156 キノコのマリネ

キノコのマリネ 今年は秋のキノコが遅れ、その分、この季節になっても食卓で充分に楽しめる。私にとってはマリネにするのが一番の楽しみ方だ。さっと茹で、塩と砂糖、穀物酢、イタリア風のハーブミックス、それとトウガラシの輪切り。画像のキノコはムラサキシメジ、ノボリリュウ、たっぷりとした大きさのはヤマドリタケ、つまりポルチーニ。赤いのは味と色でのアクセントのパプリカで、ベニテングではない。漬けて一週間、イグチのとろみが加わって、「アア、美味しい」。

150 ベニテング一家勢ぞろい

ベニテングタケ ベニテングタケの赤ん坊から壮年までの勢ぞろい。前出のは老年だろうからこれで一族総出演ということだ。紅色の傘の上の白点は傘を包んでいた「つぼ」の名残りだ。昔はハエの捕殺に用いられたと言うが、毒性は激烈ではないと言う。でも毒キノコのサンプルみたいな蠱惑的な色は、何を意味するのだろうか。虫を呼ぶ誘因のための色なのか、動物への警戒色なのだろうか。

146 黴の花

ベニテングタケ ひとはベニテングタケと呼ぶけれど、本来は Amanita muscaria というカビ。日本のみならずヨーロッパ、北アメリカ、今では全世界的に蔓延している担子菌類だ。世界中の暗く湿った土の中で、針葉樹や広葉樹の根に絡みついて共生する菌根菌である。しかしキノコはカビの花、地表に現れた表向きの顔。だがこの面構えを見よ。それは胞子を風にのせ終えて、まだ立ちつくす強面な野伏せり。ぼろぼろになりながら急流に朽ち果てる雄鮭に似てないか。

142 森からの頂き物

タマゴタケ 手ごろな大きさのタマゴタケを採った。トドマツと広葉樹の混交林。幼菌は白い卵形のツボを持ち軸は橙色、カサはことさら赤い。Amanita hemibapha の種小名は“半分染めた”の意味。ヨーロッパ産は A. caesarea と言う別種で帝王シーザーの名を持つ。 美味なキノコとして有名だが、Amanita属にはよく似ている過激な毒菌もあって判別が難しく、安易に食べてはいけない。

139 キノコのお家

キララタケ 洞爺湖中島の博物館桟橋近く、土が流れてむき出しになった木の根の穴の中に、小さなキノコが肩を寄せ合ってうずくまっていた。これはキララタケ。若い個体はきらきら光る白い雲母片のような粉を付けていてこう呼ばれる。命短いヒトヨタケの一種。この島の植物は増えてしまったシカにやられて壊滅状態だ。このキノコ、シカの好みは知らないが、このシェルターの中なら安心だ。空っ腹のシカも可哀そうだが、逃げ込んだキノコも哀れ。

138 妖しい会議

ウスキモリノカサ 室蘭岳チマイベツ川の源流近く、幾本ものミズナラの巨木のある原生林はキノコたちの秘密の王国だ。ふた抱えもある腐った切り株の洞の奥に白いキノコがかすかに見えた。蓋になっていた木片を一つずつ取り除いたら、そこにあったのはキノコたちの密室。純白の絹のドレスで装った11人のウスキモリノカサの姫たちと居並ぶアシナガタケ諸侯。いったい何の密談中なのか。次の満月の夜の舞踏会のこと?それとも、王様がいなくなっちゃった?。

132 ポルチーニ!

ポルチーニ とうとう今年最初物のポルチーニ、ヤマドリタケ。いつものお目当ての場所だが暑さが続いたせいか出現は遅かった。画像手前のは直径20cm位の堂々としたもので虫食いなし。厚くスライスしてバターでこんがり。焦げ目がサクッと歯触り良く、ナッツの香りがして思わず膝を打つ旨さ。残ったのは明日、やっぱりパスタだろうな。たっぷりとオリーブの実とバジリコを使って。でもね、実によく似たドクヤマドリが気がかりなのだよ、諸兄。

96 一夜限りの

ヒトヨタケ sp、 「ひとやねて、くやしやきみのふたこころ、うらみてはなく、うらみてはなく」こんな判じ文を思い出した。昨日はまだ小指の先ほどの、名前知らずのヒトヨタケ。朝の雨をほつれた傘に乗せ、今日はもう、自らの酵素で身の内から溶けはじめてこの体たらく。一夜で溶けてゆく覚束なさは、哀れなのか見事なのか。恨みをつぶやく暇もない。でも闇に紛れて襞という襞から胞子を落とし、次の世代はいま、どこか土臭い世界で眠りについている。

80 モリーユ!

トガリアミガサタケ 春一番に収穫するキノコ、トガリアミガサタケ。キノコと言っても、シイタケなどの担子菌類とは大きく異なる子囊菌、つまりトリュフや冬虫夏草のグループ。雨上がりの庭で8個、去年は30個位。二つに切ってよく乾燥して大切に保存。欧州ではモリーユという名前でよく知られている。毒成分を持つので調理法に従って食する。バターに合い、生クリーム仕立てのソースにして最高!

3 絵に描いたような

ベニテングタケベニテングタケ Amanita muscaria に今年も出会えた。心がときめく瞬間である。夏の盛りのは、暑さに負けてすぐに姿も色も崩れてしまう。秋もおしまいの頃、いくつもの鮮やかな紅色のキノコが菌輪を作って私を招く。妖精たちの輪 fairy ring だ。森の陰であのカーマインスカーレッドに出会うたびにその瞬間、脳髄のどこかが「クラッ」と傾く。食べなくても十分にある種の幻覚作用を持っている。