510  大有珠ピナクル

大有珠ピナクル1977年の噴火前の大有珠は球形のドームと前立山のワンセットで「土瓶と土瓶の口」に例えられていた。噴火では揺れに揺れ崩れに崩れて、鋸歯状の稜線となった。遊歩道から見ると、大岩に前後していくつかの岩塔が立ちあがっているが、それぞれに名前はない。画面右1/4程のところの岩の堆積の間に空が見える。これは窓岩といっている。

509  安息角

安息角有珠山ロープウェイ山頂駅までの6分間の途中、こんな風景を見た。北北東、30km先の羊蹄山(1893m)と7km先の洞爺湖中島の西山(455m)が重なった。火山は一般に噴出物が堆積してできる。岩石片やスコリア、火山灰などが堆積した斜面は結果的に安定した角度となるという。その角度を「安息角」と言うのだそうだ。力学、工学に関わる物理学用語だが、妙に納得する。

 

508  窓の下

ネコとカラス餌などさほどやらぬのだが近所の猫がやってくる。この辺をテリトリーにしているハシボソガラスも今は子育て中だ。人影を見つけてやってきたネコをカラスが挑発する。狙いは尻尾。ネコはそのあたり知っていて、フラフラと尾を揺する。互いに手の内を知った間柄での、ちょっとした緊張感が漂っている。いつも、尾をつつかれて嫌気をさしたネコが退散して幕となる。

507  ホザキヤドリギ

ホザキヤドリギ落葉性のホザキヤドリギは冬季、実を着けるころには葉を落としている。5月に入って新芽を付け、穂状花序も伸び始めている。ヤドリギと比較すると葉序も形態も異なっていて、属が違うのもうなづける。以前、神奈川県でヒノキバヤドリギを見たことがあるが、これもまたこれら二種とは違っていて思いもよらない形をしており属も異なる。面妖なグループだ。

506  香りの一撃

ウドとフキ午後から雨になったら、お隣さんが「一回分だけど」、ひとこと言ってとフキとウドを置いていった。いつもこの季節、お隣さんを通して山からの頂き物の恩恵にあずかる。フキは擂粉木ほどの太さ、ウドは子供の握りこぶしくらいある。これで一回分だと言う。北海道では何ごとも一ケタ違う。腹いっぱいになって初めて美味しいという言葉が出てくる。

フキはアキタブキという大型の別種で、煮物やみそ汁にたっぷり入れ、軟らかな繊維の束をサクサクと頬張る。自分も反芻動物になった気がして爽快に旨い。ウドに至ってはその香気と苦みの一撃があって、しばらく脳みそのどこかが麻痺させられる。そのあと旨みが中枢に浸透してゆく。

しっとりと煙る空の向うにカッコウを聞いた。カッコウが鳴くと「何を植えてもいいのだ」とおとなりさんは言う。

505  リンゴの秘密

リンゴの花寒かったり暑かったり、北国の五月を彩るリンゴの花。気取りなくいつもの通り咲いているけれど、この蕾の紅色は何だ、花弁を抜ける紅の糸はどうだ。蕊の黄色はどんなからくり。丸く赤いリンゴへまっしぐらにあと150日。てらいも妥協もなく,花を捨てたリンゴはひたすら完結へと向かう。待っているよ、あの味、あの香り。