133 野生の香り

カラハナソウ 収穫を終えて乾燥中のアズキの畑を見に出かけたらこの通り風にそよぐホップの野生種カラハナソウのつるを見つけた。アズキ畑の向こうは壮瞥の町。栽培種のものとは違うというが、なんとなく気になる存在だ。農文協の「趣味の酒作り」には野生のホップの雌花を使うと載っていた。ビールに芳香と爽快な苦み、雑菌の繁殖を抑え、泡立ちを良くするという。いいとこ尽くめだがそう簡単にはいかないだろう。含まれる天然酵母を利用してドブロクを作ろうか。

132 ポルチーニ!

ポルチーニ とうとう今年最初物のポルチーニ、ヤマドリタケ。いつものお目当ての場所だが暑さが続いたせいか出現は遅かった。画像手前のは直径20cm位の堂々としたもので虫食いなし。厚くスライスしてバターでこんがり。焦げ目がサクッと歯触り良く、ナッツの香りがして思わず膝を打つ旨さ。残ったのは明日、やっぱりパスタだろうな。たっぷりとオリーブの実とバジリコを使って。でもね、実によく似たドクヤマドリが気がかりなのだよ、諸兄。

130 先史を釣る

チマイベツ川 この小さな流れ込みは法的にはサケが遡上する川とは認められてはいないらしい。禁止区域の規制がないため、季節になるとサケとそれを狙う釣り人は毎年忘れずにこの川へ集まる。知里真志保・山田秀三「室蘭市のアイヌ語地名」(1960)にはチマイペッ・オッ・イ(焼乾鮭・多く・有る所)とある。小屋掛けして冬の食料を得た時代があったのだろう。水源は深い森にあるが河口の水量は少なく昔日の面影はない。遠く有珠山、昭和新山が望まれる。

127 秋めいて

昭和新山 長かった暑い夏も、景色の中ではやっと秋の気配。昭和新山の煉瓦色のドーム下の屋根山には葉を落としたドロノキが浮き立つように良く見える。パイオニアツリーとして発芽し、60年経った今、一抱えもある大木に育った。無から始まって60年経った森は三松正夫の遺志のままにいよいよ深く、そして着実に遷移の道をたどっている。粗い火山灰の混じった手前の畑はハナマメの適地だ。隣の畑ではアズキが見事に実った。どちらも壮瞥町自慢の逸品。

123 灯りを囲んで

ツナ缶灯明 壮瞥町で子どもたちの防災キャンプがあった。有珠山は三十数年ごとに噴火を繰り返してきた。次の噴火まで折り返し点を過ぎたと考え、前の2000年噴火を知らない子供たちの避難生活を想定した体験学習だ。避難初日あたりの物資の少ない夜を想定し、夕暮れ、灯りを消し、ツナのオイル漬けの缶詰に灯心を差し込んだ小さな灯りを囲んで、非常食のみの夕食となった。その場にあるものを利用して作った灯りがみんなの顔と心をひき寄せてくれた。

116 トチノキ婆さん

トチノキ婆さん アイヌ語ではトチの実を「トチ」、幹を「トチニ」と言うそうだ。縄文の時代からその実も材も生活に繋がっていた。実は食料に幹は臼や杵になったと言う。洞爺湖中島のフットパスでトチの実やその厚い殻皮が落ちていたらその斜面にはきっと大きなトチノキが有る。トチの老木を見つけ皆で記念写真を撮った。トチは灰汁抜きが難しく食料としては日常から姿を消したがフィールドでの存在感は抜群だ。トチノキのお婆さん、おいしいトチ餅を御馳走してよ。

111 黒はすべてを

カシス 色の三原色を混ぜると黒に見えると言う。ブラックカランツはカシスという名の方が一般的で、ジャムやリキュールの名でよくレシピに登場する。今日我家で収穫のカシス、1.8kg。黒く輝くオニキス玉。その1/3量のグラニュー糖で煮て、たっぷりの軟らかなジャム(ピュレ)を作った。上出来のジャムと調理器具すべて深みを帯びたカーマインに染まった。驚いた。粒よりの漆黒の宇宙には溢れる カーマインレッドのパッションが包含されていた。黒は激情の色。

109 早生りんご「ツガル」

ツガル 7月も今日で終わり。このところの暑い日のせいで、リンゴも一回り大きくなった。去年まで虫食いばかりの収穫だったが、小さな実が付いてからの手入れと防除をこまめにやって見たら、きちんと結果が出たようだ。ここ壮瞥町は果樹の町。本気で教わろうとすると、プロの農家が何でも教えてくれる。お陰で我家の庭も果樹がいっぱい。商品にするわけではないから、姿かたちは二の次で、「味が勝負」に賭けて見る。

107 情熱の味

ラズベリー 北海道がラズベリーに適した土地だと知ったのは実際に栽培してからだ。到る所からシュートが伸び出す。今年もたっぷりと収穫した。花托が茎に残り、奨果のみが掌に転がってくれる喜びはラズベリーの真骨頂。明るい透明感のあるルビー色。陰にはパープルの哀愁を滲ませる。一瞬、動物的なアロマを感じさせるその味は、紅い血潮のブラッドレッドなのかもしれない。口に広がる血の滴りは愉悦と安息をもたらす。

106 瑠璃色の晩餐会

晩餐会 暮色濃い有珠山外輪、観光客のさんざめきも落ち付いて、やっと静かになった頃、足もとでかすかに、しかし眼を射るような瑠璃色に動く光の塊を見つけました。シックな濃紺のタキシードに身を固めたオオヒラタシデムシと青藍色の衣装に包まれたキンバエたちの正餐の時。今日のメインディッシュは何でしょう。客に踏まれた青い尾のトカゲの子、それとも潜りそびれた哀れなミミズ。逢魔が時、人知れず進行中の素敵な食事風景を覗き見てしまいました。