506  香りの一撃

ウドとフキ午後から雨になったら、お隣さんが「一回分だけど」、ひとこと言ってとフキとウドを置いていった。いつもこの季節、お隣さんを通して山からの頂き物の恩恵にあずかる。フキは擂粉木ほどの太さ、ウドは子供の握りこぶしくらいある。これで一回分だと言う。北海道では何ごとも一ケタ違う。腹いっぱいになって初めて美味しいという言葉が出てくる。

フキはアキタブキという大型の別種で、煮物やみそ汁にたっぷり入れ、軟らかな繊維の束をサクサクと頬張る。自分も反芻動物になった気がして爽快に旨い。ウドに至ってはその香気と苦みの一撃があって、しばらく脳みそのどこかが麻痺させられる。そのあと旨みが中枢に浸透してゆく。

しっとりと煙る空の向うにカッコウを聞いた。カッコウが鳴くと「何を植えてもいいのだ」とおとなりさんは言う。

500  春の海から

エゾメバル知り合いから「ガヤ」を4尾頂いた。磯から上がって間もなくの、身の厚いエゾメバル=蝦夷眼張。これぞまさしく鮮魚なり。春告げ魚(はるつげうお)の名もあって、北国の旬はこの時期だ。 味を抑えて煮物に仕上げた。舌に広がる磯の味。中学の頃、春の磯でガヤを釣っていたことを思い出す。 翌日は、少し硬くなった身に煮凝りを乗せて、少しずつ箸で解しての酒の友。旨かった。

495  いにしえの海辺

豊かな海4月21日、考古学の人に誘われて有珠湾へ出かけた。9:40が底り、潮位が4cm。こんなことは滅多にない。7500年前、有珠山の山体崩壊でいくつもの流山が運ばれ、積み重なってこの海へ押し出し、岬や小島、岩礁となった。いくつもの入江があり、まだ人の手が加えられていない自然のままの磯も残っている。浅い海は底生生物や稚魚やプランクトンに満ち、緑色の海産顕花植物のスガモも見える。この季節は特に流れ着く海藻類が多く、砂の上にコンブ、ワカメなどの褐藻類が堆積している様子を久し振りに見た。

正面の小島はポロモシリ。画面右端はモシリ遺跡のあるレプタモシリへと続く。モシリ遺跡からは続縄文時代の微細な彫刻のある骨角器や、南海に産するイモガイで作られた貝輪が発掘された。人々はこの温暖で豊かな海を縁に、他地域の人たちと交流を持ち、数千年の歴史を繋いできた。

492 鱈と筍

鱈の煮物漁師さんからスケトウダラの干物をいただき、納戸に吊しておいた。数日前、知人が本州からの筍を持ってきてくれて、コラボの結果がこの煮物。鱈と筍の含ませ煮だ。孟宗竹の原産地は中国だが北国の鱈との相性はいい。サンショウの新芽を添えたいところだが、寒さに耐えたイタリアンパセリで代用した。歯にも胃袋にもガツンとくる骨太の一皿。

488  往くもの

北帰行垂れ込めた空を呼び交わしながら飛ぶ白鳥の群れ。白く澪を引く川の流れを見ているようだ。やってきた季節に合わせ、身の内から沸きおこる本能行動。悠久の昔から、血の中に蓄えこまれてきた約束に違わず、今年も北へ向かう。

私たちは地の上に佇み、ただ見送るだけなのだが、旅立ちを見ていると心の底に悲しみがわいてくるのはなぜだろう。私はこうやって、幾度も往く鳥たちを見続けてきた。私もまた、流れ去る月日の中に棲んでいる。

487  キレンジャク

キレンジャクサクランボウの幹の上にキレンジャクがやってきた。数日前から姿を見せている四、五羽の片割れだ。近づいても平気で、昨日庭に置いたリンゴを食べている。シメよりもっと強面風で、冠毛と尾の先の黄色いワンポイントが可愛い。アトリが数十羽、アカゲラ、ツグミ、ヒヨドリ、ムクドリ、シジュウカラ、シメ、スズメ。それにブトとボソのカラス。裏庭も賑やかだ。

485  アトリが多い

アトリひと月ほど前から壮瞥町でアトリの群れを見るようになった。200羽位の小さな群れがあちこちの畑で餌を探していたが、時には1000羽を超すような大きな群れとなり農道を通る人や車を驚かすようになった。数日前、群れを観察中に、遠くの農地がゆらゆらと陽炎のように見えたのだが、それがすべてアトリだと気が付いた。きっと万を超える大群だったに違いない。初めての経験だった。画像は3月16日、我が家の窓から。

483  クミンの香り

モモとクミン裏庭に2本の白桃が育って、昨年の夏の終わり、キイロスズメバチをかわしながら収穫し、ジャムをたっぷりと造った。半年食べて残り少なくなった旨いジャムを今朝も楽しんでいた。隣の皿のポテトサラダに振りかけたクミンがジャムに飛び込んだらしく、知らずに食べた舌の上でクミンの香りが弾けた。モモとクミンは相性がいいことに気が付いた。我が家のモモがそのままアラビアの大地に繋がったみたいで、大脳の官能中枢を駆け抜け、鼻へも抜けた。

今年のモモの収穫は紙袋をかけよう。モモが好物のスズメバチにはご遠慮願って、クミンや異国のスパイス類でモモを楽しんでみよう。

481  「嗚呼、持っていかないで!」

カラスのクルミ伊達市で歴史講演会があっての帰り、会場となった消防署の横道を車で通り過ぎようとしたその時「パーン」と屋根の上に何かが当たった音がした。突然のことだったので、本当に驚いた。まさか隕石ではあるまい、クルミ大の石ころが直接当たった音だ。降りて確認したら、まさしくクルミ大の「クルミ」。瞬間、カラスの仕業に巻き込まれたと気が付き、見上げると消防の屋根から覗き込むハシボソガラスと目が合った。

クルミで遊び、結果旨いナッツにありつけるなら、尖った嘴は最良のアイテム。上手くいくとは限らない。丁か半かの賽の目に、賭けて通りかかったのが私の車。驚いたけれど、カラスの行動を探っている私にはよい証拠品、と頂くことにした。

479  ともに生きる

アトリとハヤブサ一週間ほど前からアトリの群れが近くの干上がった水田にやって来ている。200羽から300羽位の群れであったり、1000羽位の集団であったり、この付近の総計は2000羽位だろう。 渡来数には変動があるが大群を構成することでも知られているという。今年はいつもの年よりずいぶん多い。

観察中に群れが乱れたと思ったら、ハヤブサが飛び込んできた。狩るもの逃げるものの空での戦いとなったが、結果はどうなったのか。