500  春の海から

エゾメバル知り合いから「ガヤ」を4尾頂いた。磯から上がって間もなくの、身の厚いエゾメバル=蝦夷眼張。これぞまさしく鮮魚なり。春告げ魚(はるつげうお)の名もあって、北国の旬はこの時期だ。 味を抑えて煮物に仕上げた。舌に広がる磯の味。中学の頃、春の磯でガヤを釣っていたことを思い出す。 翌日は、少し硬くなった身に煮凝りを乗せて、少しずつ箸で解しての酒の友。旨かった。

498  春の頂き物

トガリアミガサタケ庭の落ち葉の下から今年もまたトガリアミガサタケが顔をだし、大振りのが十個ほど採れた。二つに切って数日乾燥させると極上の乾燥モリーユ。パスタなら旨いソースが出来上がるし、生クリームを使った肉料理も間違いなしの味。この季節の初めての野生からの頂き物。春の女神はグルメなようで、毎年この時期、忘れずに裏庭に配達してくれる。

492 鱈と筍

鱈の煮物漁師さんからスケトウダラの干物をいただき、納戸に吊しておいた。数日前、知人が本州からの筍を持ってきてくれて、コラボの結果がこの煮物。鱈と筍の含ませ煮だ。孟宗竹の原産地は中国だが北国の鱈との相性はいい。サンショウの新芽を添えたいところだが、寒さに耐えたイタリアンパセリで代用した。歯にも胃袋にもガツンとくる骨太の一皿。

484  風貌はおとなしいが

渡島駒ヶ岳大沼東端付近から春の陽を受ける渡島駒ヶ岳南東面。例年より雪の少ない3月3日、流れ山の林の色が柔らかくなって春の兆しを感じる。火山土地条件図を開いてみた。特異な風貌のこの山は、左右両山麓の傾斜をつなげる富士山型の山様だったという。5千年の休止期間の後、1640年に突如爆発した。徳川時代の初期の頃だ。中央に丸く見えるのが隅田盛(584m)、左は剣ヶ峰(1131m)で、その間の大きな斜面が一回目の山体崩壊した斜面で、水系を分断して大沼などを形成した。右のピークは砂原岳(1112m)で、その手前の斜面が二回目の崩壊の跡で、この時の岩屑なだれは噴火湾に大きな津波を引き起こして、室蘭、有珠周辺で7百人以上の死者を出したという。その津波堆積物は遺跡発掘の実年代を判定する基準になっている。顔立ちは幾度もの山体崩壊を繰り返してできた磐梯山の東側にも、1980年に噴火したセントへレンズ山にも似ているし、有珠山もまた1663年の噴火以前の風景は似たものだったであろう。

噴火湾になだれ込んだ跡は出来澗崎(できまざき)として残っており、沖合はるかまで続いてその岩礁は水産資源をうみだしている。対岸の有珠の海も7千年前の今の海岸線に至る初期の時代にはこうであったろう。この海岸を最近になって幾度か訪れた。浸食されつつある岬の漁師は「いい海だ」という。有名な砂原(さわら)コンブや近年名が売れた「ガゴメコンブ」の自慢をし、上質な海の幸をたっぷりと分けてくれた。

483  クミンの香り

モモとクミン裏庭に2本の白桃が育って、昨年の夏の終わり、キイロスズメバチをかわしながら収穫し、ジャムをたっぷりと造った。半年食べて残り少なくなった旨いジャムを今朝も楽しんでいた。隣の皿のポテトサラダに振りかけたクミンがジャムに飛び込んだらしく、知らずに食べた舌の上でクミンの香りが弾けた。モモとクミンは相性がいいことに気が付いた。我が家のモモがそのままアラビアの大地に繋がったみたいで、大脳の官能中枢を駆け抜け、鼻へも抜けた。

