257 紅の主(くれないのあるじ)

ニホンアマガエル紅いスイスチャードの芯に居座ったアマガエル。紅い世界の玉座に着いた。スイスチャードは野菜だが食品としてはまだ一般的でなく、日本人の口にはイマイチだ。私はもっぱら寄せ植えに使う。茎と葉の壮健さはコリウスと合わせると他を威圧してはばからない。アマガエルも見る目が高い。そこから見上げる世界はいかに。

256 濡れ烏

濡れ烏大雨となった日、家の前を流れる泥水を背に、ここにテリトリーをもつ5歳のハシボソガラスの雄。しとどに濡れ、胸の分け目に白い羽毛が見えている。いつもの精悍さも消え失せて空腹で、これでは重くって飛ぶこともかなわない。元気を出せよ。髪は烏の濡れ羽色。紫や青緑の干渉色の浮かぶ艶やかな女性の黒髪の褒め言葉だ。豪雨も当たり前が自然の成り行き。雨が止んだら洗い髪に浴衣姿で出ておいで。

248 命を紡ぐ

エゾシロチョウさなぎの殻を脱ぎ捨ててすぐの求愛、交尾。生きものの苛烈な宿命の形を垣間見た。卵から幼生期へ。多量の葉を食べての肥大。次の蛹時代は空中へ飛躍するための体内機構再編。そしてメタモルフォーゼ。幼年期は終わり、光に満ちた中空でエゾシロチョウは優雅に舞い、華麗に命を繋ぐ。集団で羽化し、その同時性を逃さず、速やかにそして激しく命は受け継がれる。

245 棲み分けて

潮間帯秘境の駅「小幌」下車、小幌洞窟遺跡と自然を探る観察会に参加した。みどり香る初夏の小幌海岸、大潮の海は水位が下がっていて、潮間帯の観察にはもってこいの一日となった。潮間帯上部のムラサキインコ、その下部のイガイのすみ分けラインがとてもはっきりしていて、それに伴って生育する生物群集がよくわかる。潮上帯、飛沫帯の生きもの達、潮下帯のワカメ、コンブなどの褐藻類も含め、海の生きものの世界でもここは秘境である。

243 所帯やつれ

ハシボソガラス(雌)わが家の周辺を縄張りにもつハシボソガラスの雌。近所のアカマツの木を追われ、近くの大きなクリの樹に二度目の巣作りが終わって、やっとの抱卵中にまた巣を落とされてしまった。つがいで寄り添って慰め合っていたが、すでに季節は移ろって、三つ目の巣はつくらなかった。いつもなら巣立った雛を連れ、餌やりに精を出さねばならない時期だが、小さな木陰で一瞬のうたた寝をしているのを私は見てしまった。

241 エイノランノウ

エイの卵囊ふふふ、エイの卵囊です。今これを見てすぐに正体を明かせる人は少なくなりました。数十年前、外海の砂浜には流れ藻と一緒に打ち上げられて、よく見かけました。エイ(カスベ)はサメの仲間で、革に似たキチン質のケースの中に鶏卵とそっくりな卵が収まっています。これは室蘭のイタンキの浜で見つけたものです。潮騒も遠くなって、海辺は人々から忘れ去られようとしています。流れ寄る貝殻も少なくなりました。長さ約10cmの命の証し。

239 コウモリの館

ヒナコウモリの館勉強会があって倶知安町の百年の森へ出かけた。そこでお目にかかったのがこの巣箱。小鳥の巣箱は良く話題になるが、これはコウモリのための巣箱で。この森の管理をしているM氏が作成したものだ。現在はヒナコウモリが利用しているという。ウサギコウモリも同じ樹洞棲なので、利用してくれる可能性もあるという。新緑の明るい光の中ではなく、淡い月光の下でせめて声でも聞きたいものだ。M氏の薪小屋には数千匹のヒナコウモリが集まるという。

237 カパチェプ (ヒメマス)

ヒメマス紅サケの湖沼残留型。アイヌ語でkapa=薄い、cep=魚。今季解禁を迎え、最初の網にかかったもので、40cmを優に超す洞爺湖では最大クラス。脂の乗った堂々たる体躯をご覧あれ。スモークサーモンに試作してくださいと預かったもので、身は紅く色付いて、その味はかるく融けるようで、しかもしっかりとしたその滋味は他の種の追従を許さない。ソミュール液に漬け、6月の風に干し、まだ気温が低いのでゆっくりと冷燻にする。

236 秘密の花園

豊かな磯室蘭の外海の海岸線は地形にしても生物の棲家としても実に多様で、植物、動物の種類も豊かだ。まさしく豊饒の海である。だが残念なことに、人の手が入るとたちどころにコンクリートで埋め立てられ波消しブロックが入り、おまけに育苗、栽培漁業と銘打って味気ない海に変容する。自然の磯や浅海が生態系を支えるもっとも優れた揺籃の場だというのに。じり貧の海が迫る。

235 世界最大の

オオバンヒザラガイCryptochiton stelleri (Middendorff, 1846) これが学名。8枚の貝殻を持つ貝類の腹面がこれ。標準和名はオオバンヒザラガイ。地方名「ムイ」はアイヌ語の「蓑」の意。アメリカではGumboot Chiton(ゴム長ヒザラガイ)。下北半島から北海道、千島、アラスカ、カリフォルニアまで分布する環北太平洋種。30cmを超すという。この貝との付き合いは長いが北海道では20㎝止まりだ。食用にしたと云うが美味しくはない。