ鳥としては最重量級で、そのための翼の力はひときわ強く、ボートを漕いでいて頭上を飛ぶオオハクチョウに出会うと、その羽音に思わず身を屈めてしまう。野生の命は力強い。水掻きのついた大きな黒いカンジキ足は雪上で力を発揮し、他を寄せ付けない。

196 銛をうつ淑女

Dr. Eugenie ClarkBSアーカイブスでユージニー・クラークさんの姿を見つけた。ニューギニアの奇妙な魚、コンビクトフィッシュのドキュメンタリーフィルムだった。海洋生物学者で母親は日本人。「銛をうつ淑女」(1954発行)で知ってからの、私の憧れの人であった。お会いしたことは無いけれど。

半世紀前、フォルコ・クイリチの「青い大陸」、クーストーの「沈黙の世界」が上映され、日本中の海好きはみんなこれにやられてしまった。私も“もぐり”が好きだったので1967年、潜水士の資格を取った。それまでのヘルメット潜水ではなく、スキューバ潜水での日本で初回の潜水士免許証交付だったと思う。しかし、教員になったばかりだったし金も無かったので、殆ど素潜りだった。軟体動物の分類を研究テーマにしていて、三浦半島、伊豆や三宅島で水深20mまでを潜っていた。年中、海に浸かっていた時代だった。

あれから幾星霜、“銛をうつ淑女”も銀髪となり、でも実に生き生きとして魅力を失っていなかった。2008年には、優れたフィールド研究者に贈られる Explorers Club Medal を受賞したという。

かく言う私は夏には洞爺湖で少しだけ潜って遊んでいる。今年あたりは有珠の海へ遠征しようか。

194 寒中の冷燻

サクラマス、ヒメマス、ベーコンのスモーク この時期はサクラマスの季節。室蘭沖でよい型が上がっている。60cm位のが一尾五、六百円だ。洞爺湖産の立派な冷凍ヒメマスも入手出来たので、ともにフィレにしソミュール液に漬け、風乾して冷燻にする。夏の冷燻は無理だが今の-3℃での30℃前後での温度管理はこれまた難しい。最下段に置いたこの地方自慢の豚肉は冷燻終了後、そのまま温燻に移行しベーコンとする。これらは明後日の昭和新山国際雪合戦会場で提供されるピザに使われる。

193 野生の標

ハシボソガラスの足跡 ハシボソガラスは完全な二足歩行で、お尻を振りながらよく歩く。足跡は右左バラバラ。これに比べてハシブトガラスは、足をそろえて跳ね飛ぶように移動する。よって、開けた地面を彷徨いながら命を繋いでいるのはハシボソガラスだ。足跡の前後の長さは約6cm。さらにその先の強靭な爪。それは命を支える野生の矜持。かつて、爬虫類から受け継いだ立派なつるぎ。おまえは原野の凛々しい戦士。