今年のモモの収穫は紙袋をかけよう。モモが好物のスズメバチにはご遠慮願って、クミンや異国のスパイス類でモモを楽しんでみよう。

481  「嗚呼、持っていかないで!」

カラスのクルミ伊達市で歴史講演会があっての帰り、会場となった消防署の横道を車で通り過ぎようとしたその時「パーン」と屋根の上に何かが当たった音がした。突然のことだったので、本当に驚いた。まさか隕石ではあるまい、クルミ大の石ころが直接当たった音だ。降りて確認したら、まさしくクルミ大の「クルミ」。瞬間、カラスの仕業に巻き込まれたと気が付き、見上げると消防の屋根から覗き込むハシボソガラスと目が合った。

クルミで遊び、結果旨いナッツにありつけるなら、尖った嘴は最良のアイテム。上手くいくとは限らない。丁か半かの賽の目に、賭けて通りかかったのが私の車。驚いたけれど、カラスの行動を探っている私にはよい証拠品、と頂くことにした。

478  目覚めの時だ

昭和新山雪解けが進んでいたが、明け方に少しの降雪があった。北風が新山ドームに噴気は右から左へ流れている。しかし農家の煙突の薪を焚く煙は逆方向へ。地上には南の風が吹き込んでいるようだ。水気を含んで濃い色のドームを見上げながらリンゴの芽が動き始める。三月は果樹の枝打ち、剪定の季節。

470  卵だけ

タマゴタケキノコ愛好会の仲間のために作った一品。タマゴだけのタマゴタケ。集まりには風邪でダウンして出席できなかったので、写真でお披露目と相成り候。ベースは鶏卵の中華風煮卵で、台湾では「茶葉蛋」としてごく普通の食品である。味はウーロン茶葉、八角、シナモン、生姜、紹興酒であり、醤油味で二日かけて完成。ご本尊の赤いタマゴタケは室蘭産ウズラ卵のご当地ものにて御座候。この季節は地吹雪舞う地面の下で、あと半年先を夢見てひたすら熟睡中だ。今年の夏、深い山の林床で出会えることを願いながら、こちとらもまた、首にマフラー巻き付けて半身は布団の中の沈澱中。

467  タラを打つ

タラを打つ室蘭市の太平洋に面した漁港近くの住宅地で、男がハンマーで何かを打っている。思い当たる節があって、車を停め「懐かしい風景ですね、昔はよく見たね。スルメなんかも」と言ったら、「俺たちはいつもこうだ」という。歩道の縁に腰掛け「タラを打ち」を続け、立ち上がりながら二本差し出し、「うまいぞ」「掃除はしないんだ、あとはカラスが食う」と言って家に入っていった。

日曜日の午後三時、明日は時化模様。これからタラとマヨネーズと唐辛子で焼酎か。ご近所付き合いしたいですね。 近くのどの家の軒下にも、スケソウダラが寒風に揺れている。帰りの車の中の、叩かれて幾倍にも膨れ上がったむき出しのタラからは、凝縮されていた旨みがハンマーの力で弾けとび、肺の腑、胃の腑まで滲みこんでくる。

460  岩石を食べる

スコリア伊豆ジオパーク、ジオガシ旅行団(ブログ450を見てください)から新作が届いた。茅野八窪山スコリア。標本箱のような渋くしっかりした紙箱を開けて驚いた。これは本物のスコリアだと思った。いつも私たちが手入れをしているドンコロ山ジオサイトの露頭のスコリアと全く同じだ。軽石ほどは白くなく発泡程度が浅い噴出物である。伊豆天城の茅野鉢窪山も大室山と同じスコリア丘だという。ここ有珠山に隣接するドンコロ山もスコリア丘である。

お菓子のスコリアは完成度が高く、ドンコロ山を構成するスコリアにそっくりだ。並べてみたらどちらを口にしてよいか迷ってしまう。コケや地衣類の着いていないのがスコリアの岩石、いや間違えた。菓子の方はサクサクと口当たりもよく、ココアの香りも軽快で、地下からの噴出物とは思えない美味しさだ。また間違えた。