292 空蟬

エゾゼミ秋の陽をうけ緋色に輝くツタウルシに、エゾゼミの抜け殻が雨と風の中、落ちもせずしがみ付いた。暑かったこの夏のいのちの名残り。現人(うつしおみ)が転じて「うつそみ」となったというが、言の葉は生きもの蝉の抜け殻と結びついたあたり、たまゆらの時の流れをしみじみ感じる。夏の朝、薄衣一枚を残して17歳の光源氏の前から姿を消した空蝉は、自らの矜持を捨てはしなかった。

290 落暉残照

ギボウシこの夏の強かった日差しを耐えて、権勢をふるっていたギボウシも、此の処の朝夕の冷えと冷たい雨にあたって、一気に色づき始めた。墜ち行く者の光芒、枯れ行く前の高揚がそこにある。ギボウシは「擬宝珠」。日本の品種はシーボルトによってヨーロッパに伝えられ多くの園芸種となり、ホスタと名を変えて再渡来した。若葉の生命感もいい、派手すぎない花もいい。しかし、この透明な琥珀色は命が昇華する色だ。

 

289 黄金色の香り

マルメロマルメロが生った。一昨年苗木を2品種植えて、今年2本の樹で4個の収穫だ。やっと香りが出始め、収穫まであと1、2週。脳髄にじわっと浸みてくる甘い香りが待ち遠しい。原産の中東諸国には沢山のレシピがある。その名から出たというマーマレード、つまりジャムを作るつもりの栽培だ。ペクチンを充分に含んでいるから、そのとろみを凝縮させて砂糖をまぶしたゼリー菓子Marmeladaもいいね。

285 名残りの白菊

コハマギクコハマギク。削られ、埋め立てられて、有無を言わさず作った漁港の、分厚いコンクリートと鉄錆の隙間に咲いていた。室蘭の外海に面したあの懐かしい追直(おいなおし)の浜は消えてしまった。沖合にあったニラス岩は防波堤の続きとなり、あれだけ広かった砂浜は砂粒一つ残っていない。昔、海草研究所のあった崖のあたりで、弱い夕陽を受けている一群のコハマギクを見つけた。懐かしさと侘しさが滲んだ白だ。

283 木陰の炎

マムシグサこの季節遠目にも気付くマムシグサの赤い実。テンナンショウ属の有毒植物だ。蓚酸カルシウムなどの毒成分により、一粒食べても口の中に灼熱感と激痛が走るという。洞爺湖中島の増えすぎたエゾシカの食害からも逃れている。ミノカサゴ、サンゴヘビなどと同様派手な色彩で自己の有毒を喧伝しているようにも見える。生態系という時空の中での進化の妙味だ。澱粉を含む塊茎は救荒植物だともいう。古来ヒトは無毒化させる手法を考案しながら食の文化を築き上げたが、それだけ過酷な自然を生きてきたということなのであろう。

281 野生と畏怖

恵山火口壁私たちの内面には自然のあらゆる事象を敬う心が備わっている。言い伝えも文字も関係なく、自然の中で岩を跨ぎ樹に凭れ物陰で命を繋ぐ中で培われたものだ。人類は勿論、ほ乳類、爬虫類すべての生きものに存在する普遍的な感性なのだ。 恵山火山の山体崩壊した火口にいくつもの観音、地蔵、道祖神が祀られている。荒らぶる景観と連接する霊交(コミュニオン)。目の前の津軽海峡を隔てて恐山がある。

280 火の山「恵山」

恵山渡島半島東南端の恵山に出かけた。いつも噴火湾を隔てて遠望しながらいつかはと思っていた火山だ。4~5万年前に激しい噴火をはじめ、いくつもの溶岩ドーム形成、火砕流、山体崩壊を経て1874年の噴火を最後に現在にいたっている。崩れて広く開いた活動中の火口は画像の山頂部の陰にあたり、麓の海岸線に沿う恵山の市街からは見えない。実際に登ってみて驚いた。小さいけど見事に大きな活火山。

279 リンゴとカラスと釣竿と

落とされたリンゴカラスに裏庭のリンゴを落とされて収穫が減ってしまった。今朝もまた荒らされて、それも私の好きな早生の津軽と王林。思い立って取り出したのが、以前芦ノ湖でコイ釣りに使っていた4.5mの愛竿。ABUのリールにはまだ200mの釣り糸が残っていて、竿先を操りながらクモが巣を作るように10数本の樹に糸を張り巡らした。カラス達はいま冬に向けて群れを構成中でいくつもの集団で出没している。個体間の順位もこの時期に決まる。カラスも私も冬の準備中。

278 傍目八目

スズメバチの巣パークゴルフ場からの昭和新山のガイド中にスズメバチの巣を見つけ、事務所に伝えた。同じ日の新聞に近くの豊浦町で草刈り中にスズメバチに刺され亡くなった方のニュースが載っていた。私も不注意から二の腕を刺されたことがある。最初の二日間は酷く腫れて痛みと灼熱感、次の一週間、腫れはは青紫に痛みは痒みに変わり、完治まで3週間。ここで見つけた巣は頭上2m。プレイに熱中している人には見えぬらしい。

277 味が濃いぞホワイトプラム

ホワイトプラム経緯があって10年前2本のプラムがわが家に移植された。日本在来のプラムがアメリカで改良後大正時代に里帰りしたホワイトプラム。日本のスモモは中国原産だが、西洋スモモはカスピ海沿岸が原産。トルコをバス旅行した時に採り残しの黄色いスモモを帽子に摘んで仲間と食べたのを思い出した。旨かった。同じ味をわが家で味わうなんて。2kgの果実に2kgの砂糖、10gのシナモンを加えて3kg程のジャムを得た。世界に根を持つ濃密な味。