84 蒲公英

タンポポ  一面のタンポポの向こうの昭和新山と有珠山、春爛漫の壮瞥の野面です。山は柔らかな緑に包まれ、ヒバリやウグイスの声が聞こえます。穏やかな風土と豊かな食材に恵まれた町です。この有珠山、三十数年の間隔で噴火を繰り返してきました。次の噴火まで折り返し点を過ぎたようです。大きな自然とつながっています。そのような生活をしたくってこの町に移り住みました。

82 日蔭の嫡流

シダ植物 昭和新山の谷あい、林の奥の湿った窪地に広いトクサ群落を見つけた。オシダとクサソテツ(コゴミ)が漏れる陽を受けて丈をのばしている。この三者、いずれも胞子で増えるシダ植物。葉脈を持つ真葉植物では種子植物と肩を並べる種群だ。ササ類が侵入していない林床で、いろいろなシダが生育している。噴火でリセットされた植生が遷移の途中でこんな別世界を見せてくれる。

78 アフンルパロ

アフンルパロ 白老町虎杖浜のアヨロ海岸にアフンルパロ(アイヌ伝承のあの世への入り口)がある。約4万年前のクッタラ火山起源の熔結凝灰岩が波食されたものだ。昔は満潮時に舟で入れたという。今はフリークライミングを楽しむ人たちのよいゲレンデとなっている。辛うじて残された身近に遊べる海岸だ。海辺の生物を護り、地質・民俗的遺産として後世に引き継ぐべき良質な景観である。

75 傾いたプール

傾いたプール 旧洞爺湖幼稚園の傾いたプールにも春がやってきた。エゾアカガエルの卵塊がいくつも浮かび、もう泳ぎだしているのも見つかる。ジオパーク関連の会議を終えて皆で繰り出した。ここは有珠山2000年噴火の遺構で、火山と生活を考える、格好のジオサイトだ。600m先の噴火口からの噴石が、遊具のパイプを曲げ、園舎の壁に突き刺さり、インパクトクレーターを園庭のあちこちにつくった。このプール、誰かがクリノメーターをあてたら、7度の傾斜角が出た。

72 擦痕面

擦痕 昭和新山の溶岩ドームの東測面に滑面を見つけた(写真中央)。昭和新山では激しい噴火活動の後期、1944年末あたりから溶岩ドームが上昇し始めた。土壌は熱により変性して煉瓦のようになり、ドームの成長につられて、擦痕を伴って滑り面をつくった。写真右側のブロックが右上(頂上方向)へせりあがったように見える。現在、間近に見られるのはここだけだという。

71 春嶺

有珠山 ひと雨ごとに大気は軟らかくなり、南東の風も入って、有珠山は雪解(ゆきげ)の時を迎えました。硬い芽も膨らんで、待ちに待った芽吹きの季節です。畑が少し乾くと、機械が黒い土を起こし始めます。今は一息をついている火山、有珠山の麓での農家の生活の始まりです。初チョウ、初ヒバリもこの一週の間に見つけました。一気に春本番へとなだれ込みます。

70 大伽藍

凝灰岩の崖 室蘭絵鞆半島の所々、イタンキ、トッカリショ、タンネシラル、チヌイェピラなどにこの白い断崖が顔を出す。新第3紀中新世に海底火山から噴出した堆積物で、成層の灰白色の部分は凝灰岩、灰色は安山岩の砕屑層だという(北海道地質百選・田近氏)。帯状の黒っぽい部分は火砕岩塊だが、詳細は不明だ。この崖はまだ人の手がついてはおらずウミウたちの聖域となっている。

68 海蝕洞

海蝕洞 室蘭の絵鞆半島の太平洋側には100mを超す切り立った断崖が随所にある。岩礁には潮上帯から潮下帯まで豊かな生物群集が見られ、特に潮間帯の群集は北太平洋を特徴付ける実に見事な生態系を形成している。この海は生物地理学上かけがえのない要衝の地なのだ。白い断崖はかつての海底火山の噴出物だ。その下部にはいくつもの奥深い海蝕洞が口をあけている。

海蝕洞Ⅱ 室蘭市はあまり海岸の素晴らしさには眼を向けていないようだ。祖先が残してくれたイタンキからエンルムエトモまで緑なすミズナラで覆われていた丘陵や山は削られ、あれよの間に防波堤が沖まで伸び、岬や小さな入り江は埋め立てられてしまった。この街が誇りとし拠って立つところは、岬に囲まれた小さく豊かな入江と、生きものたちが安らげる自然のままの海しかないのだが。

64 春満月

春満月 六日の夕方、家人の「あっ、春満月」の声につられ、見ると雪の残る山の端に見事な満月。カメラを引っ掴んで、凍っている泥道を走りすぐに撮ったのがこの写真。この後、「月に叢雲」の風情となり、寒さに退散した。九日、十日は春の大潮で、潮位が-4cm、-2cmと一年で一番の引き潮となる。長靴を履き、ピンセットとカメラを持ち、室蘭の磯へタイドプールの観察に出かけよう。

59 雪残る

残雪の有珠山 今年は春が遅い、とだれもが言う。気温が低い日が続いて、次に降った雪が融けきらないうちにまた少し降る。長流川の河原ではネコヤナギが銀色の穂をつけているのだが。伊達市上長和から間近に望む有珠山の山頂部。この雪は直ぐに融けそうだ。地肌が見える部分は地熱のある場所だ。手前の崖は数十メートルの高さを持ち、約4km続く。地質図によると非アルカリ苦鉄(マグネシウム・鉄)質火山岩となっている。古有珠山の噴出物なのだろう。