603 いのちの足跡

キタキツネ長流川にかかる壮瞥橋の下にキタキツネの足跡(Footprints)を見つけた。少し古いのと真新しいの。どうやら岸辺の藪の中にねぐらがありそうな感じがする。空きっ腹で幾度も足を運んだのだろう。はたして餌にありつけたのだろうか。凍り付いた浅瀬で何かを探した気配がある。冷たい水で晒されたシャケの死骸でも見つけたのか。真剣に生きる野生のひたむきさが読み取れる。

602 棒鱈の世界

スケトウダラ小さな漁港の小さな家の小さな窓にスケトウダラが干してある。タラコ、白子を取った後、こうやって自家用に凍結乾燥する。凍りながら寒風に曝されて干せて行く。昔からの間違いなしの漁村風景。叩いてむしって食べるのが手っ取り早いが、煮物の鍋の中で他の具材と旨さの相乗効果を生み出す。熱帯を除けば世界中に棒鱈の煮物がある。マダラと共に世界の近世の食を支えた魚だ。

601 雪の王

トドマツ霧氷で名高いオロフレ峠。スノウシュートレッキングの出発点に近い樹林にそびえるトドマツが、いつものように分厚い雪衣を羽織ってでんと控えている。斧の入っていない森には必ずこんな立派な樹があり、存在が頼もしく、歩くのが嬉しくなる。仲間たちはそのような樹に「森の番人」「トチノキ婆さん」だとか勝手に名前を付けている。この樹は「雪王」「雪将軍」そんな風情だ。

600 久保内からの有珠山

有珠山朝の陽を受ける有珠山の東面。北斜面の向こうには有珠新山が続く。大有珠のピナクル(岩塔)下のロープウェイ駅から東へ延びる長い稜線の上には火口展望台があり潜在ドームだ。この稜線の下にも溶岩ドームがあるという。地質図を見ると現在の有珠山は「流れにくい」溶岩、つまりケイ酸(SiO2)分の多い粘性の高いマグマで構成されたドームの集合体だということがわかる。

有珠山に異変があったら、私の住む壮瞥町滝之町の住民は、ここ久保内の施設に避難することになっている。それでも火山に近いというか、距離があるかから安全なのか。大きな噴火ならここでも危ないし、そのあと住むことも不可能となる。この数百年の噴火の規模なら安心だ。しかし、火山灰は風向き次第でやってくる。あらためて有珠山を眺めなおしてしまう。

599 洞爺湖ミント

薄荷水際の大石にへばりついていたこのミント。香りが強いので見守り続けてきたが、去年の嵐で洗い流され、全滅の憂き目に遭った。小さい株を数本確保しておいたので裏庭に移植し、鉢にも根を植え窓際に置いた。ひと月もたたないのにこの通り十数本、シソ科の繁殖力には感心する。ケーキや肉料理の付け合わせ、サラダに加えてもよい。でも、私としてはやはりモヒートか。

598 山眠る・里眠る

リンゴ園リンゴは有珠山の賜物。この町壮瞥の北の大滝では寒冷と深い雪でリンゴは無理。有珠山の向こうの海側は海霧と浜風が吹く。この地域は盆地となっていて、天候に恵まれた町だ。ここ数日、明け方の気温は-7℃くらいで、遠くに有珠山、昭和新山を望みながら静かな朝を迎えた。リンゴ園の樹々は辛抱強く春を待つ。

597 塒(ねぐら)へ

ハクチョウ暗い雪雲から寒風と一緒に雪が吹き付けている。陽矢が黒い海に映るのを撮っていたら、突然、五羽のハクチョウが画面に飛び込んできた。

きょう一日、厳しかったのか充実があったのか、ひたすらに塒に向う。鳴き交わす声もなく低く飛んでいる。行く先は長流川の河口か有珠の入江。

 

596 徳舜瞥山・ホロホロ山

徳舜瞥山・ホロホロ山晴れあがった日には見事に輝いて、思わず見とれてしまう双耳峰。溜息が出るくらい眩いのだ。夏、裾野の原生林は深く、徳瞬瞥山(1309m)からは圧倒的な眺望、そして右のホロホロ山(1322m)へと延びる稜線に心と足が誘われる。地質図幅説明書(1954)にはホロホロ側に山頂を持つほぼ円錐形の火山で、大きな火口がいくつも開きその後浸食が進んで現在の山容となったとある。

595 手の跡か

初列風切鳥の翼は人の手と起源を同じくし、爬虫類の前脚につながる。珍しく5cmほど積もった新雪を歩いてきたハシボソガラスが、そこから飛び上がった軌跡が残っていた。 羽毛は爬虫類の鱗に由来するが、翅の先端の風切羽は機能から見るとコウモリ類の指先にも相当する。脚で弾みをつけ、一羽搏きで飛び上がったようだ。飛ぶことに特化し、空を手にした鳥たちには脱帽だ。

594 この山

昭和新山私の好きな画角の火山、雪原に浮かぶ孤独な火山がこれ。アラスカか南極の火山と見たてても不思議ない。これは誕生して70年ちょっとの昭和新山。私より数年若い。赤い天然煉瓦のドームからはいまだに噴気が上がっていて、まだまだ体の芯には熱いものを持ち続けている。