140 母なる懐

虹の彼方に 長く暑かった夏の余韻なのか秋が遅れ、いつもなら見事な紅葉のはずなのだが洞爺湖中島の色付きは少し物足りない。と、思いながら帰路の観光船の船尾にいたら、淡い通り雨の直後、一瞬明るくなった中島を背景に見事な虹が出た。自然が見せてくれる一発芸。自然は心を委ねるとふっと懐を開き、私たちにそのすべてを惜しげもなく与えてくれる。私たちの心の隙間を軟らかい何かでいっぱいに満たしてくれる。

139 キノコのお家

キララタケ 洞爺湖中島の博物館桟橋近く、土が流れてむき出しになった木の根の穴の中に、小さなキノコが肩を寄せ合ってうずくまっていた。これはキララタケ。若い個体はきらきら光る白い雲母片のような粉を付けていてこう呼ばれる。命短いヒトヨタケの一種。この島の植物は増えてしまったシカにやられて壊滅状態だ。このキノコ、シカの好みは知らないが、このシェルターの中なら安心だ。空っ腹のシカも可哀そうだが、逃げ込んだキノコも哀れ。

138 妖しい会議

ウスキモリノカサ 室蘭岳チマイベツ川の源流近く、幾本ものミズナラの巨木のある原生林はキノコたちの秘密の王国だ。ふた抱えもある腐った切り株の洞の奥に白いキノコがかすかに見えた。蓋になっていた木片を一つずつ取り除いたら、そこにあったのはキノコたちの密室。純白の絹のドレスで装った11人のウスキモリノカサの姫たちと居並ぶアシナガタケ諸侯。いったい何の密談中なのか。次の満月の夜の舞踏会のこと?それとも、王様がいなくなっちゃった?。

137 分布は北満、樺太、北海道

チョウセンゴミシ チョウセンゴミシは日本薬局方にも載っている古くから知られた生薬だ。五味子とは含まれる甘味・酸味・辛味・塩(鹹)味・苦味に由来すると言う。秋の日の午後、長流川の上流で以前に見つけておいた株を友人を伴って見に行った。数年前から「ぜひ案内しよう」と約束していた場所だ。瀬音のする山合いに夕闇の迫る頃、ほのかに赤く色付いた幾つかの房に再会。ウスリーの作家、バイコフを教えてくれた旧友との約束がこれで果たせたというものだ。