314 寒くはないか 投稿日時: 2014年1月13日 投稿者: nizaemon 気温-5℃、風強し。カメラを持つ手は感覚も無く、耳が千切れそうに痛い。波の飛沫が片っ端から凍ってゆく。そんな中をウミウがゆく。北国の野鳥が寒さに強いのはあたりまえだろうが、彼女らに低温にさらされる苦痛の感覚はないのだろうか。背後の浜の吹きさらしで餌を探すカラスの足先には氷が纏わりついていた。過冷却の大地に絡め取られる一歩手前と思ってしまうのだが。
312 煙浴 投稿日時: 2013年12月31日 投稿者: nizaemon 伊達市にある北海道糖業の煙突から白煙が上がって、収穫を終えたビートから今まさに甜菜糖が作られている。眼を凝らすと十数羽のハトだろうか、集団を作りながら煙の中に幾度も飛び込んでいる。煙浴という言葉があり「ある種の鳥が煙突などの煙をあびる行為で、羽根などにつく寄生虫を駆除するといわれる」と説明されている。本当にそうだろうか。都合のよいように勝手なつじつま合わせをしてはいけない。
306 昭和新山、誰そ彼どきに 投稿日時: 2013年12月18日 投稿者: nizaemon 有珠湾あたりにハクチョウが渡って来ていると聞いていた。薄暮れて新山の屋根山が黒く落ち込む頃、幼鳥を含めた七羽の群れが鳴き交わしながら新山沼に降り立った。これから半年は寒いけれど静かな時間が続く。屋根山の木立が透けて頂上のドームが見える。人の姿を見つけて鳥たちが来る。闇夜とこの世を繋ぐ使者。トゥオネラの白鳥か。
304 不味の戦略 投稿日時: 2013年12月8日 投稿者: nizaemon 冬を迎えて二度目の雪となって、着実に季節は進む。雪を乗せたナナカマドの赤い実を通して望む昭和新山と有珠山も冬景色だ。山々が雪で覆われ、いよいよ食べるものが無くなって来ると鳥達も里へ下りてくる。甘さも酸味もおまけに汁気も無く、色だけ目立つナナカマドのかたい実は、救荒食のように食べられ、種は散布される。時間的ニッチの中で次世代への命を繋ぐことになる。晩生にはそれなりの戦略がある。
301 命の重さ 投稿日時: 2013年11月25日 投稿者: nizaemon 昭和新山の際を通るR453、18時を過ぎた闇の中、エゾシカが倒れていた。前の車と衝突したらしく、起き上がろうとしているが腰から下が動かない。通りがかったドライバーと次の事故を誘発させないように路肩の藪まで運んだ。80kgはありそうなおとなのメスだった。動かぬ後ろ脚を両手で握る。ざらついた剛毛の感触と熱い体温が掌に伝わってくる。重たかった。見開いた瞳にヘッドライトと私の顔が映っていた。野性と人との距離近くなったのが気になる。
295 ノスリが飛んで 投稿日時: 2013年11月12日 投稿者: nizaemon 目覚めたら銀世界。雲の切れ間からカラマツに朝の陽があたって、真鍮色の林が浮き上がった。シャッターを切っていたらファインダーにノスリが飛び込んで来た。大きく旋回する彼の眼にはこの初冬の鳥瞰図、どの様に見えるのだろう。有珠山を取り巻くこの地域には数つがいが棲みついている。悠揚迫らぬ軟らかな飛翔は、移ろい行く風景のなかで、「決して変わらぬもの」もあることを教えてくれる。
294 ジオの醍醐味 投稿日時: 2013年11月2日 投稿者: nizaemon 我が洞爺湖有珠山ジオパークでは、食分野でもプロジェクトチームが発足している。今回の会議は当ジオパークに協賛してくれている豊浦町のピザ専門店 Namiheyで開かれ、ホットサンドのお披露目も行われた。入江・高砂貝塚の約5000年前の出土品のホタテの貝殻をかたどったホットサンドだ。大ぶりの中身はボイルホタテ丸々一個分と御当地のタマネギのソース。時の流れと大地の豊穣、海の潤沢が伝わって来る。
293 秋味 投稿日時: 2013年10月30日 投稿者: nizaemon 「この近くの浜で、今朝、釣ったのですが」と立派な鮭を頂いた。体長75cmの上物で、「ぶな」もさほどかかっておらず、遡上前の極上品だ。何といっても、成熟した腹子が見事。有難い。三枚にした上身は塩で絞めて干し、スモークかな。筋子は塩と醤油で漬け込んだ。この地では鮭のことを「アキアジ」というが、これこそ旬の味、「身土不二、三里四方を食す」だ。
292 空蟬 投稿日時: 2013年10月29日 投稿者: nizaemon 秋の陽をうけ緋色に輝くツタウルシに、エゾゼミの抜け殻が雨と風の中、落ちもせずしがみ付いた。暑かったこの夏のいのちの名残り。現人(うつしおみ)が転じて「うつそみ」となったというが、言の葉は生きもの蝉の抜け殻と結びついたあたり、たまゆらの時の流れをしみじみ感じる。夏の朝、薄衣一枚を残して17歳の光源氏の前から姿を消した空蝉は、自らの矜持を捨てはしなかった。
286 命を繋ぐ海 投稿日時: 2013年10月12日 投稿者: nizaemon 西風の強い室蘭、崎守の岬。夕陽に染まる海にカモメが飛び交う。風が吹くとここの海は何時もこうだ。海は荒れる、カモメは風に浮く。ごく当たり前の情景だ。カモメはカモメ、海はいつもの海。日常慣れし、安泰化した私の眼だけが違う。人とすぐ隣にあった野性とのかかわりはこうではなかったのか。猛る自然の中でこそ私たちの命も存在していたはずだ。